↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
義体の女神  作者: 鈴木亜紀
第一章
43/62

兆し②

 格納庫はオレンジ色の作業着を着た人間が右往左往していた。

 メカニック達は機体のチェックと新たに来たヴィクトリアの整備に追われている。普段空いていることが多い壁際のカタパルトにはシルム隊のフェンリルが、中央にはゲヴァルト隊のグレンデルが並んでいる。

 一週間前まで迷彩柄の機体があったところは空いたままになっている。

 格納庫内をぐるっと見回したユキは視線をイエーガー隊のカタパルトへと向ける。

「黒椿……」

 カタパルトの横に片膝をつく形で鎮座していた。右腕を失い、傷だらけになったその姿は皇帝を前にした近衛兵のようにも、敵将に首を垂れる捕虜にも見えた。

 見上げていた目を伏せると後ろから声が掛かった。

「ユキちゃん、後ろ後ろ」

 振り返るとソフィアが目配せをしている。

 その目の動きに従い焦点を更に遠くへ合わせると軍服を着た金髪の女性が立っていた。

「あ、エリザさん」

 彼女は青い瞳を白黒させながらユキを見ている。

 その表情がみるみる変わっていく。

 驚愕、安心、そして歯を食いしばるように口元が歪んだ。

 エリザは顔を伏せて走り出す。

「エリザさん?」

 その俊足は更に加速する。

「え、ちょっと……」

 緊急車両に道を譲るようにソフィアが一歩下がった。

 加速を続けるエリザがその制動距離内にユキを捉える。

 やっと顔を上げた彼女は目を赤くして涙をためていた。本当に泣くほど心配してくれていたのか、と驚くのとエリザに飛びつかれて倒れたのは同時だった。

「ユキ! よかった、ユキ」

 エリザの声はよく通る。格納庫にいた全員が動きを止め、何事かと見守っていた。

 その視線をソフィアが咳払い一つで霧散させる。

「え、エリザさん、首、首しまってます」

 彼女の腕はユキの首に回っていた。

 感情のままにギュッと力を込めるのでチョークが決まっているのも気付いていない。さらに人の話も聞いていなかった。よかったと繰り返し、すすり泣いていた。

「……!」

 たまらずタップするとやっと力を緩め、体を持ち上げた。

 息がかかるほど近い距離に顔が来てようやく目元が赤く腫れていることに気付いた。

 涙を拭うために目を擦った跡。

「ご心配をおかけしました、エリザさん」

「ホント心配したんだぞ」

 一つ二つとユキの頬に涙が落ちてきた。

 初めて見る表情というのは目を奪う。

 悪戯に笑い人を茶化すときとも真剣に絵を描くときとも違う。顔をくしゃくしゃにした純一な笑み。

 この人は真正直な人だ。思ったことを表情にだし、言葉にもする。

 改めてそう感じたユキの瞳に銀髪が写る。

「おふたりさん、そろそろいいかしら?」

 微苦笑するソフィア。メカニック達は作業を続けているが、意識は床で重なる二人に向けられていた。

 大きな咳払い。今度は男のものだった。

「お前ら、そんなところで寝ていると邪魔だ」

 腕を組んだシゲフミがソフィアの横に立っていた。メカニック達も焦り顔になっている。二人は立ち上がり、ユキは軽く服をはたき、姿勢を正した。

「シゲフミさん、黒椿のコア移植お願いします」

「ああ、そうだな」

 ユキの患者衣を一瞥してから黒椿の方へと歩き出す。彼女の横を通り過ぎたところで足を止める。

「それから、若い娘がそんな格好でここにくるな」

 上着を脱ぎ、ユキへ放り投げた。軍服、パイロットスーツ、作業着。それがここでの正装。青ストライプのガウンはとても目立つ。といっても視線を集めたのは主にエリザの言動のせいだが。

「そんな薄着でまた体調崩したらどうするんだ」

 捨て台詞を残して二割増しの歩幅で足早に去った。その背中に向けて三人はクスッと笑った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。