第8話 やるからには徹底的に
# 第8話|やるからには徹底的に
シロネ:「……で」
森へ向かう道を、シロネ、レオ、カイルの三人が歩いていた。
シロネ:(なんでこうなった……)
ついさっき。
狩りを教えてほしいとしつこく迫る二人に、シロネは言った。
――私の子分になったら教えてあげる。
もちろん、断らせるためだった。
なのに。
カイル:「シロネ! 今日は何狩るんだ?」
レオ:「昨日のニードルラビットでいいだろ!」
二人とも普通についてきている。
シロネ:「……はいはい」
シロネ:(まあ、一匹狩らせて終わりでいいか)
一匹狩る。
二人が満足する。
解散。
シロネ:(うん。それでいこう)
この時点では、本格的に二人を育てるつもりなどなかった。
◇
森へ入ってしばらく。
シロネの耳が、草むらの小さな音を拾った。
一本の角が見える。
シロネ:「いた。ニードルラビット」
カイル:「おっ!」
レオ:「あいつだな!」
二人がすぐに飛び出そうとする。
シロネ:「待って」
レオ:「なんだよ?」
シロネ:「二人で狩ってみて」
カイル:「どうやって?」
シロネ:「好きにしていいよ」
レオ:「教えてくれるんじゃないのか?」
シロネ:「まず見たいから」
シロネは少し離れた木の根元に座った。
二人が何を得意としているのか。
何ができないのか。
それすら分からない。
シロネ:(まずは好きにやらせてみよ)
レオ:「行くぞ!」
カイル:「おう!」
二人が走り出した。
レオは真正面。
カイルも反対側から、ほぼ真正面。
ニードルラビットの耳がぴくっと動く。
レオ:「今だ!」
ダッ!
ニードルラビットが反転する。
レオ:「待て!」
カイル:「俺が回る!」
カイルが横から追う。
ニードルラビットが急旋回。
レオ:「こっちだ!」
レオが先回りする。
カイル:「俺も――」
ドンッ!
レオ:「いってぇ!」
カイル:「お前、邪魔だ!」
二人だけがぶつかった。
ニードルラビットはその横を駆け抜け、森の奥へ消えていく。
シロネ:「……」
地面に転がる二人を見る。
シロネ:(よわ)
ちょっと面白い。
◇
二匹目。
シロネ:「正面に立たない」
レオ:「分かってる!」
逃げられた。
シロネ:「分かってないじゃん」
三匹目。
カイルが大きく回り込む。
シロネ:「カイル、もう少し右」
カイル:「こっち?」
シロネ:「行きすぎ。戻って」
カイル:「ここ?」
シロネ:「そこ」
レオが身体を低くする。
レオ:「今だな?」
シロネ:「まだ」
レオ:「もう行けるだろ」
シロネ:「まだ!」
ニードルラビットがカイルとは反対方向へ身体を向ける。
シロネ:「今!」
レオ:「おう!」
飛び出す。
一歩遅い。
レオ:「ああっ!」
シロネ:「遅い!」
四匹目。
シロネ:「レオ、前に出すぎ!」
レオ:「これくらいいける!」
逃げられる。
五匹目。
シロネ:「カイル、そっちじゃない!」
カイル:「こっち!?」
シロネ:「逆!」
逃げられる。
六匹目。
シロネ:「まだ動かない!」
レオ:「今だろ!」
シロネ:「まだ!」
レオ:「絶対今だって!」
シロネ:「だから待って!」
また逃げられた。
シロネ:「ぬぅぅ……!」
尻尾が苛立ったように地面を叩く。
シロネ:(なんでうまくいかないの……!)
相手の視線を見る。
死角へ回る。
逃げる方向を限定する。
一人が追い込み、もう一人が仕留める。
それだけなのに――。
シロネ:(……それだけ?)
