27 夕暮れのキッチンにて
二人はまほろのマンションに帰ってきた。
「――ふぅ、結構買ったよな……」
まほろが両手の荷物をリビングのテーブルに広げた。食料品のほかにあおいの日用品もまほろが買ったのだ。ノンシリコンシャンプー&コンディショナー、女性用の優しい洗顔料、化粧水、日焼け止め、ヘアオイル……。あおいは要らないと言ったのだが、まほろよりも自分の身を構わなさすぎるあおいに、彼は強引に買わせたのだった。
洗面台のまほろのガサツなメンズ洗顔料の隣にそれらがちょこんと並べられる。男の一人暮らしの洗面台が、一気に「女の子のいる生活」の彩を帯びていく。
「よし、じゃあ作るか」
「おい、本当にホワイトソース、作んのかよ?市販品使った方がいいんじゃね?」
「うん……それもいいけど、今日は時間もあるからね。……じゃあ高山、玉ねぎの皮剥いて」
そこに座ってて……とは言わない。二人の最初の共同作業だ。狭いキッチンで肩を並べてグラタンを作りはじめた。フライパンでスライス玉ねぎと鶏肉をバターで炒める。ホワイトソースを別に作るのではなく、それ自体に粉をまぶすのだ。見る間に、ダマのないソースが出来上がっていく。
「よし、ここから裏技だ……牛乳を少し多めに入れて乾燥マカロニを別茹でせずに直接入れるんだ」
「へぇ……最初から一緒に煮るんだな。洗い物が少なくて合理的だよな……」
やがて、マカロニが牛乳の中で静かに踊りはじめると、あおいはそっとその様子を覗き込んでいた。
その瞳には、さっきまでの垣間見える不安げな様子は消えて、どこか懐かしそうに嬉しそうに料理を見つめる色が宿っている。とろみ具合を生クリームで調整する。
「……少し、火が強いかな」
あおいがスッと手を伸ばし、火加減を微調整した。その所作は、まほろが想像していた「行き倒れの美少女」のそれではない。調理器具を扱う手つきが、あまりにも迷いなく手慣れている。
「……あおい……随分手慣れているんだな」
「えっ?。あ、うん。……何となく、分かるっていうか。趣味でもあるしね」
誤魔化すように笑うあおいは、そのまま自然な動作で岩塩を手にした。
ぱらぱらと、まるで砂時計の砂を落とすかのように、指先から塩が振り入れられていく。味見の必要すらないとでも言うような、完璧なタイミングと量だった。
「……はい。これで味は整っているはずだよ」
まほろが匙でソースをすくい、口に運ぶ。
「薄い感じだけどね、これにチーズをかけて焼くからこれぐらいなんだよ」
鶏肉とバターのコクが、牛乳でのばしたホワイトソースに完全に溶け込み、塩味一つで味が決まっている。マカロニにも丁度良く火が通っていた。
「すごいな、あおい。店で食うグラタンみたいだ……それ以上かも?」
「ほめ過ぎだよ……ふふっ、高山も手伝ってくれたからだよ」
あおいは少し照れくさそうに微笑んだ。
―――水瀬 あおい……こいつ本当に、ただの学生か?
まほろは、あおいの手元とその横顔を交互に見つめ、得体の知れない「違和感」と「安心感」の両方を噛みしめるのだった。




