第23話
その日は朝早くから、一匹の獣に襲われて、苦戦していた。
獣と言っても、見た目はタダの猫だ。──但し、あらゆる魔法障壁を切り裂き、一度や二度殺しただけでは死なないその獣が、タダの猫と呼べればの話だが。
一度殺した手段で殺そうとしても、攻撃が当たらず、既に7回殺しているが、未だ死なず。
恐らくは猫は9つの命があると、一説には言われているから、あと2回殺せば良いのだろうが………。
単純な魔法で殺せたのは、たったの3回だった。それ以降は、魔法による攻撃は『魔法による攻撃』という一括にされてしまうらしく、どんな属性の魔法でも死ななかった。
毒魔法、呪い魔法となると別口のようで、その二種類では殺せた。だが、類似したバッドステータスは、その後、一つも効かなかった。
後は、バフ付きの蹴りで一回、魔法剣による斬撃で殺せたが、あと2回の手段が思い付かない。
試しに刺殺しようとしてみたが、当たらない。単純に回避能力が高いのか、それとも猫の能力として当たらない能力に目覚めたのか。
困り果てた時に見付けたのが、マタタビ!!
コレで、酔わせて2回の殺害を試みるのは賭けになってしまう。
なので、マタタビで酔った隙にナナさんと共に逃亡した。
ナニコレ?猫、強過ぎでしょ。最終的に逃げなくちゃならないとか………。大した傷じゃないけど、コッチもダメージ負ってるし。
死に場所を探しに行く死出の旅路とはいえ、ただの猫一匹に殺されて死ぬとか、余りにも不名誉だから、逃げ出した。
猫相手に逃げ出したのが不名誉だと言うなら、あの猫を倒してみて欲しい。
だって、窒息死すらしなくなったんだぜ?
猛火の上を平気で歩き、石板で潰しても死なない。氷漬けにした時には、1メートル立方の氷を秒で砕く。
あの猫、一体何者!?
倒さなければならない理由も無いし、アレ相手に逃げ出した不名誉などと言われても、その実状は実際に戦ってみた者にしか分からない。
マタタビが2度効いたとして、本当に殺せるものか、甚だ疑問だ。
三十六計逃げるに如かず。俺は敢え無く撤退の決断を下した。
幸いなことに、ナナさんは無傷だ。ヘイトは俺が握っていたので、俺が何回か引っ掻かれただけで済んだ。傷も極浅い。
猫も、追ってまで攻めてくる事は無かった。
………おかしい。
俺は魔力の消費を無視して魔法を使える筈だ。
だが、三度の魔法を凌がれた後、重力魔法でマイクロブラックホールで攻撃しても無効化されたのだ。
──どうしろと?
まぁ、普通の猫じゃなかったんだろうけど。
妖かしの類か。
どうやら、食べ物の匂いにつられて襲ってきたようだけれども。
それよりもマタタビの方がお好みらしい。
まぁ、弱点の無い敵なんて居たら、2人ではすぐに殺られてしまうのだろうけれど………。
コレは、仲間を補充する必要があるな。
という訳でやって来たのである。
──奴隷商へと。
まぁ、来た理由を聞かれると、『戦力の不足を感じて』で誤魔化さないと、『猫一匹に脅威を感じて』という本音を聞かれると、中々の恥になるのだが………。
でも、命を奪われる程の脅威であれば、逆に楽に死ねて助かるという気持ちが無い訳では無いんだけどね。
あの猫の攻撃力では、生殺しにされてしまうから、負ける訳にはいかなかったのだ。
せめて、一撃で心臓を貫いて欲しい。
贅沢を言えば火葬されたい。
その程度の望みも、きっと叶わないのだろうなぁ、と思いながら。
さて、どんな奴隷が居るのだろうな………。




