23 服が届いた!!
ピンポーン。
静かなリビングに、突然インターフォンの電子音が鳴り響いた。ダイニングテーブルで一人、まほろの残した教科書を使って勉強(自主学習)していたあおいは、ビクッと肩を揺らした。インターフォンの画像には宅配のロゴの入った帽子と服を着た男が映っていた。
(……あ、あの通販のやつかな)
まほろと二人で悩みながら注文した、ユニークの段ボールに違いない。あおいは、まほろのぶかぶかジャージのまま玄関へと急いだ。だが、ドアノブに手をかけた瞬間、あおいはハッと動きを止める。
(待て……。こんな格好は、絶対変に思われる。サイズの合わない男物のジャージ着て出るなんて……おかしいだろ……)
あおいは小さく息を吐き、喉のコンディションを整えながら平静を装った。
「は、はい。どちら様ですか?」
「あ、宅配便です。高山さんですね?」
「……は、はい。……今ちょっと手が離せないので……その……ドア前に置いておいてもらえますか?」
あおいは、慌てて言い訳を考えた。
「はい。じゃ、サインだけ貰えますか?」
チェーン越しに伝票だけ受け取って、あおいは素早く『高山』の名前を書いて渡した。
ドアの向こうでカサカサと段ボールが床に置かれる音がして、やがて軽快な足音がエレベーターの方へと遠ざかっていった。
「ふぅ……」
あおいは胸に手を当てて、深く息を吐きだした。ドクドクと心臓がうるさい。ただ荷物を受け取るだけなのに、まるでスパイミッションをこなしたかのような緊張感だ。
足音が完全に消えたのを確認してから、あおいはドアチェーンをかけたまま、そっと数センチだけ扉を開けた。
隙間から外を覗き、誰もいない廊下を確認する。
チェーンを外し、素早くドアを開けて、廊下に置かれた段ボールを両手で抱え込んだ。
(……重たっ)
以前なら、これぐらい片手だけで簡単に持ち上げられた服入りの箱。今の自分の細い腕にはずっしりと重みが伝わってくる。……ん?心なしか注文の量にしては、箱が大きくないか?
あおいはドアを閉めると抱きかかえた段ボ―ルをリビングまで、ずるずると運んだ。
「やっと、届いた……」
ダイニングテーブルの横に段ボールを置き、カッターナイフを慎重に手にする。ついにこのぶかぶかの服から解放されるのだ。あおいは少しだけ弾む鼓動を感じながら、梱包テープに刃を滑らせた。
「これでよし、と」
梱包テープを奇麗に剥がして、あおいは段ボールの蓋を左右に大きく開けた。
現れたのは、女の子用の下着の入ったパック、パンツ(ズボン)Tシャツ、パーカー……。これでまほろのトランクスともおさらばできる。
(あれっ?……服がなんだか多いぞ……)
それはあおいが自分用に選んだサックスブルーのT シャツに、もう一枚大きいサイズの同じ製品が入っている。それも色違いがあと数枚。パーカーもサイズ、色違いで一枚多い。自分が選んだキュロットに似た、メンズ用のハーフパンツ……ボトムス……なんだかお揃いのようにも見えた。それで、箱が重かったんだ……。
あおいは、注文したあの夜のことを思い出していた。
まほろのスマホ画面を二人で覗き込みながら、決済画面まで進めたのはあおいだった。けれど最後の最期で「俺のカード番号入れるから貸して」と、スマホを奪うようにして自分の手元に引き戻したのだ。
(何だ……あいつ……あれから自分の分も追加しやがったな⁈)
あおいの頭に、まほろの澄ました顔が浮かぶ。
『なぁ……それ、良い色だな。……ふうん、サックスブルーか……』
『うん。落ち着いて爽やかな色だろ?フフッ、高山には似合わないだろうな……きっと』
『うるせえ、ほっとけ!……似合うわ……多分だけどよ』
あの時の、何でもない男同士の軽い口喧嘩。
ふざけて、話していたのだと思っていたが、まほろは決済の直前に買い物かごにぶち込んでいたのだ。
(アイツ……一体何考えてんだよ……?)




