↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/12

1章 6.9話 『第九艦隊対堕天使長』

「あーあー、こいつは想定外だ、万魔殿(パンデモニウム)が壊されるなんてなぁ」


「どうしよう!? もうベリアルとボクしか残ってないんだよ!?」


 崩れ行く神殿の中で、黒髪の男と紫髪の少女が話している。


「冷静になってくださいよ、『あの時』くらいのテンションになれれば打開策も思いつくかもしれないじゃないですか」


「あの時とは状況が違うんだよ!? まず敵の情報も何も得てないんだから、対策のしようがないんだってば!」


「ルシフェルも死んだって状況でマモンを止めようとしなかったからですよ。もう反乱なんて起こさないって話だったのに、あいつを止めなかったから情報も入ってこないで結果孤立、現在進行系で襲撃されてんじゃないですか」


「それは、ベルゼバブが……!」


 黒髪の男、ベリアルと紫髪の少女は万魔殿が崩れていく中でも口論を続けていた。



 しかし、上から聞こえた爆発音が口論を遮った。


「……天井が、落ちて――?」

 

 


  ◇ ◇ ◇ ◇




 崩壊した万魔殿の上空を、2つの巨大な影が覆う。

 空中艦が2隻、天界の空を飛んでいた。


 駆逐艦マース、そして駆逐艦レーベ。

 ファンタジックな世界に、近代的な艦が2隻飛んでいる光景は異様なものだった。



「やった! 爆雷は間違いなく命中、シュルツのお陰だよ!」


 駆逐艦マースの艦橋で帽子を被った茶髪の少女が、通信モニター越しの茶髪の少女……シュルツに話しかけていた。


「警戒は緩めないで、マース。マルク中将とティル少将が来るまでは、ここに来る敵の増援も私たちで抑えなきゃいけないんだから」


 駆逐艦シュルツの艦長、シュルツは冷静に、マースと呼ばれた少女に警戒を促す。


「とは言っても、あの神殿内にはあれだけの爆雷を投下したんだよ? 私とシュルツで撃ったんだから、生き残りなんているわけがないよ!」


 ドヤ顔でそう宣言するマース。

 だが、その余裕の表情が崩れ去るのは一瞬だった。


「単装砲に被弾! 主砲が使用不可になりました! ……艦長、どうしましょう!?」


「レーベ!? 敵が接近してたなんて聞いてないよ、索敵班は!? ……しかも主砲ってことは艦橋付近!? シュルツ、どうしよう!?」


 駆逐艦マースの通信士、レーベから伝えられた損害状況は、マースを慌てさせるには十分だった。

 マースはシュルツに救援を要請する。


「マースってよくそれで艦長になれたって思うわ! 心配になってくるから今は助けてあげるけど! マック、とりあえずマルク中将に打電! 支援を要請して!」


「了解しました」


「艦体がぶつかるくらい近づいていいから、絶対マースを助ける! 」


 駆逐艦シュルツの通信士、マックが支援要請をすると同時に、駆逐艦シュルツは駆逐艦マースに向かって急接近した。


「敵がどこにいるのかだけでもわかればいい……! 高機動が売りなの、駆逐艦は!」


「突撃は想定外だと思いますが?」


「マースを助けるためなんだから仕方ないの! 沈んだって、2人で死ねるならそれも別に……!」



 空に轟音が響く。駆逐艦マースの艦体に駆逐艦シュルツがぶつかった、ということだ。

 その衝撃にマースは慌てふためく。


「シュルツ!? 衝撃が強すぎるし、これで共倒れになったらどうするの!? 敵はまだ捕捉できてないんだよ!?」


 超至近距離、艦体同士が擦れるどころかぶつかっているのだ。マースの驚きも無理もない。


「助けてあげるの! 沈む前には旗艦が来てくれるはずなんだから、今は持たせて!」


 強気でいるシュルツだったが、少し声は震えていた。

 いくら駆逐艦の艦長と言えども、見えない敵と戦うのは恐怖心を覚えるに決まっている。

 マースを元気づけるためにも、強く見せるしかなかった。

 その強気な態度も、一瞬にして崩れ去ったのだが。


「――愛って、本当に素晴らしいとは思うんだけど!」


「「ッ!?」」


 駆逐艦マース艦橋、ガラス窓の目の前に、紫髪の少女が浮遊していた。

 隣接する駆逐艦シュルツの艦橋は、暗闇が覆い尽くしている。

