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ヒーラー

 回復系の魔法が使えたらなと思う。

 例え異世界に行くことができないとしても、この世界で、回復系の魔法が使えたらなと、強く思う。

 その理由はとても小さくて、理由だけじゃなくて僕の人間性が小さいところもばれてしまうのだけれど、そんな自分の小ささを克服するためにも、省みてみようと思う。

 

 職場でけが人が出ることがある。それは従業員でなくて、来客に多い。僕の職場は、大きなフリースペースのようなところで、ふらっと来た人たちが話し合えるテーブルや、学生が勉強するスペースや、小さな子供たちが遊べる部屋や、庭園なんかがある。食事もできるし、パソコンを持ち込んで作業をしたっていい。

 そんな感じの便利なスペースだから、いろいろな年代の人たちがやってくる。平日や休日も関係なく、たくさんの人がやってくる。建物の高層階に位置しているから、景色もよくて、空気の澄んだ日には富士山が見えたりもする。

 人がたくさん来るから、時々、けがをする人や、調子の悪くなる人も出てくる。そんな時、その人を心配する気持ちと同時に、思い浮かんでしまうのが、責任問題とか、そういうことなのだ。このフロアでケガをしたのだから、責任はこのフロアを管理する僕たちにある。そんなことを言われたら面倒だなという考えが、頭の中に浮かんでしまう。

 管理者が変わるこのラインの向こう側で発生した事故ならば、僕たちは無関係でいられるのに。無責任な立場から心配をするだけで済むのに。そんなことを考えてしまう。

 なによりまず考えるべきなのは、その人が楽になるように対応することや必要な処置をすることで、そんな責任問題は最後の最後に考えればよいのに。出血していれば止血をして、そのケガの部分を高い位置に持っていく。体調が悪いようだったら、横になれるスペースを確保する。使ったことはないけれど、必要であればAEDを使う。だけど僕はその道のプロじゃないから、止血方法も、横になるときの楽な体勢も知らないし、AEDを使う勇気もない。心臓マッサージとか、人工呼吸だって、学んだことはあるけれど、今ちゃんとやれる自信なんてない。名前とか持病とか怪我した時の状況とか、何を聞き取ればいいのかもわからないし、聞いたところでその情報をどうしたらいいのかもわからない。回復系の魔法で、状態を問わずに一発で治すことが出来たら、痛そうな様子も見なくて済むし、責任問題とかもきっと考えずに済むだろうに。そんなちっぽけな理由から、回復系の魔法が使えたら、どんなにいいかと思ってしまう。

 だけど現実を見なくちゃいけない。僕は魔法使いじゃないから、そんな非常時にはどうするべきなのかを事前に予習しておくことが大切だ。救急箱の場所や中身を把握しておくこと、三角巾の使い方を学んでおくこと、緊急時の連絡先をまとめておくこと、そういった事前の準備をしておくことが、きっと大切なのだと思う。もちろん、フロア内でケガが起こらないように、日々、設備を点検しておくことも大切だ。

 僕はヒーリング系の魔法使いではない。ケガや体調が悪い相手を百パーセントの気持ちで心配するという当たり前のこともできていない。責任問題なんて言う、つまらないことを気にしてしまう。それが悲しいから、そうでない人間になりたい。異世界に召喚されるようなできた人間になりたい。そしてパーティを組んだヒーラーにぱふぱふで回復させてもらいたい。台無しだよ。

 ちっぽけでだめな自分を少しずつやっつけて、主人公たる人物になっていきたいと思う。

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