第5話 まだ幼いシロネ
第5話 まだ幼いシロネ
朝。
シロネは家の前に座り、昨日手に入れた《鑑定》で自分の情報を眺めていた。
**――――――――――**
**名前:シロネ**
**種族:■■族**
**職業:《村人》Lv.2**
**解放職業:《調合師》Lv.1**
**――――――――――**
種族の《■■族》は相変わらず気になる。
けれど、今見たいのはそこではない。
シロネ:(《村人》Lv.2……)
前世で遊んでいたゲームには、数え切れないほどの育成論があった。
火力を最優先する構成。
特定スキルを先に取得する構成。
隠し職業を最短で解放する構成。
その中でも、序盤にやっておくと後々の育成効率が大きく変わるものがある。
シロネ:(まずは《村人》をLv.10にする)
《村人》は、何の変哲もない基本職。
だが――。
**《村人》Lv.10。**
**第二職業枠、解放。**
二つの職業を同時に設定できるようになる。
シロネ:(二職を並行して育てられる。序盤ではほぼ必須!)
さらに《村人》はLv.30まで育成可能。
そこまで到達すれば《村長》《里長》《町長》《族長》など、中級職の解放を狙える。さらに第三職業枠まで視野に入る。
シロネ:(でもLv.30は大変なんだよね……)
もっと早く第三職業枠を狙う方法もある。
称号――**《村の長》**。
条件さえ満たせれば使える抜け道。
シロネ:(まあ、今の私じゃ無理)
なら、今やることは一つ。
シロネは立ち上がる。
シロネ:「村クエやるか~」
もちろん、本当にクエストが発生しているわけではない。
シロネが勝手にそう呼んでいるだけだった。
◇
村の朝は早い。
海から戻った大人たちが魚を運び、別の場所では干物を作る準備が始まっている。
シロネ:「何か手伝うことある?」
村人:「ん? シロネか。じゃあ、この籠を向こうまで運んでくれるか?」
シロネ:「うん」
小さな籠を両手で抱える。
てくてく。
運び終える。
シロネ:(一個)
次。
リナ:「シロネ、この魚を並べるの手伝ってくれる?」
シロネ:「任せて」
一匹ずつ並べる。
次。
水汲み。
次。
家の掃除。
次。
乾かしていた籠を集める。
シロネ:(村人らしいことをする。たぶんこれでいい)
ゲームでは、村の雑用や住民の依頼をこなしていけば《村人》の職業経験を稼げた。
現実になった今も同じ保証はない。
だから、ときどき確認する。
シロネ:「《鑑定》」
**《村人》Lv.3**
シロネ:「よし」
尻尾が小さく揺れた。
方針は合っている。
それからシロネは、毎日のように村の手伝いを始めた。
魚を運ぶ。
掃除をする。
水を汲む。
干物作りを手伝う。
頼まれれば、できる範囲で何でもやる。
村人:「シロネ、最近よく手伝ってくれるな」
シロネ:「うん」
村人:「偉いなぁ」
シロネ:「まあね」
褒められて、耳がちょっとだけ上を向く。
だが目的は忘れていない。
シロネ:(順調、順調)
◇
数日後。
シロネは家の前で、リナに頼まれた作業をしていた。
籠の中身を種類ごとに分けていく。
そこへ――。
レオ:「シロネー!」
シロネの耳が動く。
レオとカイルが走ってきた。
カイル:「遊ぼうぜ!」
シロネ:「いまむり」
即答。
レオ:「早っ!」
カイル:「何してんだ?」
シロネ:「お手伝い」
レオ:「最近そればっかじゃん」
シロネ:「忙しいから」
レオ:「ちょっとくらいいいだろ。行こうぜ!」
シロネ:「むり」
レオ:「いいから!」
シロネ:「ちょっ――」
腕を引かれる。
シロネ:「なっ!?」
そのまま二人に連れていかれた。
◇
しばらく後。
三人は村の外れで遊んでいた。
レオ:「それっ!」
カイル:「待てー!」
シロネ:「遅い」
レオ:「お前が逃げるの速いんだよ!」
走って、追いかけて、逃げて。
気がつけばシロネも普通に遊んでいる。
シロネ:「ふふん」
そのとき。
遠くから声が響いた。
リナ:「シロネー!」
シロネ:「……」
耳がぴくり。
リナ:「まだ途中でしょうー!」
シロネ:「…………なっ」
完全に忘れていた。
シロネ:(しまった)
三人で家へ戻る。
そこには――途中までしか仕分けされていない籠。
しかも放置している間に、別の物まで追加されていた。
シロネ:「…………」
リナ:「途中で遊びに行っちゃったから、まだ終わってないわよ」
