第7話 子分ができた
第7話|子分ができた
翌朝。
シロネ:「行ってきまーす!」
返事を待たず、シロネは家を飛び出した。
リナ:「シロネ、朝からどこに――」
トルク:「もう出ていったぞ」
ミア:「お姉ちゃん、はやい……」
その頃、シロネは昨日もらった短剣を腰に差し、森へ向かっていた。歩く足取りはいつもより軽い。
シロネ:(今日はついに――《アサシン》を解放する!)
基本職。
前世で十年近く使い続けた、シロネにとって最も馴染み深い職業だ。
解放条件は単純。
**短剣で5体討伐する。**
シロネ:(狙うなら、弱くて数が多い魔物)
森へ入ってしばらく進む。
ガサッ。
草むらの向こうに、小さな影が見えた。丸い身体に長い耳。そして額から前方へ伸びた、鋭い一本角。
シロネ:「いた!」
**ニードルラビット。**
シロネは茂みに身を隠したまま《鑑定》を使う。
――警戒心が強い。
――額の尖った角を使って突撃する。
――高い脚力を持つ。
――耐久力は低い。
シロネ:(やっぱりこいつでいい)
小型で耐久力も低い。ただし、素早いうえに正面には角がある。
シロネ:(正面から相手するのが一番危険)
だったら、正面から戦わなければいい。
シロネは持ってきた小さな容器を取り出す。
昨日までに作っておいた――《痺れ薬》。
シロネ:「ふふん」
ニードルラビットがその場を離れた隙に、普段食べている雑草へ痺れ薬を仕込む。
シロネ:(匂いもしない。これなら気づかないでしょ)
茂みへ戻り、待つ。
しばらくするとニードルラビットが戻ってきた。
鼻をひくひくさせる。
シロネ:「……」
ぱくっ。
草を食べる。
もぐもぐ。
シロネ:「……」
もぐもぐ、もぐ――。
ぴたり。
ニードルラビットの身体がふらつき、その場に倒れた。
シロネ:「思った通り!」
近づいても、脚が痺れて逃げられない。角をこちらへ向けようとするが、それすらまともにできていなかった。
シロネは短剣を抜く。
昨日、父と母からもらったばかりの刃。
シロネ:「ごめんね!」
短剣を構える。
シロネ:「そして――おいしくいただきます」
キランッ。
一撃で仕留める。
シロネ:「まず1匹!」
◇
一度成功すれば、あとは早かった。
同じ場所に仕掛けるのではなく、ニードルラビットの痕跡を探して場所を変える。
2匹目。
シロネ:「よし!」
3匹目。
シロネ:「はい!」
4匹目。
シロネ:「ほい!」
倒したニードルラビットを並べ、シロネは首を傾げる。
シロネ:「……ほいほい捕まるな~」
ゲームでは低レベル帯の魔物だったとはいえ、現実でもここまで上手くいくとは思わなかった。
そして――。
5匹目。
痺れて動けなくなったニードルラビットの前にしゃがむ。
シロネ:「これで最後!」
短剣を振るう。
5体目を仕留めた、その瞬間。
シロネ:「さあ! 結果は――?」
一拍。
**基本職が解放されました。**
シロネ:「なななっ!」
耳がピンッと立ち、尻尾が大きく跳ねる。
シロネ:「きた……!」
思わず短剣を握りしめる。
前世では何度も見た職業解放。それでも、欲しかった職業を自分の手で解放した瞬間の高揚感は変わらない。
シロネ:「やっと取れた!」
すぐに自分へ《鑑定》。
**名前:シロネ
種族:■■族**
**解放職業:
《村人》Lv.10
《調合師》Lv.4
《釣師》Lv.5
《アサシン》Lv.1**
シロネ:(よし。これからは《アサシン》も育てて――)
さらにスキルを見る。
**《隠密》Lv.2
《俊足》Lv.1
《幻惑》Lv.1
《鑑定》Lv.1
シロネ:「……あれ?」
《隠密》がLv.2になっている。
シロネ:(いつ上がった? 《アサシン》を解放したから?)
だが、それだけでは別の疑問が残る。
シロネ:(そもそも私は、なんで最初から《隠密》と《俊足》を持ってたんだろ)
ゲームで見た猫族NPCの中にも、《隠密》を持つ者はいた。
シロネ:(猫族が先天的に持ちやすい? アサシン系に補正でもあるとか?)
そこまで考えて、首を傾げる。
シロネ:(じゃあ《幻惑》は? みんな持ってるのかな?)