 その異様な光景に、両艦長は驚きと怯えを隠せない。


「お前たちだろ!? ボクのパンデモニウムを壊したの!」


 声が通るはずもない艦橋のガラスを貫通し、紫髪の少女の声は艦全体に響き渡る。


「標的、ルシファー……です!?」


 レーベにルシファーと呼ばれた紫髪の少女。

 レーベの声は外にも聞こえていたのだが、その名前を聞いて、ルシファーは表情をこわばらせた。


「ボクをルシフェルと呼ばない……!? ボクの事情も知らず、いとも容易くその名前を出す!」


 声を荒げるルシファー。その声を聞いたマックは、状況を冷静に分析する。


「なるほど、あの爆発でも生き残りますか」


「前が見えないのになんでマックは冷静なの!?」


 万魔殿は確かに崩れた。しかし、ルシファーだけは今ここにいる。

 あの時投下された爆雷により万魔殿の天井が落下し、副官と言えるベルゼバブとベリアルはそのまま圧死した、と言うところだろう、とマックは考えた。


「ベリアルもベルゼバブもいないとするならば、ルシファー、あなただけは自分が創り出した闇へと逃れ、再び闇から現れた……と、言ったところでしょうか?」


 状況を分析したマックは、『わざわざ』文章を端的にまとめず、そのまま長話として話した。


「そっちの艦は暗闇に包まれているじゃないか! なんでそんなことを言い切れるんだ!?」


 驚いたルシファーは、駆逐艦シュルツの正面まで近付いた後、そこに留まった。


「簡単なことですよ。あの煩わしいベリアルとベルゼバブが、まさかずっと黙ってるなんて思えないでしょう?」


 前が見えないにも関わらず、今の状況から考え出した理由を律儀に説明するマック。


「ルシファーって呼ばれるのを嫌がる理由だって、こちら側はもう……」


 マックが更に何かを口にしようとした時、その言葉を暗闇が遮った。


「うぇぇ!? 停電!? マースは!? 大丈夫なの!?」


「シュルツ艦長、落ち着いてください。今のところは、マースの反応は消えていません」


「全く、ボクの情報をペラペラと喋って! そうだよ、ボクはルシファー! この世界では認めてやる! ちゃんと覚えて、2隻まとめて闇に沈め!」


「――残念ですが、そうはいきませんよ。私の時間稼ぎは完璧だった、ということです」


「何を言うんだ!? そんな言葉に惑わされるわけない! 暗闇の邪槍(ダークネス・ランス)ッ! そしておまけの双槍(そうそう)だ!」


 暗闇のゲートが空に現れ、その中から放たれた3本の漆黒の槍は、駆逐艦マースの艦橋周囲を囲んだ。


「ははっ! 奴を包め、漆黒(ノワール)!」


 不敵な笑みを浮かべるルシファーは、自身の背中から広げた6枚の黒翼に力を込める。

 すると、黒翼から黒い霧が溢れ出てきた。


「ククク、クハハハハッ、ハーッハッハッハッハッ!  私にここまでの感情を抱かせたのは久し振りだ! 本当に、舐められたものだ!」


 ルシファーの声色が、変わった。

 翼から放たれた黒い霧は両艦の装甲すら通り抜け、全てのブロックを闇に染めた。隔壁も無いものかのように貫通し、艦体は全ては闇に包まれてしまったのだ。


「え、ちょっと、レーベ、どうしよう!? 状況が理解できないまんま大変なことになってるんだけど!? レーベなら何かわかるんじゃないの!?」


「わかる訳ないじゃないですか! マックのことを理解するのって難しいんですから、マース艦長に理解できないなら私にわかるはずもありません!」


「だって、レーベの方がマックとは仲良いじゃん! 私はシュルツのやることなら理解できなくもないけど、マックのやることなんてわかんないよ!」


 駆逐艦マースのブリッジでは、艦長と通信士が言い争っていた。

 ブリッジすら真っ暗になった中で、冷静な指揮などできるはずももなかったのだ。


「……どうだ? まさか、私と貴様らとの力の差が理解できぬわけでもあるまい?」


 ルシファーは両艦長に投降を勧告する。

 この状況ではどちらの艦の戦力でも、自身に勝つことは不可能だと判断したためだ。


「応答が無いのなら、仕方があるまい。槍よ、貫け」




「――残念だが、それは叶わない」




 空に響いた言葉とともに、空を包みこんでいた闇は晴れた。

 

