19 色即是空 空即是色 2
「おい高山、お前の『青チャート』貸してみろよ」
「お、おう……これだけど……」
まほろがダイニングテーブルに差し出した分厚い参考書は、驚くべきことにページが全て綺麗でピカピカだった。あおいがパッと開くと、最初の数ページだけ丸バツがついていて、今まさにテスト範囲になっているベクトルの応用ページは、完全に新品のように美しいさを保っていた。
「高山……お前、本当に1ページも手付かずじゃん!?」
「うっ、うるせえ、授業のスピードが速すぎんだよっ!……そこまで手が回んねえんだっ」
「はぁ……っ、これじゃあ、解説の解説からしなきゃダメか……僕の部屋にあるヤツなら、もっと分かりやすい別解とか、過去の出題パターンとか載ってんだけどな……」
あおいは自分の使い込まれた参考書や書き込まれたノートを思い出し、もどかしそうに眉をひそめる。
「やっぱり、一旦僕の家に一回戻って、自分の勉強道具……あっ!」
「ちょいちょい……待て待て待て!行って来るってさ、お前、今日は『水瀬 蒼』は欠席だったぞ?……おまけにその格好で、外に出んのか?」
あおいは、今の自分の格好に気づいた。ぶかぶかのサイズの合わないジャージ……。
「それによ、お前のその見た目で『僕の参考書返してください』って突撃すんのかよ?お前の親、マジ卒倒するわ……つうか、もし水瀬と鉢合わせしたらどうすんだよ⁈」
「あ……。そ、そうか。今の僕の家には僕(別の奴)が居るかもしれないんだった……」
自分の家なのに、もう二度と堂々と玄関をまたぐことも、自分の部屋の机から参考書も持って来ることも出来ない。ダイニングテーブルの上で、まほろの真っ白な参考書を見つめながら、あおいは自分は本当に自分の日常から締め出されてしまったんだ……という現実を、ガツンと突き付けられることになったのだった。
うなだれるあおいに、まほろはとっさに話題を変えようとした。
「おい、み、水瀬 あおい。コーヒーでも飲もうぜ……インスタントだけどな」
そういって、まほろはお湯を沸かすために立ち上がり、キッチンへ向かった。




