試作品試験③
格納庫に収容されているルーンの前には白い髪に白いひげを携えた古強者のような男が腕を組んで仁王立ちしていた。
オレンジ色の作業着を着ていなければ歴戦の艦長のように貫禄のあるその男、シゲフミ・モリオカだった。
既に実験の準備を終え、パイロットが現れるのを今か今かと待っている。といっても予定の時間までは結構ある。思ったよりもだいぶ早く作業が終了していた。黒椿は武器を持ち替えるだけのため、装備の変更は実質ルーンだけだったのが一番の理由だろう。
改めてその姿を見遣る。最大の特徴である三枚刃の付いた手甲から爪が一本減り、そのスペースを利用して従来よりも高威力のマシンガンが搭載された。おまけのように腰に付けていたライフルとそのマガジンは外され、代わりに地面まで届きそうな大剣をぶら下げている。その大剣には柄も鍔もない。
それを一瞥してからため息を吐いた。
「エリザが喜びそうな武器だな」
大剣は直接手甲に装着するものだった。これまでの爪では致命傷を与えられなかった大型の敵機でも単機で撃墜することが出来る。
シゲフミはその新兵器がなんとも虚しいものに見えた。
開発される武器にも流行り廃りがある。少し前までは高火力・長射程だった。ネローザのレールガンがその最たる例だ。
そして今は接近・格闘戦。建前は様々だが、実際は需要と供給の変化によるものだ。大戦初期、物資はあるがパイロットの少ない時代では少しでも生存率を高めるために敵を近づけない戦法が主流だった。現在は戦争の長期化に伴い物資が困窮の一途を辿っている。それに対してパイロットは各国から絶え間なく前線に送られ続けている。当時とは需要と供給のバランスが反転していた。今ではパイロットの生存率よりも戦争を続ける物資の確保を優先している。この大剣はそれを意味していた。若く未来のある少女たちが戦場で散っていく。それに加担しているようでやるせない。
それを知ってか知らずか、いや、おそらくそれを知っているからだろう、神は接近戦を好むパイロットを彼にあてがった。
「おやっさん、今回の試作品はどんなやつなの?」
トゲのある口調が背中に刺さる。噂をすれば影とはこのことだと思い、振り返るとパイロットスーツに身を包んだイエーガー隊が並んでいた。普段と変わらない微笑を浮かべるソフィア。緊張に頬を強張らせるユキ。口を尖らせ頬を膨らませたエリザ。全く統一感のない表情だった。
「今回はお前好みの武器だから安心しろ」
シゲフミは宥めるようにエリザに爪の説明をした。二枚刃になったこと、マシンガンが強化されたこと、そして、最大の変更点である大剣の使い方。
説明が進むにつれ彼女の頬は縮み、口角が上がっていく。機嫌が直り、目を輝かせていく。
「いいね。今回の試作品、いいね」
グッと親指を立てた。感情を顔に出すのは分かりやすくて助かる。
「この大剣ならアルバトロスも真っ二つね。ゼリーフィッシュだって、三回くらいで――」
「いや、それは無理だろ」
シゲフミが言った。
「単機でアレが落とせるかよ」
「落とせる武器を開発してよ」
無理難題を突き付けるエリザに、いいからさっさとルーンに乗れとジェスチャーで返事をした。ユキの方に視線を移す。
「お前の方は大きな変更点はないぞ。これまでのより構造が簡略化されたくらいだ。少し軽くなった。それから二つ同時に発射できるようになったくらいだな」
「制式採用モデルなんですよね」
「予定だがな。これまでの運用で問題がないことは分かっているから今回の実験は形式的なものだ。試し撃ちしてこい」
はいっ、と大きく返事をしてユキは黒椿の元へと向かった。
残るはソフィアだけ。今回の実験にネローザは参加しない。ただの監視役兼指導員といったところだった。開発された武器の実験を行うイエーガー隊の隊長機でありながら、ネローザが実験に参加することはほとんどなかった。量産機での運用が前提の武器を特殊性の高い特機で試験しても参考にならないからだ。
「ネローザには何もなくてすまないな」
メカニックとしての責任感で彼は一言述べた。
「いえ、特機ですから。実験に向かないのは分かっていますよ」
いつもどおりの柔らかな微笑が自嘲的なものに見えた。
本来、特機は戦艦に配備される。エースにイニシャライズされ最前線で戦うのが常だった。最高クラスの火力を誇る特機と現役最高峰の狙撃技術をもつパイロットがこんな僻地で実験の監視をしているのは例外や異例という言葉では足りない
「それに、制式採用されればその武器を使えますし。まして――」
ソフィアは歩き出した。
「量産機に使えてネローザに使えない武器はないですよ。銃器に限っては」
ワイヤーに手をかけコックピットへと引き上げられていく。
片手を上げ地上から離れていく彼女はどこか神秘的で、ただ、その先には天井があり、その上に地面があるため、むしろ、人間の性を表しているようだった。