「……何だと?」


 闇が消え、空を月の光が照らす。そこにはもう、駆逐艦は2隻とも残っていなかった。


「ギリギリ……間に合いました……です」


 ルシファーの目に映った世界は、天界のどこでもなかったのだ。

 突如変わった世界に驚くルシファーだったが、その驚きは一瞬にして消え失せた。

 そんなルシファーの耳に、少女の声が響く。


「私は第九艦隊司令、ノルン」


 聞こえた声は、恐らく少女のものだった。

 その声の出処を探ると、どうやら大型の戦艦から放たれているものらしい。


「このFlotte(フロッテ)&(ウント)Festung(フェストゥング)が現れた以上、あなたに勝ち目があると思わないことね」


 ルシファーが空に浮いているのは天界と同じだが、下も前方も、天界とは全てにおいて違いすぎた。

 それが『今の』ルシファーにとっては、面白いことでもあったのだが。


「ほう……? 彼奴(きゃつ)めが言っていた時間稼ぎとは、この為のものだったか」


 地上に設置された砲台はルシファーを捉え、上空を飛ぶ艦隊もまた、ルシファーを撃とうとしていた。


「マルク艦長、ビスマルクを前に出して。駆逐艦2隻ともに下げたから、同士討ちの心配はない」


「了解した。……ノルン司令、2番艦アルフレートはどうされる?」


「戦艦アルフレートと重巡洋艦フランツは前に出して。だけど、他の巡洋艦は待機で」


 黒い軍服に銀色の肩章を纏った少女……ノルンと、黒い軍服を纏い、黒い帽子を被った少女、マルク。


「ルシファーを討つことが私たちの仕事。だから……此処から先は通さない」


 戦艦ビスマルクが迫る中、ルシファーは一切の動揺を見せなかった。


「全く、私に勝てると思うとは実に愚かしいな。人間も、人ならざるものも、どちらもだ。……だが、な」


 浮遊するルシファーから溢れ出る闇のオーラは、空域全体を呑み込もうとした。

 しかし……


「言っておくが、あんな面倒な真似をしなくても、ボクは君達には勝てるんだからな!」


 彼女(ルシファー)の声色がもとに戻るとともに、空を包む闇は晴れていった。


「闇が晴れるとは……、それに我々に勝てるとは、舐められたもの……。重巡洋艦フランツ、前に出ましょうぞ」


 ルシファーの挑発に乗るように、重巡洋艦フランツの艦長であるラル大佐は戦闘態勢に入った。


「陸戦部隊は対空砲火。バズーカ、ロケットランチャー、機関銃も使えるだけ使って、回避ルートを『全て』潰すこと」


「ティル、援護を頼む」


 戦艦ビスマルクでは、ノルンとマルク中将が各部隊への援護を要請する。

 それに応えるように、地上からはルシファー目掛けて無数の砲撃が行われた。


「了解(らじゃー)……です。……各砲座、ビスマルクの射撃のカバーをお願いします……です♪」


 ビスマルクからの支援要請を受け、戦艦アルフレート艦長、ティル少将はビーム砲の一斉射撃を行おうとする。


「まっ、ちょっと、ちょっとだけ、結構数が多いっ!」


 戦艦ビスマルクと戦艦アルフレートの砲座からビームが放たれ、そのビームの射程と命中率をカバーするべく重巡洋艦フランツと陸戦部隊の砲撃がルシファーに見舞われる。


「え、ウソっ、当たる……!?」


 暗闇のゲートを空中につくり出し、無被弾を心掛けていたルシファーだったが、数の多い翼が仇となってしまった。


「いっ……たぁ……っ!」


 6枚ある翼のうち1枚は落ち、追撃するように別の砲撃が放たれる。


「直撃コースなんて、それはちょっと想定外な――ッ!?」


 大きな爆発が発生し、ルシファーの姿は煙で見えなくなる。

 その爆発を見て、大勢の者は歓声を上げた。特に喜んでいたのは、地上にいるものや、後方待機の軽巡洋艦ケーニヒと同じく軽巡洋艦カールの乗員たちだ。「天界最強格に勝った」と、大盛り上がりをしていた。