シロネは二人を見る。
息を切らし、服には草や土がついている。
シロネにとっては、相手の視線や逃走経路を読むことなんて当たり前だった。
前世から長い間、アサシンとして戦ってきた。
いつ動くか。
どこから近づくか。
どう仕留めるか。
いちいち考えなくても身体が動く。
でも――。
シロネ:(二人は初心者なんだ)
自分の当たり前を、そのまま二人に要求していた。
シロネ:「……教えるのって、めんどくさい」
レオ:「なんか言ったか?」
シロネ:「なんでもない」
シロネは立ち上がる。
シロネ:「ねえ。二人とも、本気で強くなりたい?」
カイル:「なりたい!」
即答。
シロネ:「はやっ」
カイル:「強くなれるなら、シロネの言うこと聞くぞ!」
シロネ:「……素直」
次にレオを見る。
レオ:「俺だって強くなりたい」
シロネ:「私に教えられるの、嫌そうだけど」
レオ:「それとこれとは別だ!」
レオはむっとした顔で言う。
レオ:「妹に負けっぱなしの方が嫌なんだよ!」
シロネ:「なっ!?」
耳がぴんっと跳ねる。
シロネ:「……私に負けてると思ってたんだ」
レオ:「そこ拾うな!」
二人とも、本気らしい。
シロネは腕を組む。
シロネ:(だったら……ちゃんと育てるか)
◇
シロネ:「まず《村人》をLv.10まで上げる」
レオ:「……は?」
カイル:「村人?」
二人の顔から一瞬でやる気が消えた。
レオ:「強くなる話してたよな?」
シロネ:「してるよ」
レオ:「なのになんで《村人》なんだよ!」
シロネ:「Lv.10で第二職業枠が解放されるから」
シロネは指を二本立てる。
シロネ:「職業を二つ使えるようにしてから育てた方が効率がいい」
《村人》Lv10で第二職業枠が解放される。
カイル:「それやったら強くなれるんだな?」
シロネ:「うん」
カイル:「じゃあやる!」
シロネ:「……ほんと素直」
レオ:「どうやって上げるんだ?」
シロネ:「村のお手伝い」
レオ:「は?」
シロネ:「魚運び、薪集め、掃除、荷物運びとか」
レオ:「なんでお手伝い!?」
シロネ:「《村人》だから」
レオ:「やらねーし!」
ぷいっと顔を背ける。
シロネ:「じゃあ、やらなくていいよ」
レオ:「おう!」
シロネ:「カイルだけ先に強くなるけど」
レオ:「……」
レオの耳がぴくっと動く。
シロネ:「カイルは明日からね」
カイル:「おう!」
◇
翌日。
カイルは漁から戻ってきた大人たちの魚を運んでいた。
カイル:「これ、どこだ?」
村人:「そっちだ! 助かるぞ!」
少し離れたところから――。
レオ:「……」
じーっ。
次は漁具運び。
カイル:「終わったぞ!」
シロネ:「じゃあ次、あっちの荷物」
カイル:「おう!」
レオ:「……」
さらに翌日。
カイルが大きな籠を抱えて歩いている。
レオ:「……」
シロネ:「……」
レオ:「なんだよ」
シロネ:「何も言ってないけど」
シロネがカイルの後を追う。
レオ:「……待て」
シロネが振り返る。
レオ:「俺もやる」
シロネ:「やらないんじゃなかったの?」
レオ:「うるさい! やっぱやる!」
シロネ:「ふーん」
口元が少し上がる。
レオ:「その顔やめろ!」
こうして、レオも二日遅れで加わった。
◇
それから――約三週間。
魚を運ぶ。
薪を集める。
漁具を片付ける。
籠を運ぶ。
村の掃除をする。
頼まれた荷物を届ける。
カイル:「次は?」
シロネ:「あっちの手伝い」
カイル:「おう!」
レオ:「まだやるのかよ……」
シロネ:「やめてもいいよ」
レオ:「やめるとは言ってねー!」
シロネは時々《鑑定》を使って、二人の成長を確認する。
数日後。
シロネ:(まだ)
さらに数日。
シロネ:(もう少し)
そして――。
シロネ:「二人とも、ちょっと来て」
カイル:「上がったか!?」
レオ:「早く見ろ!」
まずカイル。
シロネ:「《鑑定》」
**《村人》Lv.10**
シロネ:「カイル、Lv.10」
カイル:「よっしゃ!」
続いてレオ。
**《村人》Lv.10**
シロネ:「レオもLv.10」
レオ:「やっとか!」
二人とも第二職業枠が解放された。
シロネ:「次は第二職業を決める」
レオ:「今度こそ強そうなやつだろ?」
シロネ:「適性見てからね」
シロネはレオを見る。
シロネ:「まずレオ。《鑑定》」
表示された情報を確認する。
**スキル:《隠密》《俊足》**
シロネ:「……」
シロネ:(レオも持ってる)
そして職業欄。
**解放職業:《拳闘師》**
シロネ:「なっ?」
レオ:「なんだよ?」
シロネ:「レオ、《拳闘師》解放してる」
レオ:「けんとうし?」
シロネ:「拳で魔物倒したことある?」
レオ:「あるぞ。小さいやつなら結構」
シロネ:「……それだ」
《拳闘師》の解放条件は、拳で5体討伐。
知らないうちに条件を満たしていたらしい。
シロネ:「第二職業、《拳闘師》にしてみて」
レオ:「おう!」
レオが職業を念じて設定する。
その瞬間――。
**《拳闘師》Lv.1**
**初期スキル:《予知》**
シロネ:「……お」
レオ:「予知?」
シロネ:「相手の攻撃を避ける時に使えるスキル」
シロネは少し考える。
《拳闘師》は近距離で戦う。
相手の攻撃を《予知》して避け、そのまま懐へ潜り込む。
さらに将来、《アサシン》を組み合わせれば――。
シロネ:(近接特化……)
悪くない。
むしろレオには合っている。
シロネ:「レオは《拳闘師》でいこう」
レオ:「強い?」
シロネ:「ちゃんと育てればね」
レオ:「よし!」
シロネ:(単純)
◇
シロネ:「次、カイル」
《鑑定》。
まず目に入ったのは――。
**スキル:《隠密》《俊足》**
シロネ:「……やっぱり」
カイル:「何が?」
シロネ:「なんでもない」
自分。
レオ。
カイル。
三人とも《隠密》と《俊足》を持っている。
シロネ:(猫族って、この二つを覚えやすいのかな?)
