↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
義体の女神  作者: 鈴木亜紀
第一章
33/62

義妹①

 一人少なくなっただけで部屋は静寂に包まれていた。手探りで手錠を外したユキはパイロットスーツを着直し、こと切れた男のもとへ歩み寄る。

 逡巡。

 うつ伏せに倒れた男を転がし、銃と弾倉を抜き取った。

 真っ赤に濡れた銃。

 湧き出す吐き気を抑えつけてドアへ向かった。開錠しようと手を伸ばしたユキの頭を轟音がかき乱す。

 聞きなれたヴィクトリアのスラスター音。

 メーアが基地を出た音だった。

 急いで部屋を出るとそこは格納庫の最奥、ケースの積まれた更に奥だった。

 格納庫の状況を理解した彼女はすぐに息を止める。空調が緊急用に切り替わっていた。

 酸素濃度八%以下。人間が意識を失う限界値を下回った場合に起動する装置だった。この状況で息をすれば吸った空気に酸素を奪われる。

 密閉空間でスラスターを使用したことで酸素を使い果たしていた。周りを見渡すと既に何人か倒れている。どれも黒装束で武装していた。その下には血だまり。酸素欠乏ではなく銃で撃たれていた。

 空調が平常運転に戻る。

「一体誰が……」

 大きく呼吸をしてから周りに気を巡らせたが人の気配はない。

 ヴィクトリアや荷台の影を辿り黒椿の足元まで移動した。

 慣れない手つきで銃を構え、一歩、また一歩とワイヤーへ近づく。コックピットまで引き上げられる間は完全に無防備。敵がいれば一巻の終わりだ。

 銃に添えていた左手を離す。

「っ!」

 聞きなれないモーター音が背中から聞こえ、身を屈めながら振り返った。

 銃口の先には黒い箱。六つの脚、三つのレンズ、二つの銃口。

 施設防衛用自走式銃座。タランチュラと呼ばれるそれは、レンズの横に付いたランプを点滅させると興味を無くしたようにそっぽを向いて動かなくなった。脚をたたみ、銃口を収め、完全な立方体になる。

 待機状態だった。周囲に敵がいない場合、タランチュラは箱に戻る。

 安堵の息を漏らし、ワイヤーに手を掛けた。コックピットまで引き上げられると格納庫の全体が見えた。待機状態のタランチュラが四機、その周りには下で見たときよりも多くの死体が転がっている。

 逃げるように視線をシートに移し、ヘルメット被った。結われた髪も簪もぶつからない。すぐに追ってこられるように意図的にこの位置にしたのだろう。

 黒椿起動。

 感覚がシンクロしていく。

「第一コネクター、第二プロテクター開放」

 パイロットの音声を認識し、言葉通りに発進準備が進んでいった。普段は誘導員の行う作業も全て自分でやらなければならない。

「上部ハッチ開放、イエーガー隊三号機カタパルト上昇」

 あと二0秒。吸う空気は鉄くさく、吐く息は震える。

 あと一0秒。追いかけるべき相手はレーダーに示されている。しかし、答えは出ていない。

 あと三秒。頭部カメラが黒煙をあげる基地を映す。中の状況は分からない。

 0。フルスロットルで飛翔。義妹の元に向かう。返事をするために。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。