 しかし、ノルンが異常に気付く。


「マルク、最後に当てたのはビーム……という認識で合ってる?」


「……その通りでございます」


「ティル、ルシファーには核融合炉や動力源が使われていたっていう情報はある?」


「……いえ、ありません……です」


「爆発の正体は……ッ!!」


 少し離れた場所に……、戦艦ビスマルクより前に出ていた重巡洋艦フランツ。


「――消えてしまえぇッ!」

 

 それが、突然、爆発した。

 遠くからでもわかる、赤色のビームが重巡洋艦フランツの艦橋を貫いたことが。


「ラル……ッ!? あのビーム、まさか……!」


 ノルンは明らかな動揺を見せる。一艦隊の司令官に相応しくないほどまでに狼狽える。




 黒い煙の中、ルシファーは誰かに手を差し伸べられた。


「――怪我は……翼が1枚、なくなったのね」


「君は、誰なんだ……?」


 目の前に現れたのは、白髪の少女だった。瞳の色は緑で、下界で子供たちが着ていると言う黒色の『制服』のようなものを身に着けていた。


「私はアハト……、あいつらを、全部、全部……、消し飛ばす反逆者……!」


 そう言って彼女は、戦艦ビスマルクへ向けて飛んで行った。


(彼女は、一体……?)


 その後ろを追うように、ルシファーも、また。


「ッ……! アトラだけじゃなく、ラルまで……! アハト、君は……!」


「…… Zwei(ツヴァイ)händer (ヘンダー)を壊してくれて、ありがとう。ヴァイテとの思い出の品なんてもう不必要だったから、心の底から邪魔だった」


 ビスマルクのブリッジの前に浮遊して留まるアハトは、その両腕をブリッジのガラスに向ける。


「ッ! アハト!」


「そういえば、フィーアが死んだらしいわ。可哀想よね、悲しいよね。フフフ、アハハハハハ! ……ざまぁみろ」


 半狂乱のような状態で、笑い始めるアハト。

 彼女の両腕からは、光が漏れていた。

 アハトの両腕には、ビーム兵器が『後付け』で取り付けられていた。ビーム砲にもなり、ビームソードにもなる、遠近対応の武装だ。

 そのビーム兵器が、ブリッジに放たれようとしている。

 しかし乗員は誰も退艦しようとはしない。


「ジーナの、仇……、死ね、死ね、死ね、死ね、死ねぇぇぇーッ!」


 少女は泣き叫んで、腕から光を放った。


 そんなとき、小さな黒い影が、アハトの背後から迫ってきていた。

せっかくの連休が風邪で台無しになった天之帝です。

本来なら8、9話くらいまで書きたかったんですが、寝たきりでこのザマです。

しかし、悪いことばかりではないんですよね。

本当なら8話で2000文字くらいを使って描写しようと思ったこの部分がここまで濃くなったのは、間違いなく風邪のときのおかしな頭が原因ですから良いこともあったと思えます。

今回出てきた方々、喋り方はあんなんですけどベリアル以外は見た目も声も「少女」ですからね。

まぁ8話でまた出るでしょうけど。

ちなみにこの7.9話、7話の終盤の出来事です。随分と濃いことが裏で起こっていたようで。

しかも今回、主人公も不在です。なのにキャラは多すぎます。こんな序盤で、なんということでしょうか。

さて、それではこのくらいで。まだ完治はしてない感じしますし、休みます。


――今回、色々とあった名前とかの元ネタがわかったら凄いと思います。


(ミスがあったので修整しました。アハトの目の色は青じゃなくて緑なんです)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。