義妹②
格納庫内でヴィクトリアが飛び立った轟音は居住区へと続く廊下にも響いていた。
レジスタンスの待ち伏せは少なく確実に距離を縮めていた四人は痛いほどに反響する音で足を止めた。
「誰だこんな無茶な出撃をしたのはっ!」
カレンが叫んだ。銃を構え周囲への警戒は続けたまま眉根を寄せる。その後方、曲がり角でソフィアは基地地上部と連絡を取っていた。
「警備棟、状況は?」
部屋を出る際に念のためと付けてきた腕時計型の通信機が役に立った。
「ソフィアさん、敵戦力は残り二割程度、現在タランチュラが応戦しています。それから――」
返答は先ほどと同じ人物で、落ち着いた口調だった。
「ヴィクトリアが二機こちらに接近してきます。機体コード・アンノウン、所属不明です」
接近する機体は味方の応援でないことは明らかだった。軍のヴィクトリアには全て識別コードがある。それが無い機体は運用前に奪取されたものだ。
「おそらくレジスタンスの増援かと思われます」
ソフィアは生返事を返した。基地を襲ってきたレジスタンス、雌雄の羊はその主張から女性パイロットを受け入れるとは考えづらい。そこに女性しか動かせないヴィクトリアの接近。彼女は第三勢力の可能性を考えていた。
「それで、今出撃した機体は確認できた? グレンデル? ユニコーン?」
「迷彩柄のグレンデルです」
その言葉にゲヴァルト隊の二人の視線が交差する。居場所の分からないベルと彼女でしか起動しない機体の出撃。可能性はひとつだった。
「……脱走?」
ラウラはカレンに答えを求めるように呟いた。行ってみれば分かる、と諌めて進行を再開する。ソフィアとエリザもそれに続いた。
「了解、こちらはもうすぐ格納庫に到着します」
「了解しました。敵機は速度変わらず接近中ですので……」
淡々と続いていた報告が止まった。遠くから銃撃戦の音だけが聞こえてくる。。
「どうしたの?」
「ソ、ソフィアさん、ハッチが開きました。格納庫から出てくる機体があります」
男は駆け足に口を動かし、目に映るものを言葉に変換していく。
「ユニコーンです。黒いユニコーンが出撃しようとしています」
ソフィアは返事をしてから通信を遮断した。事態は複雑に絡み合っていた。
「ソフィア、これはどういうことなんだ? 想像でいいから現状をまとめてくれないか」
これじゃ集中できないと続けるカレンにラウラも無言で同意していた。エリザも横目に視線を送っている。
三人とも大方の予想はできていた。ただ、その確認をしたかった。
「可能性が高いのはベルの裏切り、もしくは脱走」
「裏切りと脱走は何が違うんだ?」
「レジスタンスの襲撃に合わせて逃げたのでれば脱走。レジスタンスを招いたのがベルであれば裏切り」
カレンは怪訝な顔つきで聞いていた。
「防衛システムの異常、格納庫内でスラスターを使用しての出撃……裏切りの可能性が高い」
ラウラが振り返る。口を開いたが言葉を飲み込み、目を伏せた。
エリザが代弁する。
「ユキは? ユキもですか?」
「そこまではわからない。ベルと共に行ったのか、それとも追っていったのか。いずれにしても基地に接近する敵に対応しなければいけないわ」
「二人の追跡は――」
「基地の防衛が優先」
静かな声がエリザを制した。
「所属不明のヴィクトリアが二機、護衛機を複数連れた爆撃機が五機、別々の方向から迫っているの。時間がないわ」
冷酷ともとれる口調。彼女の立場と責任感がそうさせた。三人もそれが分かっているので反論する余地がなかった。返す言葉は一つしかない。
「……了解」
ソフィアはエリザを一瞥する。
「エリザ、私達の中で一番早いのはルーンよ。頼りにしているわ」
後方支援を目的としたネローザとガンナーユニットのグレンデルでは追跡に不向きだった。
二人を追いかけることのできる機体はルーンのみ。
「了解です」
エリザも静かに、しかし、力強く答えた。その目は決意に満ちている。




