地獄へのパスポート
さて。どうしたものか。会社がある駅には他の路線を使えば難なく行くことができる。しかし、なぜか私はこの死んでいる少年(断定ではあるが)に興味があった。私は人生に嫌気がさすことはあるが、自殺したいと思うことはなかった。やはり、思春期だと自殺したいと思ってしまうものなのだろうか。その後ろで五十代と思われる女二人が喋っていたことが耳に入った。
「馬鹿だねぇ。人生これからだというのに」
「これで運転見合わせなんだものいい迷惑よ」
「損害賠償とかすごいんでしょ?親にどれだけ迷惑をかけるのかしら」
私はこの二人は馬鹿だと思った。誰が死んだ後のことを考えるのであろうか。自分が死んだ後の世界なんてどうでもいいのである。一部の死んだ後を考える人間は極度の偽善者である。私はやはり、この少年が自殺を考えるに至るまで、何があったのかを知りたくなった。しかし、この少年の顔も名前も何も知らないのだ。私が唯一知っているのは、ぐちゃぐちゃに飛び立った脳みそだけであった。知りたいがどうしようもない。会社に向かおう。その時だった。何かを踏んだ。下を見るとそこには青色の生徒手帳が落ちていた。私は神だの仏だのをごちゃごちゃ言う人間は馬鹿だと思っていたが、この時ばかりは、神からの贈り物だと思った。私は馬鹿の一員となったのだ。そしてこれは神からもらった、地獄へのパスポートであった。




