表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
153/222

天狗と武神 2

「……天翔さん、アンタは……」


「ただ! 一つ条件がある」


 天翔とフツヌシは灰色の街の中、一つの通りで向き合っていた。そうして、これは天翔がフツヌシに自分を殺してもらって構わないと言い放った後のことだ。

 天翔は、いちと指で示し、フツヌシに言う。断固とした口調で、これだけは否定させないという顔だ。


「私以外の妖館の者達には手を出さないようにしてもらおう。もう子供達が死ぬのは勘弁だ。お前が他人なら、何度でも殺している所だ。そうしないのは、お前が特別で、お前が私達の被害者だからだ」


「…………」


 天翔の言葉を受けて、フツヌシは黙り込んでしまう。殺されてもいいなどと言われるとは、思ってもみなかったからだ。

 だが、彼にとってはそんなこと、問題ではなかった。何より……


「俺は、アンタのことを殺すつもりはありませんよ、天翔さん」


「…………」


 フツヌシには、天翔を殺すつもりがないらしかった。最初から彼の顔に含まれていたのは殺意ではないかったのだ。憎いが、手を出し切れないとでもいうような……そんな表情で、またフツヌシは口を開く。


「アンタには世話になった。あいつも、アンタに助けられた。俺達は、アンタがいなければ結婚すらできずに死んでいたんだ。恩がある。だから、殺すなんてことは出来ない」


 どうやら、フツヌシは昔の恩のために、天翔には手を出せないらしかった。だが、その表情は苦しくてたまらないと言うようであった。ジレンマを感じているのだろう。自分の平生の意と、特別視している天翔に対しての自分の行動の間で。


 そんなフツヌシに対して、天翔は問いかける。


「そうか……。ならば、私以外に手をかける、それをやめるという気はないのか?」


 当然の問いだ。自分に手をかけないのであれば、他の者達にも手を出さないでほしいということ。だが、フツヌシはそれに頷くことはなかった。首を振って、否定したのだ。


「それは出来ません。俺が決めたことです。俺の……贖罪です」


 フツヌシは、恩人である天翔自体には手をかけることは出来ないが、他の者達には手を出す、とそう言い放った。それがどういう理由から来るものであれ、天翔にとっては目を離すことが出来ないことだ。何せ、自分が世話をしてきた者達が、死んでしまうかもしれないのだから。守ろうとしてきたものが、手から零れ落ちてしまうのだから。


 だから、天翔は……


「そうか、なら……お前が死ぬしかないな」


 前に一歩、深く踏み込んでフッと息を吐いた。

 すると、通りには風が吹いた。その風は、人を軽く吹き飛ばすほどの勢いの風である。そうして、嵐のようなそれが天翔の横を通り過ぎ、フツヌシの体にのみ真正面からぶつかったのだ。

 フツヌシはなすがままその風に吹き飛ばされる。そうして、彼の体は住宅街の石塀に打ち付けられた。吐血する。悲痛な表情が、フツヌシの顔に浮かんだ。

 それを見ながら、ゆっくりと、天翔はフツヌシの方へと歩む。彼の顔には、勇気達に見せることのない、黒い表情があった。それは、覚悟から来るものだろう。


 そうして、彼は背を壁に打ち付けてぐったりとしているフツヌシの前に立った。それでも、フツヌシは動かない。それほどまでに、先ほどの風の力は強かった。


「……すまないな」


 天翔はフツヌシが倒れている前に立つと、手を振り上げた。そうして、それをフツヌシの顔面へと振り下ろそうと……


「ち……よ」


 したが、天翔の拳がフツヌシの体を捉えることはなかった。天翔が、自身の拳を途中で止めたのである。そうする彼の目、思考には、昔の情景が映っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