スクランブル
ブリーフィングルームは明かりをつけていなかったので暗かった。
イエーガー隊の面々は席につき、プロジェクターが映し出す情報を頭に入れている。その三人の後ろには頬杖をつき悩ましげに頭を抱えるアルビナが座っていた。
予定していた模擬戦の反省会は、基地に入った一本の連絡で緊急対策会議に変更になっていた。
映像が終わり、パッと部屋が明るくなる。それと同時にアルビナが立ち上がり、正面に立った。
「さて、状況と作戦は理解できたか」
鋭い目はソフィアの方に向いていた。
「つまり、シルム隊を迎えに行けばいいんですね」
彼女がおつかいにでも行くように話をまとめたので思わずユキは声を上げる。
「ソフィアさん、そんな悠長な話じゃなかったですよ。出撃ですよ。敵ですよ」
「ユキ、落ち着け」
半パニック状態の彼女の頭を横に座っていたエリザが押さえつけ、テーブルに突っ伏すような格好になる。
「さっきの話聞いてなかったの? 敵はたった六機、余裕よ」
「問題はシルム隊の弾薬の残りが少ないことね」
二人の落ち着いた口調がユキをより困惑させた。テーブルから見上げるようにして口を開く。
「えっと、シルム隊のみなさんが武器の尽きかけてる状況で敵に追われているんですよね?」
エリザが手を放したので姿勢を正し、回答を待った。
「そうよ」
「そうね」
「その通りだ」
ソフィア、エリザ、アルビナの三人からほぼ同時に答えが返ってきた。そしてソフィアが続ける。
「ただ、始めての出撃がこんな緊急事態なのは少し心配ね」
「とはいえ、敵機の速さを考慮するとこの作戦はゲヴァルト隊では不可能だ――」
アルビナは先ほどまでプロジェクターに照らされていた壁に寄り掛かった。
「敵はアルバトロス三機、アサルト三機。問題はシルム隊よりアルバトロスの方が速いことだ。戦闘になれば、後ろのアサルトが追い付いてくる」
「は、はやく助けに行かないと――うぶ」
ユキが話している途中でまたエリザが頭を押さえる。
「ペイント弾でどうやって戦うのよ」
模擬戦でペイント弾を装備していたイエーガー隊の機体は格納庫で実弾装填と補給を行っていた。
そうですね、と口篭もりながら答えると手が離れる。
「いずれにしろ補給が終わり次第向かってもらう。作戦会議は以上、機体で待機せよ」
アルビナの一声に了解と声を揃えて部屋を後にした。
格納庫に向かう迷路の途中、ソフィアを先頭にエリザとユキがついていく。自然とこの順番になっていた。
「ユキ、緊張してない?」
「だ、大丈夫です」
声が震えている。心なしか顔も青ざめていた。練習でいい成績を残していても実戦ですぐ墜ちることは珍しくない。それは本人も分かっている。
「隊長、ユキが緊張に潰されてます」
「やっぱりいきなり実戦は難しいかしらね。シミュレーションと同じように動ければ問題ないけれど」
「だ、大丈夫ですよ。本番には強いタイプです」
顔の横でグッと握り拳を作った。二人は苦笑いを浮かべる。
格納庫に着くと作業真っ最中のシゲフミが声を荒げていた。テキパキと指示を与え、自分も作業を続ける。作戦のための武器はほとんど装備されていた。ネローザの翼の中にはレールガンに加えライフル二丁、ショットガン二丁、マガジン複数が付いている。黒椿の空いた左手にはクラスター弾を搭載したバズーカが握られていた。
シゲフミは三人が来たことに気づくと開口一番大声を張り上げた。
「早く機体に乗り込め。もう終わるぞ」
同じく大声で返事をして、それぞれの機体の元へ走る。緊急事態のため装備は整っていたがペイントの汚れを落とすまで手が回らなかった。当然といえば当然だが。
「せっかくなら綺麗な状態で出撃したかったな」
コックピットへと引き上げられながら、ユキはぼそりと呟いた。




