実機模擬戦
模擬戦は黒椿が圧倒的な機動性で優位に立っていた。
通信はオープン状態なのでエリザの文句とも愚痴とも取れる声が常に聞こえる。
「このっ!」
ルーンから放たれるペイント弾は着弾することなく上空へと飛んでいった。爪を使うことが出来ないため、中距離での撃ち合いになっていた。エリザにとってストレスの溜まる戦い方だ。
「ちょこまかとっ!」
ユキの反応速度と黒椿の機動性はルーンのマシンガンでも追いつけないほどだった。その上、少しでも近づこうとすればショットガンをばら撒いていてくる。
新しい主兵装にもだいぶ慣れてきていた。手を使わず盾を動かして直接マガジンの補充を行う。
「だぁー!」
攻撃が当たらずフラストレーションがうなぎ上りのエリザが叫んだ。対するユキは無言のまま蝶のように飛びまわり、ソフィアはそれを遠くから見守っている。
「この条件だとエリザに分が悪いかしらね」
「隊長! まだまだこれからですよ」
何気なく呟いた一言だったがエリザは即座に返答した。話しながらでもマシンガンは撃ち続けている。
避けながら距離をとったユキが言う。
「あの、エリザさん、そろそろ弾切れなんですが」
「じゃあアタシが一方的に撃つわよ!」
「鬼っ! 悪魔っ!」
本気の口ぶりだったので思わずユキも叫んだ。
「冗談よ。アタシももう弾切れ」
「二人とも、一度基地に戻りましょうか。それから被弾状況の整理と……反省会ね」
了解、と答えた声は正反対の声量だった。被弾をしていないユキと少なからず被弾したエリザ。彼女は反省会が説教に変わらないことを願っていた。
機体を基地の格納庫に収めるまでの間は訓練メニューについて討論をしていた。実戦未経験者が配属されたことのないこの基地では訓練も手探り状態だった。
「それにしても、ユキはほんとに避けるのうまいわね」
ユキは照れ笑いを浮かべて誤魔化した。エリザの機嫌は既に直っていたが失言をしないように警戒している。
「アイゼンフリューゲルのおかげですよ。フライトユニットより小回りが利くし、反応速度も高いです」
「もう少し小型だったらアタシも使いたかったんだけどなぁ」
「フライトユニットより一回り大きいですからね」
機体から降りようとワイヤーに手をかけているとシゲフミが黒椿の元へ駆け寄ってきた。黒椿の感想を心待ちにしていたようだ。普段よりも表情が柔らかい。ミクロ単位の変化だが。
「黒椿はどうだった?」
ユキが地面に足を付ける前に大声で聞いてくる。武装もリアユニットも問題無く機能し、想像以上の性能に驚いていることを伝えると満足気な表情を浮かべてソフィアの方へ歩いていった。その後ろをついていく。
「ソフィア、補給か?」
「はい、ネローザは参加していないのでルーンとクロツバキの補給をお願いします」
了解と返事をすると、ルーンの方を見上げる。
「ルーンはずいぶんと汚れちまってるじゃねえか」
そんな憎まれ口の返事代わりにエリザはフンと顔を背けた。シゲフミはルーンに装備可能な武器を幾度となく薦めてきたが、彼女が接近戦用以外の武器を受け取ることはなかった。唯一受け取ったのはライフルとそのマガジン。ソフィアに言われ渋々首を縦に振ったものだ。
「相変わらず強情だな。そんなんだから新入りに負けるんだ」
「負けてないわよ。同じ条件で戦ったわけでもないのに」
エリザは顔を背けたまま呟いた。本人も負け惜しみを言っていることには気づいている。シゲフミはそれを分かった上で続けた。
「戦争で同じ条件なんてことあるわけないだろ」
背けていた顔を向き直し、真直ぐシゲフミを睨む。
「特化するのが悪いとは言わないが戦況に対応できないんじゃ話にならないぞ。第一――」
「おやっさん、アタシだって分かってるわよ」
シゲフミの言葉を遮るほど大きい声だった。
「はい、二人ともそこまで」
ソフィアのいつもと変わらない柔らかい口調の一言が静まり返った空気を一蹴した。
「シゲフミさん、エリザが失礼しました。ただ、彼女にも考えがあっての事ですので――」
「それは分かってる。俺も少しでしゃばり過ぎた」
シゲフミはため息をつき、ルーンと黒椿の補給を行うためにその場を離れた。ある程度彼が離れたのを確認してからソフィアは続ける。
「エリザももう少し言葉を選びなさいね」
「……了解です」
言葉とは裏腹に反抗的な目を伏せていた。口論中、終始オロオロしていたユキはどうしていいか分からず、直立不動の姿勢をとる。
ソフィアの顔がユキの方に向いた。視線に気づき目を見開く。
「ユキちゃん、驚かせてしまったかしら? これはいつものことなの」
「え、あの、そ、そうなんですか?」
「これでもエリザはシゲフミさんと一番仲良いのよ。お互い言いたいことを言うタイプだから、気が合うのかしらね」
フフフと笑い、エリザの頭を撫でた。彼女も不満そうな表情のままだったが振り払おうとはせず、口を開く。
「気が合わないから喧嘩になるんですよ」
はいはい、と宥められ、それ以上は何も言わなかった。
「はい、それでは補給が終わるまでブリーフィングルームで反省会ね」
ソフィアは手をパンとならし、二人を先導していく。
「説教になりそうだなあ」
ぼそっと呟いたエリザの声は誰にも聞こえていなかった。




