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義体の女神  作者: 鈴木亜紀
第一章
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災厄のあと③

 自ら明かすべきか迷っているとソフィアが口を開いた。

「ベルとはどんな話をしたの?」

 話しやすい内容に話題を変えた。

「今回の襲撃のことやこの基地のことについて少しだけ」

「そう。じゃあ、私が仲間を撃ってここに来たのも聞いたの?」

 体を真っ二つに裂くほど鋭利なことを自然な流れで口にした。

「……はい、エリザさんとマリアちゃんのことも聞きました」

 ソフィアの顔が少し歪んだ。微苦笑を浮かべる。

「知られてしまったのね。しょうがないのだけれど」

「本当なんですか? 脱走兵を撃ち落としたって」

「半分本当、半分嘘」

 一瞬振り返り、言った。

「それはどういう――」

「私もひとつ確認したいことがあるの」

 有無を言わせぬ迫力があった。ユキは金縛りにでもあったように首を縦に振ることしかできない。

「ユキちゃん、あなた失楽園プロジェクトの被験者でしょ?」

 喘鳴。

驚きで吐息を声にすることが出来なかった。

なぜ極秘プロジェクトの名前を知っているのか。

ユキは思いを巡らせる。

 被験者である可能性を疑う理由はすぐに分かった。

高すぎる共鳴率。戦闘中の情報は記録として残る。ソフィアであればそれを目にする機会もあったはずだ。

そして今回基地を襲ったのが雌雄の羊でその標的にされた。しかし、この推測はプロジェクトを知っていなければ成り立たない。

 時間にしてコンマ五秒の思考。

 戦闘中であれば命を落とし、ソフィアの前では肯定を示すことになった。

「やっぱりそうなのね」

「なぜその名前を知っているんですか?」

 ユキは誤魔化しきれないと悟った。

「以前そのプロジェクトの被験者にあったことがあるの」

 ソフィアはこの基地に来る前には前線の軍艦に配属されていた。プロジェクトの枝葉は壮大に伸びていた。

「その人は今も軍に?」

 将来の可能性の一つ。前線でリーゼと戦うパイロットと開発基地で実験を行う自分では境遇が違うため大して参考にならないことは分かっている。

「いいえ、さっき話した脱走兵、その子がそうよ」

 捕獲命令を無視してコックピットを撃ち抜いた相手。しかし、ユキが本当に驚いたのはその後に続く言葉の方だった。

「今はどこで何をしているのかも分からないの」

「生きているんですか?」

 思わず声を上げた彼女にソフィアは大きな目を更に見開いた。

「連絡先は知らないから、おそらく、としか言えないのよ」

 時折見せた気迫が嘘のようにきょとんとした顔でユキを見返した。

「あ、いや、そうではなくて――」

 生い立ちが露呈し、胸を締め付けられる思いをしていたユキは肩透かしを食らった気分だった。

「コックピットを撃ち抜いたと聞いたんですが……?」

 言わんとすることを理解し、ソフィアは口を丸く開ける。

「脱出した後に撃ち抜いたの。レールガンならベイルアウトを使ったのか調べられないから」

 ベイルアウトとは非常時にシートごと脱出するための装置。使用すればハッチの周りにその跡が残る。レールガンで撃ち抜けばその痕跡は跡形もなく融解し、証拠も残らない。

「そんな理由があったんですね」

「まさかまたそのプロジェクトの子に会うとは思わなかったけどね」

 にっこりと微笑んだ。

その笑顔を見たユキは自分の選択が間違っていなかったと安堵した。

「もしヴィクトリアに乗るのが嫌になった時は相談してね」

 もう隠す必要がない。相談できる相手がいる。

「はい、ありがとう、ござい……ます」

 精一杯声を絞り出した。

 涙を浮かべ、唇を噛んでいたが、彼女の魅力を一番引き立たせる清麗な笑顔だった。


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