14 ブカブカの居候と、理性の限界注文 1
ガチャリ、と玄関の鍵を開け、まほろは息を切らせたまま、マンションに帰ってきた。
「……はぁ、戻ったぞ」
「あ、高山!お帰りっ」
パッと顔を輝かせて待ちかねたように嬉しそうに出迎えてくれたあおいの姿を見て、まほろは一瞬、心臓が跳ねあがって言葉を失った。
あおいは、まほろが貸したブカブカのグレーのジャージ姿のままだ。首元は鎖骨の下ギリギリまで覗き、袖は手の甲を完全に覆う『萌え袖』状態。そして長すぎるジャージの裾に隠れた白い足。
まほろはとっさに視線を天井へ逸らし、首の後ろを乱暴に掻きながら、学校での『答え合わせ』の結果を告げた。
「……今日、二組の奴に聞いてきた。……水瀬 蒼は『体調不良で欠席』ってことになってたわ」
「……そっか……やっぱりそうだよね……うん……」
あおいはフッっと視線を落とし、寂しそうに肩を落とした。
実家には、まだ自分の『身体』があるのかな?親はそこにいる別の誰かを『水瀬 蒼』だと思って普通に生活しているんだ……とすると自分の居場所はもうあの家には無いんだ……と突き付けられたような気がして、あおいの胸にじんわりと孤独が広がっていく。
「あー、……んまぁ、落ち込むなよ……それよりメシだ!、メシにしよう。俺、コンビニ行って何か買ってくるよ」
気まずい空気を振り払うように、まほろはスマホを掴んで出かけようとしたその時だった。
「……高山……あのさ……その……」
あおいがボソッと消え入りそうな声でまほろの背中に呼び掛けた。
「あ?なんだよ」
「……僕……服が欲しいんだけど……このままじゃあ、僕は外にも出られないよ」
「服?……あっ、ああ、そうだな。着替えたいのか?そんなら俺の服ならいくらでも貸して―――」
「……あっ、あのね……そ、それだけじゃなくて……ちがうんだ……悪いんだけど……」
あおいは顔を耳の裏まで真っ赤に染め、俯いたまま、まほろのブカブカのジャージの胸元をぎゅうっと手で隠すようにして呟いた。もじもじしながら蚊の鳴くような小さな声で。
「……女の子用の下着……買って、くれないかな……?」
「―――は?」
まほろの思考が、完全に停止する。
「えっ……いや……さ、だって……高山のトランクス、すっごく大きくて、動くとずれ落ちそうだし、スース―して落ち着かないし……。それに、その、今の僕、胸の所もなんか……歩くだけでちょっと痛いっていうかなんていうか……その……響くから……」
「……?」
あおいはついこの間まで男子だったからこそ、必要性に駆られて大真面目にまほろに相談しているのだ。だが、それを聞かされている高山 まほろという男は、健康な男子高校生である。マンションの空間が、一気に熱をおびたように錯覚した。
「げえっ!……しっ、下着っ⁉俺に買いに行けって?無理無理無理無理無理っ!!!」
まほろは飛び上がるようにしてソファの後ろまで距離を取り、両手をぶんぶんとふって顔を真っ赤にした。
「ばっか野郎っ!……いいか?俺が下着売り場に行って、女子高生の下着コーナーで『これ下さい』とか堂々とできるわけねぇだろうがっ!不審者扱いされて通報されっかも知れねぇんだぞ?」
「あ……う、うん、そうだよね……!ごめんね、僕、そこまで頭が回らなくて……」
「大体お前さ、サイズとか分かるのか?」
「えっ?サイズなんて測ったことないよ!男の時の服は大体背格好で、大体Lサイズで十分だったんだけど……今のこの胸のサイズなんて、僕が分かるわけないじゃんっ!」
「お前が分からんもの、俺が分かるわけねえだろがっ!!!」
大声で、話すまほろを、悲しそうに見るあおいの目が潤んだ。まほろは頭を抱えて広いリビングの絨毯の上に座った。思わずため息が漏れる。
「……じゃあ……とりあえずさ、俺メシ、買ってくるわ」
「うん……ごめんね……」
そう言って、まほろは真っ赤になって、あおいの顔を見ずに慌てて外へ飛び出した。