ゲームでも《隠密》を使う猫族NPCは見たことがある。
だが、種族固有だった記憶はない。
シロネ:(何か条件がある?)
シロネ:(あとで調べよ)
さらに情報を見る。
**称号:《コントロール》**
そして――。
**解放職業:《狩人》**
シロネ:「カイル。《狩人》解放してる」
カイル:「狩人?」
シロネ:「今まで何狩ったことある?」
カイル:「んー……鳥だろ。魚だろ。小さい魔物も何種類か」
レオ:「お前、結構狩ってんな」
カイル:「そうか?」
《狩人》の解放条件は――**異なる獲物を5種類狩ること**。
生活の中で、すでに達成していたらしい。
シロネ:「あと、この《コントロール》は?」
カイル:「知らない」
シロネ:「投げるの得意?」
カイル:「得意だぞ!」
カイルが思い出したように言う。
カイル:「前に小さい石投げて、鳥を落とした!」
レオ:「あれ偶然じゃなかったのか?」
カイル:「狙ったんだよ!」
シロネ:(《狩人》に《コントロール》……)
《狩人》は追跡や獲物への対応を得意とする。現在想定している成長先には《追跡》《獲物察知》《弱点観察》《狩場把握》《獲物指定》がある。
獲物を探す。
動きを読む。
逃げる方向を限定する。
罠へ誘導する。
離れた位置から正確に投げる。
シロネ:(これ、かなり使える)
シロネ:「カイルは《狩人》」
カイル:「それにする!」
シロネ:「即決だね……」
カイル:「強くなれるんだろ?」
シロネ:「使い方次第では、かなり」
カイルが嬉しそうに笑う。
◇
シロネは二人を見比べた。
レオは《拳闘師》。
近距離へ飛び込み、《予知》で攻撃をかわしながら戦う。
カイルは《狩人》。
追跡、投擲、そして将来的には罠。
同じ猫族。
同じように《隠密》《俊足》を持っている。
それでも、向いている戦い方はまったく違う。
シロネ:(同じ職業を取らせる必要なんてないんだ)
自分が知っている職業。
スキル。
解放条件。
組み合わせ。
それを、その人に合わせて選べばいい。
シロネ:(レオは近接)
シロネ:(カイルは投擲と罠)
頭の中で育成ルートが組み上がっていく。
レオ:「シロネ、次は?」
カイル:「今度こそ狩りだろ?」
シロネ:「……」
最初は、一匹狩らせて終わるつもりだった。
適当に教えて、満足させて、それで終わり。
でも。
二人の得意なことが分かった。
使えそうな職業も見つかった。
その先の組み合わせまで見えてきた。
そうなると――。
中途半端に終わらせる方が気持ち悪い。
シロネ:「……よし」
ニヤッ。
レオ:「なんだよ、その顔」
カイル:「?」
シロネは二人を指差す。
シロネ:「やるからには――」
**シロネ:「徹底的に育てるよ!」**
カイル:「おう!」
レオ:「お、おう……」
カイルは嬉しそうに拳を上げる。
一方。
レオだけが、なぜか少し嫌な予感のする顔をしていた。
シロネの頭の中では、すでに次の育成計画が始まっている。
**第8話|やるからには徹底的に 終**




