追跡戦③
ドッグファイトが再開した。
ライフルを避けながらリリィをいなし、ツヴィリングで反撃をする。ライフルと同時に撃ったショットガンが脚部に命中した。
「ますますってどういうこと?」
頭痛と吐き気は酷くなる一方だったが、それに比例して頭が冴えていく。敵の動きを感じ、思考を言葉にすることが出来た。
「そのまんまだよ。あなたはいずれあたしたちに助けを求めることになる」
リリィは距離をとる。被弾した脚部からは細く煙が上がっていたが機動性に変化はない。その背中に向けてショットガンを連射した。
「プロジェクトが露呈した場合のことを言ってるの?」
尽く避けられる。が、その先を狙ったハンドガンは命中した。
「ちがうちがう――」
被弾したのはリアユニットの四本のうちの一本だった。風穴の空いたそれはすぐさまパージされ、空中で爆発する。
「参っちゃわないようにする薬があるんだよ」
彼女が言っているのは精神的負荷を軽減する薬のことだった。被験者だけで構成された団体であればそういったものがあっても不思議ではない。
「そんな薬まで作ってるの?」
「そりゃそうだよ、第五世代は薬で開発されたからね」
ツヴィリングの空になったマガジンを吐き出し、盾で直接装填、ローの方へと機体を向ける。彼女もリロードしたところだった。残りのマガジンは一つ。このまま戦えばすぐに弾切れを起こす。それを危惧してか攻撃の頻度が減っていた。
秘匿という言葉を知らないのか、とローは呆れた声で呟く。同時にトリガーを引いていた。
ユキは黒椿を駆りながら、ずっと疑問に思っていたことを言葉にする。
「何でプロジェクトに参加したの?」
返事はなかった。これまで全て即答していた彼女が初めて沈黙した。
「第五世代は子供のときにプロジェクトに参加したんでしょ?」
「……メーアから聞いたのか? 理由はあなたと同じだ」
「私と?」
生まれた時点で既に被験者であった第三世代と同じ理由。ユキにはその意味が分からなかった。そもそも理由などない。人間として生を受けた時点でプロジェクトに参加させられていたのだから。
ローのライフルがハンドガンを貫いた。左腕にもダメージを受ける。
「参加したのではない。最初からプロジェクトの一部だった」
そして気付く。彼女らにも理由などなかったことに。
「私達もプロジェクトのために作られた子供だった」
抑揚のない口調のままだった。それでもユキには感情が伝わってくる。怒りと悲しみ。その二つが混ざった復讐心。真っ黒だった。
「そっか、私と同じ、生まれたときから決まってたんだ」
ククリナイフを抜き、振り投げた。ブーメランのように回転しながらローに向かっていく。
「被験者はみんなそうだ。そこに個人の意思なんてない」
弧を描いて迫るナイフを横目に流し、それを先読みしたツヴィリングの二種同時射撃も躱す。同じ手は食わなかった。
「だからそんなにも復讐したいの?」
「……!」
ノイズと聞き間違えるほど小さくローの感情が漏れた声が聞こえた。そんな気がした。
「ロー?」
「……」
また返答はない。代わりに彼女の女騎士がフルバーストでライフルを放ち、黒椿も応戦した。ライフルの弾が切れ、ショットガンを連射する。
最低限の動きで回避しながら最後のマガジンを装填した。
「ロー! 後ろっ!」
リリィの叫び声に従い機体を反らすと、女騎士の右腕が切り落とされた。ククリナイフが大きな円を描いて戻り、黒椿の盾に収まった。
「これほどとは……」
これまでの連射がこれを狙ったものだとすれば想像以上の技術だ。誘導性のないナイフが後ろから迫れば誰も反応出来ない。
「油断してるからだよ」
「自分のリアユニットを見てから言え」
右腕を失った女騎士は同時に武器も失っていた。それでも彼女に焦りはない。
「だいぶ侵食が進んでいる。そろそろ時間だ」
「――!」
フェンリルの姿が歪む。霧に包まれるように輪郭がぼやけていった。
「あ、れ……?」
ユキは視線を巡らせた。敵機だけではない。目に映る全ての色が消え、視野が狭くなっていく。これが敵の攻撃ではないことはすぐに分かった。
グレイアウト。ブラックアウト寸前の状態だった。急旋回時に起きる脳への血液不順が平常時におきた。
「――っ!」
ローのライフルが黒椿を撃ち抜いていく。アイゼンフリューゲル、ツヴィリング、右腕が被弾し誘爆を防ぐために自動的にパージされる。
思考の止まったユキを襲う衝撃。旋回し降下してきたリリィが黒椿を蹴り飛ばした。
「きゃあああ――」
シートに押し付けられる体。急接近する砂丘。
落下の勢いをそのままに砂漠に激突した。正面から落ちた黒椿は半分ほど地面にめり込む。
完全に動きを止めた。




