24 美少女 『水瀬 あおい』 誕生
ドアノブがカチャリと音を立て、静かだった部屋の空気が一気に動いた。
「ただいまー。死んだ……マジ今回のテスト、平均点ある気がしねえわ……」
玄関の扉を開け、通学カバンを床に放り出すようにして入ってきたのは、精神的に疲労困憊のまほろだった。テストの緊張から解放されて、肩をガックリ落としている。けれど、リビングに座り込んでいる「その姿」が目に入った瞬間、まほろの言葉が喉に引っかかった。
「……あ、お帰り、高山……」
あおいはすっと立ち上がり、はにかむように少しだけ首を傾げた。
まほろは、石のように硬直した。
底に立っていたのは、もうまほろの「ぶかぶかジャージ」を着た、不格好な居候では無かった。
何日か前、スマホの画面を見ながら二人で選んだ、あのサックスブルーのTシャツ。
爽やかな夏の空のような色が、あおいの驚くほど白く滑らかな肌を眩しいほどに引き立てている。鎖骨のラインが綺麗に見える広めの襟元からほんの少しだけのぞく華奢な肩。
そして「スカートは絶対動きづらい」とあおいが頑なに譲らなかった、チャコールグレーのキュロットパンツ。それは適度にアクティブで、けれどあおいのスラリと伸びた細くしなやかな脚のラインを、暴力的なまでに剝き出しにしていた。ひざから下にきゅっと引き締まった足首。25cmの足先がちょこんと並んでいる。
「あのね……サイズが思ったよりピッタリだった。下着も、その……ごわごわしてなくて、凄く楽になったよ」
あおいは自分の胸元を隠すように、少し恥ずかしそうにサックスブルーの裾をきゅっと握りしめた。
女の子の身体の「胸のふくらみ」や、ジャージの時には隠れていた細いウエストのラインが、完璧なフィット感の服によってどうしても強調されてしまう。
中身は、これまであまり話したことのなかった「水瀬 蒼」のはずだった。
そう分かっているのに、まほろの目は、あおいの鎖骨から、白い生足、そして少しだけ赤くなった耳元へと泳いでしまう。あまりの可愛さに、網膜が焼き切れそうだ。
「お……おう。結構似合ってんじゃねえの……」
まほろは必死に顔を向け、赤くなりそうな頬を手で覆った。
(おいおいおい、可愛すぎんだろ。なんなんだよサックスブルー……!反則だろ?向坂より全然……いやいや、比べるのもおかしいけど、破壊力あり過ぎんだろっ!!)
脳内で再び般若心経を唱え始めるまほろ。そんなまほろの葛藤などつゆ知らず、あおいは……しかし少しきまり悪そうに髪を耳にかけ、視線を泳がせた。
「あ、そうそう。高山の分は、ここに畳んであるから」
ソファーの片隅には、綺麗に折りたたまれた服の山が置いてあった。大きなメンズサイズのサックスブルーのTシャツ他何枚か。キュロットと同色のハーフパンツ。靴下。
それは、あおいが注文した品とよく似ていた。
二人に気まずい長い沈黙が訪れた。
まほろがそれを見た瞬間、自分がこっそり注文時にカートに追加したことを思い出して、心臓が跳ね上がった。
(ぅわーっつ!やべえっ……置いてあるってことは、これ、あいつに見られて完全にバレてんじゃん)
けれど、それに関しては、あおいも何も聞かなかった。嬉しそうにまほろに笑いかける。
「有難う……高山」
「お、おう……」
お互いに目を合わせず、まほろは、黙って自分の服をクローゼットに入れるのであった。
あれ?よく考えたらパジャマとかまだまだ買うものが……(笑)