シロネ:「……はい」
結局、最初から分け直す。
レオ:「じゃ、俺たち遊んでくるな!」
カイル:「またなー!」
シロネ:「…………」
楽しそうに走り去る二人。
シロネ:(余計に時間かかった……)
耳がぺたんと倒れた。
◇
それからさらに日が過ぎる。
シロネは懲りずに手伝いを続けた。
**《村人》Lv.4。**
魚を運ぶ。
**Lv.5。**
掃除。
**Lv.6。**
水汲み。
**Lv.7。**
日が昇って、沈む。
また次の日。
その繰り返し。
ある日、シロネが干物を並べていると――。
レオ:「シロネー!」
聞き慣れた声。
シロネ:「……」
今度は振り返らない。
カイル:「遊ぼうぜ!」
シロネ:「いまむり」
レオ:「またかよ!」
シロネ:「あとで」
カイル:「最近ずっとあとでじゃん」
シロネは黙々と魚を並べる。
レオ:「なあ、今日はいいだろ?」
シロネ:「むり」
レオ:「ちょっとだけ!」
シロネ:「あとで」
レオ:「なあって!」
ぷちっ。
シロネのアホ毛が跳ねた。
シロネ:「ぬっーん!! いまむりっていってんだろ!」
レオ:「ご、ごめん……」
カイル:「……悪かった」
二人の耳がしゅんと下がる。
シロネ:「…………」
レオとカイルが静かに離れていく。
シロネは干物を一枚置く。
もう一枚。
ちらっ。
遠ざかる二人を見る。
シロネ:「…………」
ちょっと言いすぎた。
シロネ:(大人げなく怒ってしまった……)
反省する。
そして気づく。
シロネ:(……私、まだ5歳だけど)
なんとも言えない顔になる。
前世の記憶が戻ったからといって、今の自分が急に大人になったわけではない。
シロネは小さく息を吐くと、再び手を動かした。
◇
それからもシロネは村の中を走り回った。
手伝って。
手伝って。
たまに遊びたくなるのを我慢して。
約一か月。
その日も、頼まれていた仕事を全部終わらせた。
シロネ:「ふぅ……」
念のため確認する。
シロネ:「《鑑定》」
表示された情報を見る。
**《村人》Lv.10**
シロネ:「……!」
直後。
新しい感覚が身体の中に広がる。
**第二職業枠が解放されました。**
シロネ:「きた!」
耳がピンと立ち、尻尾がぶんぶん揺れる。
一か月。
ようやく目標達成。
シロネ:(これで職業を二つ同時に設定できる!)
一つの職業だけを育てるより、二つを並行して伸ばせる。
ここから育成効率が大きく変わる。
シロネ:(さっそく第二職業を――)
現在解放されている職業を確認する。
**《村人》**
**《調合師》**
シロネ:「…………」
二つ。
以上。
シロネ:「…………」
アホ毛が、へにゃっと倒れる。
せっかく第二職業枠を解放したのに、入れられるものがほとんどない。
シロネ:(……まあいい)
《村人》と《調合師》を設定。
シロネ:(職業はこれから増やせばいい)
本命は別にある。
前世で最も長く使い続けた職業。
それを取るためにも、まず土台を作ったのだ。
シロネ:(次は――)
そこで、遠くから笑い声が聞こえた。
レオ:「カイル! そっち行ったぞ!」
カイル:「分かってるって!」
二人が遊んでいる。
シロネ:「…………」
見る。
少し目を逸らす。
また見る。
尻尾の先が、そわそわ動く。
一か月、手伝いばかりしていた。
シロネ:「…………」
ゆっくり二人へ近づく。
シロネ:「……ねぇ」
レオ:「ん?」
カイル:「どうした?」
シロネは少しだけ視線を逸らした。
シロネ:「お手伝い、終わったから……」
一拍。
シロネ:「……遊んでもいい?」
カイル:「お前、かわいいやつだな!」
シロネ:「なっ!」
耳がピンッと立つ。
レオ:「あんなに遊ばないって言ってたくせに!」
シロネ:「言ってない!」
カイル:「じゃあ行こうぜ!」
シロネ:「……うん」
三人が走り出す。
レオ:「シロネ、鬼な!」
シロネ:「なんで私!?」
カイル:「一番速いから!」
シロネ:「むぅ~!」
文句を言いながら、それでもシロネの尻尾は楽しそうに揺れていた。
前世の知識があっても。
効率のいい育て方を知っていても。
一か月も黙々とレベルを上げられても――。
今のシロネは、まだ子供だった。
第5話 終
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