試作品試験②
「いくら避けるのが得意でも単機でゼリーフィッシュの射程に入ってはダメよ」
「……はい」
イエーガー隊の三人はシミュレーション訓練に隣接するブリーフィングルームの中央で反省会を行っていた。主にソフィアから二人へのダメだしとアドバイスだ。
「ミサイル発射口狙うのは定石だけれども、拠点や艦隊がいないときは武器を見てからね」
「……はい」
今度はエリザが返事をした。
「あと、攻撃する場所もね。船底の方が弾幕薄いけど、潰されたら元も子もないでしょ。それから――」
ソフィアのダメ出しは諭すような口調で淡々と行われる。
「弾切れは絶対ダメ。最終手段ね。他の選択肢があるときは――」
その後も作戦全体から細かな操作技術まで一通り指導を受けた。エリザとユキはメモを取り、ソフィアは訓練の結果を打ち出した資料に直接書き込んでいく。
反省会の終盤は開発された武器の話をすることが専らだった。特に今日は、このあと試作品の試験をするため話題は決まっているようなものだった。
「今日はツヴィリングと試作爪四号の実験をするの」
ソフィアはさもそれが常識であるかのようにぽつりと言った。ひとつも内容を理解できなかったユキは言葉が見つからず口を開けたまま動けなくなる。
「実験といってもユキちゃんがするのは確認程度だから大丈夫よ」
初めての実験で緊張していると誤解したソフィアはほんわかした笑顔で宥めた。その横で誤解しなかったエリザが口を開く。
「隊長、たぶんそれ違います」
「あ、試作爪四号じゃなくて爪試作四号だったわね」
「隊長、それ、違うとこが違います」
普段はしっかりしていて、とても頼りがいのある優しいお姉さんなのだが抜けたところがある。このままでは話が進まないので、ツヴィリングと爪試作四号が一体なんなのか説明するように促した。
「ツヴィリングっていうのはユキちゃんが今使っているライフルとショットガンがくっついている武器の制式採用モデルのことよ。厳密には制式採用予定だけれども」
「おおっ! 制式採用されるんですね」
ユキは驚きのあまり声を張り上げる。自分の使っていた武器が正式に配備されるのは嬉しさ半分、悲しさ半分という感じだった。
ある種の独占欲というやつで、自分だけの物ではなくなるのは少し喜べない。しかし、役に立っているという実感は悪くない。
この葛藤。
「予定、ね。実際に配備されるのはだいぶ先。ちなみに爪試作四号はルーンの新しい武器よ」
どんな武器なのかすごく不安だとエリザは口を尖らせていた。そんな彼女に視線を向けることなく、ソフィアは続ける。
「今回は今使っている武器とそんな変わらないはずよ」
「だといいんですけどね。それより――」
エリザは隣に座るユキを指差した。
「クロツバキには接近戦用の武器はつけないんですか?」
彼女の体がびくりと跳ねる。接近戦はあまり得意ではない。
「え、接近戦ですか……」
敵を圧倒する格闘性能を誇るルーン。残弾が尽きることとは無縁の武器積載量を誇るネローザ。黒椿だけが弾薬を使い切り、それに伴って戦闘力を失う可能性があった。
「ひとつくらいあった方がいいかしらね」
ソフィアは右手を頬に添え、首を少し傾ける。
悩ましげなその表情はバルビゾン派の絵画から抜け出てきたように様になっていた。絵になるとはこういうことを言うのだろう、と見とれていたユキは自分の名前を呼ばれているのに気づき、咄嗟に返事をした。
「は、はいっ」
「どうかしたの?」
「いえ、なんでもないです。大丈夫です」
「そう? それじゃ、あとでシゲフミさんに相談してみましょうね」
にっこりと微笑む。いつの間にか実験のついでに機体の武装も再度検討してもらうことになっていた。
「あ、そろそろ時間だから格納庫に行きましょうか。パイロットスーツに着替えてからね」
ソフィアが立ち上がったので、二人も返事をしながらそれに続いた。




