スクランブル③
緊急出撃したイエーガー隊の作戦会議は移動中に行われた。ソフィアが作戦の流れを説明し、各々の動きを指示する。
内容は至極簡潔なものだった。エリザが正面から近づきアルバトロスの注意を引き、迂回したソフィアが横から狙撃、同じく迂回したユキが更に後方から近づくアサルトの足止めを行う。緊急であることを除けば初陣に適した小規模・容易なものだ。
エリザと別れ、狙撃ポイントに向かうソフィア。ユキはそれについていくように横を飛んでいた。
「ユキちゃん、緊張してる?」
「いえ、大丈夫です」
言葉通り落ち着いた声だった。ソフィアは少し安心して笑みを含んだ声になる。
「無理しないでね。こっちもすぐに終わらせるから」
「了解です」
黒椿は加速し、上昇していった。先行する三機に気づかれないように距離を取りながら、後方の敵機のもとに向かう。
ネローザは減速し、降下していった。レールガンを握り、広げた翼を地面に突き刺す。
ソフィアは望遠レンズを覗いていた。レーダーよりも広い射程を持つレールガンのために搭載された特別な望遠レンズ。位置がわかっていてもレーダーの外にいる敵を捕捉することは出来ないため完全マニュアル操作で狙撃しなければならない。
「敵機確認。アルバトロス三機」
レンズに映っていたのは巨大な全翼機だった。凹凸ひとつない三角錐。この距離からでもはっきりと確認できる。両手のレールガンそれぞれで別の標的に狙いをつけた。照準は落ち着きなく動き回っている。それも二つ同時に照準が合うのは一瞬。
深呼吸を一回。
更に息を吸い、そのまま止める。
「――!」
高速の弾丸は同時に二機を貫いた。ぽっかりと穴が開き、向こうの青い空が見える。
二つの爆発。
残った一機は爆発を避けるように旋回し、高度を下げた。
ネローザは翼を地面から抜き、飛び立つ。狙撃に成功し、残り一体となった敵機であれば正攻法で十分に倒すことができる。
その一機に地面の方から銃弾が飛んできた。ルーンが既に接近し、攻撃を仕掛けている。
アルバトロスは再び高度を上げながら応戦していた。収納されていた装備が次々に現れ、平らだった装甲は武器庫のように仰々しく飾られた。
エリザも追撃のためにスラスターを吹かす。弾幕の薄い部分を探りながら、武装を破壊していった。ルーンのマシンガンでは本体に致命傷を与えることは難しい。
「あぁ鬱陶しい!」
ヴィクトリアの何十倍もある巨体に相応しい武装の数。エリザはスラスター近くの武装を集中的に破壊しアルバトロスに取りついた。
爪で装甲を裂きながらゼロ距離でマシンガンを放つ。
一度装甲を破ってしまえば中は脆弱なものでマシンガンでも易々とダメージを与えることが出来た。火花が散り、小さい爆発が複数起こる。
その爆風に乗じてルーンは距離を取る。
「隊長っ!」
目の前の敵に穴が開く。ネローザのレールガンだった。
「エリザ、次はユキちゃんの援護ね」
「了解」
爆発の光を背中に受けながらルーンは黒椿のほうに向かう。
「ユキは緊張してませんでした?」
「すごく落ち着いていたわ。本当に本番に強いタイプだったみたい」
フフッと最後に付け加えた。エリザも釣られて笑みをこぼす。初陣で緊急出撃、それに加えて上がり症。不安要素は多かったが、彼女が言うのなら大丈夫だろうとエリザも少し安心した。
そこに通信が舞い込んでくる。
「ソフィアさん、エリザさん、聞こえますか? 応答願います」
若く張りのある声。
「ユキちゃん? 戦況は?」
「アサルト三機撃墜。周囲に敵影なし」
溢れる感情を抑えきれず少し早口になっていた。小規模な戦闘とはいえ初陣で3機撃墜出来たのは出来過ぎた戦績だ。
「損傷は?」
「極めて軽微です」
いくつか掠った程度の損傷があるのみ。直撃はひとつもない。二人の感嘆の声が通信から漏れ、ユキを更に上機嫌にさせる。
「無事でよかった。合流してから基地に帰投ね」
「了解」
返事をしてから六十秒で黒椿は二人の元に戻った。クラスター弾は撃ち尽くしていたが、両肩のマガジンはほとんど残っている。
ネローザとルーンは地面に降りて待っていた。ユキは二機の正面に降りる。ツバメのスラスターがぼわっと砂を舞い上がらせた。
「おかえり、華々しい初陣だったわね」
先に口を開いたのはエリザだった。
「はい! 自分でも不思議なくらい絶好調でした」
舞い上がっているのは砂だけではない。敵を倒せないとバカにされ、逃げ回っているだけだと揶揄されてきた訓練学校の時の自分と決別した気分だった。
エリザはその後も新人の活躍を手放しで褒め、自分のことのように喜んでいた。
「アサルトと相性いいのかもね」
「シミュレーションのおかげです」
「あれは敵機の再現度かなり高いよね。操作性はいまいちだけど――」
二人の会話が脱線し始める。
「その話は一旦そこまで。帰投します」
ソフィアは一言で場を締めると、ネローザの翼を広げた。二人は声を揃えて返事をして、三機は同時に飛び立った。
「基地に着くまでの間は、どうやってアサルトを倒したかユキちゃんに説明してもらおうかしらね。報告を兼ねて」
語尾にフフッと小さい笑い声が漏れていた。
「それは少し恥ずかしいですね」
照れながらも嬉しそうな口調。戦果を自慢したいが謙遜を美徳とする日本の風習が邪魔をする。それがエリザの悪戯心に火をつけた。
「アタシも聞きたい。そのときの感情も言葉にして説明してよ」
「それはものすごく恥ずかしいです。っていうかもう罰ゲームです」
冗談だよと笑い声が通信を埋め尽くす。たまに目が本気のことがあるが、音声通信なので分からなかった。しかし、基地まで距離はあるので報告も兼ねて話すのも吝かではない。
どう話だそうかと考えていると、先にエリザが話し始める。
「真面目な話さ、ユキは避けるの得意だけど攻撃するのは苦手なんじゃなかったの?」
「人が気にしてることをズバリ言いますね」
いっそ清々しいほどに無邪気な毒を吐かれた。悪気がないことも分かっているし、その裏表のない性格にこそ好感を持っているのも事実だが。
「実際ニガテなんですけど、なんというか不思議な感覚だったんですよ」
適切な表現が見つからず、ゴニョゴニョと口篭もってしまう。いま思い出しても、なぜあんなに上手く立ち回り戦うことが出来たのかわからない。黒椿がこれまでの機体よりも高性能で操縦性も高いことが要因の一つであるのは間違いないが、それ以外に、それ以上に、重要な要因があったのは間違いない。ただ、それは証拠や根拠のないぼんやりとしたものだ。その不明瞭なものを示す言葉が見つからない。
これを説明することは困難だと思い、報告も兼ねて一から戦闘を振り返る。
「えーと、ソフィアさんと別れてから――」
報告するには少し遡り過ぎたと後悔したが、今更言い直すのも恥ずかしいのでそのまま続けた。基地に着くころには話も終わるだろう。




