天狗と武神 1
「ともかく、安全なところに連れて行くよ。堀田さんは、あいつらにまだつけ狙われているんだろう?」
「……多分」
「よし……私の……後輩が、いるところに連れて行く。彼女ならきっと守ってくれる。守らせる」
天翔は愛音のことを保護するようにして歩きながら、彼女を安全なところへと連れようとしていた。天翔の言っている通り、愛音は現在危険な状態だ。先日、彼女が失踪した店に現れた鼠田のことを鑑みるに、どう考えてもラーメン屋には戻さない方がいい。
天翔は一号の妖館に向かうのでなく、他の妖館へ向かっていた。具体的に言うと、河野というあの女性がいた妖館である。
妖館への道のり、天翔と愛音は静かに灰色の街を歩いていた。
そんな時……
「久しぶりですね、天翔さん」
「……あれ、その声は……?」
「……そうか」
二人の歩く後ろから、声が上がる。その声を聞いた二人は、それぞれの反応を取った。天翔は足を止め、ため息を吐く。愛音は……期待の色を持って、後ろに振り返ったのだ。そうして、彼女が後ろを見てみれば……
そこには、フツヌシがいた。彼の顔を見ると、愛音は声を上げた。感謝を含んだ声。
「あなたは……あの時の! 鳥山さん、あの人は私と琴音があいつらに襲われそうになった時、助けてくれた人で……」
「…………」
「鳥山さん……?」
愛音の上ずった声を聞いても、天翔は表情を一変もさせない。顔に陰りを浮かべ、ジッとフツヌシの方を睨んでいるんのだ。それに違和感を覚えた愛音は、フッとフツヌシの方へと目を向けた。すると、彼も天翔と同じような表情をして、天翔のことを睨んでいた。
男二人が睨み合う間に挟まれて、愛音はつい問いを投げる。今の状況が、全く分からないのだろう。
「そ、その……鳥山さん。あの人と……何か」
だが、愛音は疑問の言葉を言い切ることはなかった。天翔が、口を開いたのである。
「堀田さん。そこの角を曲がって、しばらく行くとでかい建物がある。周りのよりも結構でかいから、すぐに分かる。向かってくれ。そこに入って、私の名前を出せばすぐに入れる」
「え……どうして」
「頼む。私はあいつと、一対一で話さなくてはならないんだ。先に行っていてくれ。私も後で行く。事情はその時に」
天翔は愛音にチラと目を寄こして、どこに行けばいいかを指示する。そうして、フツヌシの方へと向き直った。どうやら、愛音には構っていられないという様子であった。
それを見て取ったのか、愛音はつばを飲み込んだ後で、天翔の指示した方向へと小走りに向かった。最後に、
「では……待ってます」
心配そうな表情でそう言い残して。
「何十年ぶりだ、フツヌシ?」
「……あの時以来ですよ」
「ウチの電話番号を、堀田さんに教えたらしいな。おかげで、彼女の娘は私達の保護下だ。感謝するよ」
「……ええ」
天翔とフツヌシは、同じような表情で通りの上で向き合っていた。同じような表情とは、敵意ともつかぬ、憎悪ともつかぬ表情である。互いを消したいと思っているのか、それとも……
風が二人の間を通り抜ける。それが通り過ぎた後で、天翔はふうと息を吐いた。その後で……清々しい顔をして、言う。
「殺してもらって構わないぞ」
「…………!!」
天翔がサラッと言ったことに対して、思わずフツヌシは表情を変えて驚く。それほど、天翔の言ったことは意味が分からなかった。殺されても構わない……とは。
フツヌシの顔を見てか、天翔は付け加えた。
「私はそれほどまでのことをした。止められなかった。助けられたかもしれない立場なのに、助けられたなかった。お前と、同じ過ちを犯したんだ。……だから、償いではないが、お前が望むなら殺されよう」
それを、天翔は平然と、言い切るのだった。




