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第31話

 今更、魔獣の森に向かう事を、反対する者は居なかった。

 精神・肉体のレベル不足。ソレを補う為と言われては、ソレのレベルが十二分人に高い訳では無い6人に、(いな)やを云うべき立場に無いことは、明らかだった。


「ゼロさん」

「ん?何?」


 何か理由でもあるのか、ナナさんは俺に告げるつもりであったろう言葉を躊躇った。

 だが、既に馬車の馬無しで走る自動車に、御者台に座る俺とナナさんの声を、聞き取る者は皆無であろう。ソレを理由にしてか、ナナさんは躊躇いを振り払った。


「ゼロさんは何故、7レベルでは無いのですか?」

「それは難しい質問だねぇ………」

「宗教の教祖であれば、常に7レベルで在り得るんですよね?

 でも、ゼロさんは6レベルだと──」

「俺のアバターが、薬漬けで精神の覚醒状態を制限されているからだよ。

 まぁ、本来は病気だし、覚醒段階が高くなると、幻覚を見たりして、行動が支離滅裂になるからな。

 ともかく、服薬しなければ、タダの狂人と化す。

 そりゃ、服薬を辞めないだろうよ」

「レベル7に、なれなくてもですか?」

「恐らく。

 女性は第六感で感知するだろうが、俺たちは第七感で予測する事が出来る。

 コレは本来、レベル7の能力なんだ。

 だが、現に俺は未来をちょっとだけ見ることが出来る。

 但し、予想の斜め上を行く結果が待ってたりするから、必ずしも予想通りとはならない。

 例えば、再来年にはちょっと希望が見えている」

「………直近と云うには、ちょっと遠めの未来ですね」

「水暴走が、来年か、再来年には確実に止まる。

 それまで安全なら、その一年限りは安心だ。

 その次の年。俺は活動が可能な保証は無い。

 俺のアバターの安全は、恐らくは無視して良い程度の確信をしても良いらしいのだが、アバターの国が危機に陥る可能性がある。

 アバターという言い方を嫌うなら、マトリクスと呼んでも良い。

 俺のマトリクスは、丙午(ひのえうま)の破滅を危惧している。

 そしてそれは、個人の努力だけでは回避出来ない。

 だから情報を拡散している」

「………何故、そのようなことが分かるのですか?」

「情報のジグソーパズルだ。

 それは、本来、全ての人が自分の情報のジグソーパズルを組み立てている筈だが、俺のマトリクスは、(おおよ)そのジグソーパズルの全景が見渡せるだけのパーツを組み立て終えているという話だ。

 そして、アカシック・レコードの断片に触れた俺のマトリクスは、アカシック・レコードの性質上、回避出来ないものだと諦めかけている。

 サタン&ルシファーでありながら、麒麟でもあるが故に、個人の範囲で周知する程度の事はしているようだが、サタンであるが故に、手柄を立てることを面白く思わない連中が居ると思われる為に、大袈裟な活動をしないでいる。

 手柄を立てたら、暗殺される。坂本龍馬のように。明智光秀のように。J=F=ケネディのように。

 本来は、手柄を立てて歴史に名を残す人物にならねばならぬのに、今までの経験で、そうすれば必ずや暗殺される事に、ヤル気を無くしている。

 しかも、その為の重要人物の救済に、行わなければならないことは、世にも(おぞま)しき行為であり、違法であり、人として行ってはいけないことだ。そして、奴にそのための能力は無い。

 その代わり、代替行為(だいたいこうい)を頻繁に行っている。

 恐らくは、代替行為だけでも十分な筈だが、その結果を知る術を、奴は単独では持っていない。

 残念ながら、結果から推測して、十分だったのか否かを察するしかあるまい。

 恐らくは、無事で済む。世界が、美しい調和で出来ている限り。

 だが、最悪の場合、世界はあと4年で滅ぶ」

「………最良の場合は如何ですか?」

「少なくとも、55年は無事だ」

「それでも、随分と短い世界の寿命ですよね………」

「いーや。世界はそんなに(もろ)くは出来ていない。

 55年後も、破滅の回避にキチンと皆がその時期に努力していれば、誰か彼かが、世界の寿命を延長する」

「へぇー。巧く出来ているものですね」

「世界は美しい調和で出来ているからな。

 死神が、あと2年で続々と過労死し始めれば、お迎えが来る人が大幅に削減されるしな!」

「死神に寿命があるんですか?」

「そりゃ、唯一神様にも寿命があるからな。

 『不老長寿』はあり得ても、『真の不老不死』は存在しない。

 宇宙にも、その小宇宙毎の寿命はあるし、自分の生きている小宇宙が死ねば、『仮初(かりそ)めの不老不死』の存在も死ぬからな。

 ただ………宇宙の場合、小宇宙の滅んでゆく速度より、新たなる小宇宙の誕生の方がペースが早いから、全宇宙の完全なる破滅はあり得ない。

 例え全ての小宇宙が滅んでも、∞の混沌宇宙が残るし、そこからはまた、小宇宙が生まれる。

 混沌すら無い完全なる無に戻る事は、恐らくもう二度とない。『拡大再生産』という概念が出来た時に、その可能性は無くなった。

 世の中の全ての娯楽を全て満足行くまで楽しみ尽くすのには果てしなく長い時を必要とするし、恐らく、唯一神様は、飽きるペースより、新しい娯楽が作られるペースの方が早い。

 娯楽がある限り、唯一神様は宇宙の全てを滅ぼそうなんて思わないよ」


 そう云って、カカカと笑ってやると、ナナさんも満足したらしく、流れ行く景色を眺めて、目的地に着くのを待つのだった。

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