18、卑怯な僕。(マティウス視点)
最近は、マティルダ・ユーリーとしてとてもナタリー嬢と仲良くなれた。
ナタリー嬢は僕に興味がないから『マティルダ』が『マティウス』と気づかないけれど、他の取り巻き令嬢たちは薄々気づいているのか、僕が出かけるのを見かける時の母上のような意味深な笑顔を向けてくる。
ナタリー嬢の取り巻き令嬢たちは、僕の意図をなんとなく理解しているのだろう。
ナタリー嬢と仲良くしている僕を何も言わないで見守ってくれている。
だから、僕は周りに甘えてこのぬるま湯みたいな関係をずっと続けていた。
いつかはきちんとナタリー嬢をだましていたことを話すか、マティルダとしてはいなくなってきちんと王太子としてやっていかなければと思いつつ、ズルズルとマティルダの格好をして、ナタリー嬢の文化視察活動に同行する日々を続けていた。
そんな僕だから、罰が当たったのだろう。
今日来たストレンジ歌劇場は民間の施設だったけれど、一応身分の高い僕や貴族たちも来るので、安全確認の下調べや当日の警備は万全…………のはずだった。
ナタリー嬢とオペラを楽しんでいると、大きな破壊音がした。
振り返ると、劇場の一角が壊されて、フードを被った男たちが次々と侵入してくる。
騎士達がいち早く僕たちを守るように防御を固めたが、ナタリー嬢が僕たちを守るように薄く光る結界の壁を張った。
警備も僕の護衛の騎士達も不審者たちに応戦しているが、どうも動きが鈍い。
あっさり賊が侵入したことからして、何か別の理由でこんな事態になっているのかもしれない。
突発的な事件に感じるけれども、不自然なスムーズさからして結構下準備をして侵入してきたのかもしれない。
ナタリー嬢が一生懸命結界を張っているけれども、賊がナタリー嬢に向かってきた所で覚悟を決めた。
「氷牢獄!!」
アイステリア王族が使える氷魔法を唱える。
自分が放った魔法の氷の輝きが目に眩しかった。
僕が魔法を唱えた途端、今まで賊相手に苦戦していたのが嘘のように、僕が認識した賊全員が生きたまま氷の中に閉じ込められる。
賊が恐怖の表情で氷漬けになったことに、我ながら何だか卑怯でえげつない魔法を使っているようにも感じるが、気のせいだ。
あっちが向かってきたんだから。
取りこぼした賊は改めて僕の護衛騎士たちが捕まえている。
「賊に、平民の使用は禁止されている精神魔法を操れるものがいないか特に尋問してください。襲われた状況が不自然すぎる」
「はっ」
僕はこの際マティルダの格好のままな事はさておき、護衛騎士たちに指示を出した。
幸い、騎士達は場合が場合なだけに真面目な顔で女装している僕の指示を聞いてくれている。
いや、うん、新人にちょっと笑いをこらえている人が居るね……。仕方ない。
「まだ周りに仲間がいるかもしれない更に人員を王宮からも呼んで、劇場の来ていた方たちの安全を確保して家に送り届けないと」
「この地区を担当している警備兵も呼び寄せます」
オペラの続きは名残惜しいけれども、こんな大事件が発生してしまったんだ。
僕は呆気にとられている様子のナタリー嬢の方を見ないようにして、皆にある程度、事態を落ち着かせる指示を出した。
……その後、大事件にも関わらず、僕の側に最後まで残っていてくれたナタリー嬢に向き直る。
「だましていてごめんなさい」
「どうして……?」
まずはこれを言わなくてはと思ったことに、ナタリー嬢が当然の疑問を返した。
マティルダ・ユーリーが僕だとは夢にも思っていなかったというような可愛い顔に、僕は困ってしまった。
「これは僕の被害妄想でもないと思うのだけれど、最初の顔合わせ、僕を見てうんざりしていたでしょう? イラッとしていたでしょう?」
「……それは……」
更にナタリー嬢が自分がそう思っていることを気づかれていないと思っていたのだろう。
僕の言葉を否定しなかった。
という事は、僕に対してナタリー嬢がイラっとしたのは、やはり僕の被害妄想じゃなかった。
「僕は会う前から完璧な貴族令嬢であるナタリー嬢を尊敬してて、頭が良くて王妃教育もばっちりで、でもナタリー嬢が婚約者に決まるまで13年もかかって……、その上、『神の世界の作品』の文化視察活動にまで力を入れ始めたナタリー嬢の前には、とてもこんな僕では立てないと思った」
僕は喋りながら、マティルダへの変装用の白いレースのヘッドドレスを取った。
自嘲の笑いが湧いてくる。
僕はこんなにダメな人間なんだ。
生まれながらの地位がなければ、ナタリー嬢と婚約なんてできなかっただろう。
不思議と、今はナタリー嬢の視線を正面から受け止められた。
「変装して着いていったときもあったのだけれど、取り巻きの令嬢たちと楽しそうにしている君を見て、僕も君と一緒に同じ時間を過ごしたくなったんだ……でも、それは言い訳だ。気持ち悪いよね。一国の王子たるものが女装して名前も嘘ついて婚約者にまとわりつくなんて………更に言い訳なんだけど、このドレスに見える服……一応は中はゆったりしたズボンなんだ。完全なスカートをはいているわけじゃない」
僕の気持ち悪さに何と言っていいのか分からないのだろう。
今度はナタリー嬢が、いつもの僕のように地面に向かってうろうろと視線を彷徨わせる。
高潔で完璧な才女のナタリー嬢には僕みたいな男、本当に似合わない。
「ナタリー嬢がとてもリラックスしたはしゃいだ顔を見せてくれて、僕は僕自身がナタリー嬢と仲を深められている気になっていた。仲が良くなったのはマティルダとしての卑怯な僕なのに。本当にごめんなさい」
謝ったけれども、僕は自分から『こんな気持ち悪い僕とは婚約は解消だよね……』とは言わなかった。
やっぱり僕は卑怯で、ナタリー嬢が僕を心底嫌になって、『婚約を解消したい』という意思を見せるまではナタリー嬢の婚約者で果ては結婚する相手としての座を誰にも譲りたくない。
読んで下さってありがとうございました。
もし良かったら評価やいいねやブクマをよろしくお願いします。
また、私の他の小説も読んでいただけたら嬉しいです。




