第6話 うれしいサプライズ
第6話|うれしいサプライズ
《村人》Lv.10達成。第二職業枠も無事に解放した。
シロネ:(次はお待ちかね――《アサシン》!)
前世で最も長く使い続けた基本職。解放条件も当然覚えている。
**短剣で5体討伐。**
シロネ:「短剣、短剣……」
短剣さえあれば、あとは倒しやすい魔物を選べばいい。
シロネ:「……あ!」
盗賊に攫われたとき、相手から奪った短剣があった。
シロネ:「お母さーん!」
リナ:「なにー?」
シロネ:「私が盗賊から奪った短剣、知らない?」
家事をしていたリナが手を止める。
リナ:「短剣? 助け出したときには持ってなかったわよ」
シロネ:「なっ!?」
あの日の逃走を思い返す。レオとミアを連れて、森の中を必死に逃げ回った。
シロネ:(逃げてる途中で落とした……?)
どこで失くしたのかまでは分からない。
シロネ:「そう……」
耳がぺたんと倒れる。
《アサシン》解放――開始前から頓挫した。
◇
短剣がないなら仕方ない。
シロネは家の前に座り、薬草をすり潰していた。
ゴリゴリ、ゴリゴリ。
シロネ:(短剣ほしいなぁ~)
《アサシン》が無理なら、その間に《調合師》を育てればいい。薬草をすり潰し、いろいろな組み合わせを試していく。
ゴリゴリ、まぜまぜ。
すると――。
**《痺れ薬》の調合に成功しました。**
シロネ:「おっ」
完成した薬を覗き込む。
シロネ:(痺れ薬か。これは使えそう)
ひとまず大切に保管する。
そして、また薬草を手に取る。
シロネ:(短剣ほしいなぁ~)
◇
別の日。
トルク:「シロネ、釣りでも行くか!」
シロネ:「うん!」
父のトルクと一緒に海へ向かう。
二人で並んで座り、餌をつけた針を海へ投げる。しばらく待っていると、竿先がぴくっと動いた。
シロネ:「きた!」
トルク:「慌てるなよ。そのまま引け!」
シロネ:「よいしょっ!」
ざばんっ!
小さな魚が海面から飛び出す。
シロネ:「釣れた!」
ぴちぴちと跳ねる魚を押さえた、そのとき――。
**職業《釣師》が解放されました。**
シロネ:「なっ!」
トルク:「どうした?」
シロネ:「……なんでもない」
魚を持ったまま、内心で確認する。
シロネ:(《釣師》も取れた)
新しい職業が増えた。これは普通に嬉しい。
それでも頭の片隅には――。
シロネ:(短剣ほしいなぁ~)
三回目。
そろそろ頭から追い出す。
◇
穏やかな波の音を聞きながら、二人で釣りを続ける。
トルク:「そういやシロネ。最近、よく村の手伝いしてるんだってな」
シロネ:「うん! まあね!」
少し得意げに胸を張る。
トルク:「母さんから聞いたぞ。毎日頑張ってるって」
シロネ:「ふふん」
トルク:「偉いな!」
トルクが頭をわしゃわしゃ撫でる。
シロネ:「わっ、ちょっと!」
ぐしゃぐしゃになった髪を手で直す。それでも尻尾は少し嬉しそうに揺れていた。
トルク:「何か欲しいものでもあるのか?」
シロネ:「短剣がほしい!」
一拍。
シロネ:「なっ!」
言ってから気づいた。
村は食料にも余裕がない。毎日の食事だって十分とは言えないのに、自分の武器を買ってもらう余裕なんてあるはずがない。
シロネ:「……忘れて」
トルク:「短剣か」
シロネ:「いいの。ほんとに」
トルク:「そうか」
トルクはそれ以上何も聞かなかった。
シロネも海へ視線を戻す。
少しの沈黙。
ぴくっ。
竿先が動いた。
トルク:「シロネ、来てるぞ!」
シロネ:「えっ!?」
トルク:「引け、引け!」
シロネ:「分かってる!」
ざばんっ!
