#3.0
前話にて説明不足があったため、一部話の展開を修正し、主人公が初めに割り振ったステータスは『素質』から『生命力』へと変更いたしました。
また、それに伴ってレベルを上げるシステムも変更いたしました。
実際の内容としては、
・上げようとしているレベルの値と、上げようとしているステータスの値は一致していなければならない
・ステータスを割り振る際にはステータスパネルに『残り○ポイント』という表記を追加
・レベルを上げる際に『はい/いいえ』の確認画面が出現する
今後の展開に変わりはありません。
ここへ強制転移してきた時から漂っていた、微かなアルコール臭。
それがさっき扉を開けた瞬間に、それまでよりよほど強烈にむわりと鼻の中に広がったのを覚えている。
扉を開けた先に見えた通路、あそこには恐らく高濃度のアルコールが充満していたのだろう。
そして、扉を開ける、あるいはもしかしたらドアノブをひねる、といった何らかのアクションがトリガーとなって、そこに火元が放り込まれた。
結果が、あの大爆発。
つまりあれは、この迷宮の“罠”だった。
そう仮定したとき、色々と見えてくるものがある。
まず、罠の殺意はかなり高めだということ。
あの爆発も、僕は奇跡的に助かったものの、まともにくらえば常人では一堪りもないだろう。
ましてや今の僕は常人未満だ。助かったのは本当に偶然の賜物としか言いようがない。
そして二つ目、罠は、小さな違和感にも注意を払ってさえいれば事前に察知できるように作られているのではないかということ。
今回で言えば、扉越しに漏れてきていたアルコール臭。
それに加えて、扉や取っ手にももしかしたら細工の痕跡があったかもしれない。
思い出してみれば、迷宮に転移する前、システム音声はこうも言っていた―――《原初 特性により、罠の看破難度が上昇します》―――と。
ステータスに制限が掛かっていることと言い、この“原初特性”というのは相当にタチの悪いものとみた。
しかし、“看破難度が上昇” ということは、逆に考えて “難しいが、それでも看破することは可能だ”、ということになる。
これが推測できたことは収穫だ。
細心の注意を払ってさえいれば、初見殺しの罠はない、というのは大きい。
石橋を叩いて渡る、その心持ちで進んでいこう。
いざとなれば、レベルアップによる全回復も躊躇わない。
◇◇◇◇◇◇
側頭部をまだ熱の残る石畳に押し付けて、地面を水平に眺める。
何か不自然に出っ張っているものはないか。
踏んだら罠が発動するような。
「………」
……見当たらない、か。
しかし、初手であれほどの罠を設置してくるような迷宮だ。
罠も見つかりにくくなっているようだし、目に見えなかったところで安全は全く保証されない。
例えば、匂いはどうだろうか。
先の罠に僕が気づけていたとすれば、そのときはアルコール臭が手掛かりになっただろう。
だけどな……今は。
スン、と鼻を嗅がせてみても……鼻腔に広がるのは煙の匂いばかりで、全く参考にならない。
そりゃ、あれだけの燃焼のあとだ。
むしろあの爆発が、この苔生した石畳を舐めたことを考えてみれば煙は少ないくらいだ。
視覚も嗅覚も駄目となれば、聴覚はどうか。
「………」
目を閉じて、耳を澄ませる。
………!
……何かが聞こえた。
何か、ごく小さな音だ。
更に意識を研ぎ澄ませる。
………、……。
これは、何かの噴出音……?
と、そこまで考えて思い至るものがあった。
「………まさか」
罠の再設置。
つまりは、アルコールの充満。
「それはマズい……っ」
何故か。
人間は、というか、多くの動物は酸素の供給が途絶えると呆気なく死に至る。
途絶えるまで行かずとも、酸素濃度が少し低くなっただけでも重篤な症状を引き起こす。
まず、必要とする酸素量の多い脳から機能が低下していく。
そして更に酸素濃度が低下すれば、たった数回の呼吸で意識を失い、心肺停止状態へと陥る。
つまりは、死だ。
さっき爆発したのがアルコールだったとして、アルコールというのは本来、爆発的な燃焼を起こす気体ではない。
確か、アルコール爆発の実験ではアルコール気体を8%の濃度まで調整し、火を近付けることで爆発を起こしていた。
それだけのアルコールが、もし通路全体に充満するまで注入されたとしたら、酸素濃度は間違いなく低下する。
つまり、あの爆発が再発する危険性だけでなく、酸素濃度の低下による症状も警戒する必要が出てくる、ということになる。
……どうすればいい?
石橋を叩いて渡る慎重性と、この通路区画を一刻も早く脱出しなければならない事実は両立できない。
一か八か、罠を踏まないことを祈って駆け抜けるか。
それとも、レベルアップによる全回復を使ってでも慎重に進むか。
………。
―――いや、もう考えている余裕はない。
走ろう。
〈仁城 亜紀 lv.2[+1][-]〉
生命力 1(4)[+]
体力 1(2)[+]
防御力 1(4)[+]
筋力 1(2)[+]
技術 1(3)[+]
魔力 1(0)[+]
素質 1(0)[+1][-]
[魔法] なし
経験値:21,119
残り0ポイント
レベルをいつでも上げられる状態にして、通路に足を一歩、踏み出した。
「………っ!」
怖い。
命を落とす、その危険に身一つで晒されている。
もしかしたら、次の一歩で罠を踏み抜き、その瞬間に僕は槍衾になっているかもしれない。
あるいは、岩に押し潰されるかも。
恐怖で、足が竦みそうになる。
……けど、ここで立ち止まっていても、待っているのは緩やかな死だけだ。
緩やかでいて、確実な。
だから。
僕はまた、次の一歩を踏み出した。
また一歩。
もう一歩。
そして、徐々にそのペースを上げていく。
ぎこちない、ふらふらとした歩みは次第にしっかりとした駆け足へ。
駆け足は次第に全力疾走へと変わっていった。
「―――――!!」
そして、駆け抜けた。
通路を。
「はあっ、はっ、はあ……」
僕は、次の扉の前に辿り着いていた。
死に対する恐怖感と、緊張で固まっていた身体を全力で動かしたことで、息が荒くなっていた。
息を整えると、僕は取っ手に手を伸ばし―――。
ふと先程の出来事が脳裏を過ったので、取っ手をひねる前に念入りに確認しておく。
何か異物はないか。
扉を引いたときに作動するような罠はないか。
こういうところでは、慎重になりすぎるということはないけど、考え始めたらキリがないのも事実だ。
僕は、自分で妥協できる程度に調べ終えると、一息吐いて取っ手をひねった。
そして、扉を押し開く。
ガッ。
「………」
開けられなかった。
そういえば、さっきの扉も手前に引く扉だった。
こういう扉って、何となく外向きに開けるイメージがあるから、つい勘違いを起こしてしまった。
おとなしく、僕は扉を引き開く。
そっと、少しずつ。
やがて自分が最低限通れるだけの隙間を確保すると、静かに身を割り込ませ、ゆっくりと通り抜ける。
そして、またそっと扉を閉じた。
「………」
……何も起こらないみたいだ。
ふう……よし―――。
カチッ。
パアンッ!
ブシュッ!
―――!
僕は、迂闊にも壁についた手で罠を作動させ―――銃弾で頭を撃ち抜かれた。
あまりにも、呆気なく。