分からない。
今の情報だけで考えても答えは出そうになかった。
シロネ:「まあ、あとで調べよ!」
今はそれより――足元に5匹。
シロネ:「……重そう」
狩った以上、全部持って帰る。
◇
シロネ:「ただいま~」
リナ:「おかえり――」
振り返ったリナが固まる。
シロネの後ろには、まとめて運んできた5匹のニードルラビット。
リナ:「……それ、どうしたの?」
シロネ:「狩ってきた」
リナ:「シロネが?」
シロネ:「うん。5匹」
リナ:「5匹も!? すごいじゃない!」
シロネ:「なっ!」
耳がぴくっと動く。
シロネ:「……まあね!」
少し得意げに胸を張る。
せっかく獲ってきたのだから、食料にしない手はない。
シロネ:「お母さん。今日のごはん、私に作らせて」
リナ:「シロネが?」
シロネ:「できるよ!」
リナ:「本当に?」
シロネ:「もちろん!」
自信満々に答える。
シロネ:(まあ、焼くだけだけど)
◇
獲物を切り分ける。
食べられる肉は夕食用と保存用に分ける。
シロネ:「内臓は……魚釣りの餌にしよ」
これなら無駄にならない。
肉に村で使っている塩を振り、火の上へ。
ジュウウウウ……。
骨付きの肉から脂が落ちる。
香ばしい匂いが広がった。
シロネ:「……もうおいしそう」
耳がぴくぴく動く。
焦がさないように何度か返しながら、じっくり火を通す。
残った肉は細く切り、保存用の干し肉にする。
シロネ:「よし!」
焼き上がった肉を見る。
シロネ:「完成!」
◇
夕食。
家族全員が食卓を囲む。
中央には、シロネが焼いたニードルラビットの肉。
リナ:「今日はシロネがごはんを作ったのよ」
シロネ:「私が狩って、捌いた」
トルク:「おお! シロネが全部やったのか!」
ミア:「お姉ちゃん、すごい!」
シロネ:「なっ!」
耳がぴんっと立つ。
尻尾も左右に揺れ始める。
レオ:「でも、それおいしいのかよ?」
シロネ:「むっ」
レオが骨付き肉を一本取る。
シロネ:「だったら食べてみればいいでしょ」
レオ:「言われなくても食うよ」
ぱくっ。
もぐもぐ。
シロネ:「……」
レオ:「……」
シロネ:「どう?」
レオがもう一口かじる。
レオ:「うまい!」
シロネ:「!」
レオ:「これ、おいしい! シロネ、また作ってくれよ!」
ミア:「ミアも!」
トルク:「こりゃいいな!」
リナ:「上手にできてるわよ、シロネ」
シロネ:「……ふんふん」
腕を組み、満足げに何度も頷く。
シロネ:「反応は上々だ!」
尻尾は正直にぶんぶん揺れていた。
シロネ:「また捕ってくるね」
自分が強くなるために狩った魔物。
それが家族の食事にもなる。
悪くない。
むしろ――かなりいい。
◇
翌日。
シロネが家の外へ出ると、レオとカイルが待ち構えていた。
シロネ:「……なに?」
二人がずいっと近づいてくる。
レオ:「シロネ! 昨日、ニードルラビット5匹も狩ったんだろ!」
カイル:「なに一人で手柄立ててるんだ!」
レオ:「俺たちにもやらせろよ!」
シロネ:「えー……」
嫌そうに耳が倒れる。
シロネ:「めんどくさいし、教えない」
レオ:「なんでだよ! 教えろよ!」
シロネ:「やだ」
カイル:「いいじゃんか! 教えろよ!」
シロネ:「やーだ」
レオ:「教えろって!」
シロネ:「やだって言ってるでしょ!」
二人が引かない。
シロネの額に青筋が浮かぶ。
ぷちっ。
シロネ:「……じゃあ」
二人を見る。
シロネ:「私の子分になったら教えてあげる」
ふんふん!どやぁ。
これなら嫌がるだろう。
兄のレオが、妹の子分になるなんて言うはずがない。カイルだって同じだ。
一瞬の沈黙。
レオ・カイル:「いいぜ!」
シロネ:「なっ!?」
耳と尻尾が同時に跳ね上がる。
シロネ:「えっ、ちょっと待って! やっぱなし!」
レオ:「もう撤回なしだからな!」
カイル:「言ったのシロネだからな!」
シロネ:「いや、今のは――」
レオ:「何から教えるんだ?」
カイル:「狩りだろ! いつ行く?」
話がどんどん進んでいく。
シロネ:「ななななっ!?」
完全に想定外だった。
得意げだった顔が一気に崩れる。
シロネ:(やってしまったー!)
こうしてシロネに――
**二人の子分ができた。**
第7話|子分ができた 終
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