今度はさっきより大きな魚が跳ねる。
トルク:「おお! やるじゃないか!」
シロネ:「ふふん!」
短剣の話は、それで終わった。
◇
それからの日々。
シロネは調合を繰り返し、魚を釣り、村の仕事も手伝った。
《調合師》や《釣師》を育てるだけでもやることは多い。最初こそ短剣のことばかり考えていたが、忙しく過ごしているうちに、そのことも少しずつ頭から抜けていった。
そして――二週間後。
トルク:「シロネ! 釣り行くぞ!」
シロネ:「うん!」
再び二人で海へ。
以前より竿の扱いにも慣れ、シロネは魚を釣り上げていく。
トルク:「上手くなったな!」
シロネ:「まあね!」
トルク:「最初は魚に引っ張られてたのにな」
シロネ:「あれは最初だけ!」
トルク:「ははは!」
何匹か釣った頃には、空が赤く染まり始めていた。
トルク:「そろそろ帰るか!」
シロネ:「うん」
二人で魚を持って村へ戻る。
この頃には、シロネの頭から短剣のことはすっかり抜けていた。
◇
家へ入ったシロネが、ぴたりと止まる。
シロネ:「……ん?」
食卓には、いつもより少し多めの料理が並んでいる。
豪勢というほどではない。それでも、この家では明らかに特別な食卓だった。
シロネ:(今日、何かあったっけ?)
レオとミアもすでに座っている。
リナ:「シロネ、こっちに座って」
シロネ:「うん……?」
言われるまま座る。
リナとトルクが顔を見合わせた。
リナ:「シロネ」
トルク:「誕生日おめでとう!」
レオ:「おめでとー!」
ミア:「おめでとー!」
シロネ:「なっ!?」
耳が一気に立つ。
みんなを見る。食卓を見る。
シロネ:(誕生日……)
完全に忘れていた。
前世の記憶が戻ってから、やりたいことが多すぎて、自分の誕生日まで頭が回っていなかった。
今日で――六歳。
リナ:「どうしたの?」
シロネ:「……忘れてた」
レオ:「自分の誕生日を!?」
シロネ:「うるさい」
レオ:「普通忘れるか?」
シロネ:「レオは黙ってて」
レオ:「なんでだよ!」
トルクが笑い、リナもつられて笑う。ミアもよく分からないまま楽しそうに笑っている。
シロネ:「……ありがとう」
改めて祝われると、なんだかむずがゆい。
耳がぴくぴく。
尻尾も左右に揺れる。
レオ:「シロネ、尻尾すげー動いてるぞ」
シロネ:「なっ! 見なくていい!」
レオ:「喜んでるじゃん」
シロネ:「むぅ~!」
また、みんなが笑う。
シロネも恥ずかしさをごまかすように料理へ手を伸ばした。
今日は少しくらい、育成のことを忘れてもいい。
家族と一緒に食べる。それだけで十分だった。
◇
食事が一段落した頃。
トルク:「そうだ、シロネ」
シロネ:「?」
トルクが細長い布包みを持ってくる。
トルク:「俺たちから、もう一つあるぞ」
リナ:「誕生日の贈り物よ」
シロネ:「私に?」
トルク:「ああ。開けてみろ」
シロネが受け取る。
ずしっ。
見た目より少し重い。
シロネ:「……?」
布をゆっくりほどいていく。
ちらりと金属の光が見える。
シロネの手が止まる。
布を完全に外す。
**一本の短剣。**
シロネ:「なななっ!?」
耳がピンッと立ち、尻尾がぶわっと膨らむ。
レオ:「うわっ! 短剣!? いいな~!」
ミア:「おぉー!」
シロネは両手で短剣を持ち上げる。
鞘から少しだけ抜く。
キラッ。
ちゃんとした刃だ。
シロネ:「これ……」
トルク:「欲しいって言ってただろ?」
シロネ:「でも……」
思わずリナを見る。
この家に余裕がないことくらい、シロネにも分かっている。
リナ:「誕生日だもの」
シロネ:「……」
もう一度、短剣を見る。
欲しかった武器。
《アサシン》を解放するために必要だったもの。
でも今は、それより先に出てくる言葉があった。
シロネ:「……お父さん、お母さん」
短剣をぎゅっと抱える。
シロネ:「ありがとう! うれしすぎる!」
トルク:「ははっ! そんなに喜んでくれるなら良かった!」
シロネの尻尾がぶんぶん揺れる。
トルク:「切れ味が落ちないように、ちゃんと研ぐんだぞ。道具は手入れして長く使うんだ」
シロネ:「うん!」
リナ:「それと、危ないことはしないでね」
シロネ:「……うん」
リナ:「シロネ?」
シロネ:「なっ! 気をつける!」
レオ:「今、間があったぞ」
シロネ:「なかった!」
レオ:「あった!」
シロネ:「ない!」
ミア:「ないー!」
シロネ:「ミアはいい子」
レオ:「なんでだよ!」
家族の笑い声が響く。
その真ん中で、シロネはもう一度短剣を見る。
欲しかった武器。
そして――家族からもらった、初めての大切な武器。
シロネは嬉しそうに鞘を撫でる。
明日から、また忙しくなりそうだった。
**第6話|うれしいサプライズ 終**
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