25、ナタリー嬢の誕生日おめでとう。(マティウス視点)
ナタリー嬢とは特に劇的な進展はないまま、ナタリー嬢の16歳の誕生日になった。
ナタリー嬢はあまり意識していないのだけれど、16歳から夜会に参加できる。
アイステリア王国では16歳の誕生日パーティーから夜会に参加するのが一般的だ。
ナタリー嬢は、最近結構天然で恥ずかしがり屋な所もあるんだなと僕は勝手に親しみを覚えていたが、昼の催し物や王室関連の行事ではすんなりと僕のエスコートを受けいれる。
オランジェ侯爵家で開かれたナタリー嬢の誕生日パーティーにももちろん僕は出席して、ナタリー嬢とダンスを踊った。
ナタリー嬢の銀色の髪が動きに合わせて目の前で煌めいて、少しほほ笑む深みのある紫の瞳が僕だけを見ていて、とても満たされた気持ちになる。
タイミングを見計らってバルコニーに誘うと、これもまたすんなりと僕に着いてきてくれる。
「誕生日おめでとう。ナタリー嬢」
「ありがとうございます。今年もマティウス殿下に祝って頂いて光栄ですわ」
ナタリー嬢は今日で16歳になった。
今年、僕と二人で貴族学校に入学する。
最近、ナタリー嬢は16歳になって思うところがあるのか、『神の世界の作品』の視察活動に加えて、自分の支出を抑えて、修道院や孤児院、治療院等の福祉施設への寄付と慈善活動を行っている。
……僕は寄付とか慈善活動を行おうと自発的に思わなくても、王太子の活動予算として、金額から活動内容まで勝手に決められているので、割と、決められていることを全力でこなしていくだけだ。
ナタリー嬢は自発的にやっているのが素晴らしいと思う。
やっぱり尊敬できる女性だなぁ、と思う。
そんなわけで、最近慎ましやかにしているナタリー嬢にどうかとも思ったけれど、遠いデーモニウム王国というところから輸入された青いダイヤモンドがちょうど手ごろな大きさで、美しいナタリー嬢の首元にふさわしかろうと思い立ったらいてもたってもいられなかった。
出入りの信用できる商人に加工を依頼して、誕生日に間に合うようにペンダントにしてもらった。
箱から出して見せたら喜んでくれたので、嬉しかった。
「着けてあげよう」
オランジェ侯爵家の適度に薄暗く、適度に光魔法に照らされたバルコニーで僕はそう言って、ナタリー嬢の後ろに回る。
「まあ、ありがとうございます」
目の前に、夜会用の襟ぐりが大胆に開いたドレスで、先ほどまでしていた豪奢なネックレスはいつの間にか外されていて、真っ白な首筋が露になっていて、とても緊張した。
肌を傷つけないようにと、慎重にナタリー嬢にペンダントをつけてから正面に回ると、思った通り、白い肌に青いダイヤモンドが光ってとても綺麗だった。
「似合っておりますでしょうか?」
ナタリー嬢の微笑みに、僕は日ごろの練習の成果を見せるべく、
「ああ、とても綺麗だよ。月の女神のようだ」
と、貴族令嬢を褒める定型文を言って見せると、
「ふふっ」
ナタリー嬢がちょっと照れくさそうに笑ってくれた。
本当に心の底から嬉しかった。
「本当に嬉しいです」
ナタリー嬢が僕が思っていたことと同じことを思っていてくれていたみたいで、そう言うと、まだ何か口の中で呟いて、目線を下げた。
言ったことは聞き取れなかったけれど、ナタリー嬢の目線が外れたことが急に寂しくなって、僕は普段なら絶対しないような事をした。
「これからもよろしくね」
と、ナタリー嬢の額に軽く口づけをしてしまったのだ。
自分でもやってしまってからびっくりした。
でも、ナタリー嬢はもっとびっくりしたようで、サッと顔を上げて僕の顔を見ようとする。
でも、この状態で急に顔を上げると、
「わっ、急に顔を上げるとっ……」
と僕は半歩後ろに後ずさった。
(……危なかった!!)
僕がそのままの姿勢でいたらナタリー嬢と、ナタリー嬢と………………………………口づけしてしまうところだった。
え………?
ナタリー嬢と口づけ?
いやいや、僕は何をそんなナタリー嬢に失礼なこと考えているんだ。
僕みたいなものが、ナタリー嬢と。
いや、もうこのことは一旦忘れよう。
だめだ、頭から離れない。
瞬間、意識して見てしまった。
ナタリー嬢の口紅を引いた唇がどうにも頭から離れない。
僕は久しぶりに昔の僕のように真っ赤になって、あちこちの地面を見た。
そう、バルコニーの地面を見て落ち着こう。
チラッとナタリー嬢を見ると、ナタリー嬢も真っ赤になって、
「そ、そんな………」
と呟きつつ俯いている。
そんな、かわいいナタリー嬢を見てしまって、なおさら僕は落ち着かなかった。
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