第四話
車が錆びるのが嫌なので、私は馬車に乗って北区の港の近くにある建物に来た。漁師が登録するための手続きをしたり日雇い労働者が仕事を探してもらうための施設だ。日焼けしたいかにも海の男的な連中と、げっそりしたいかにも生活が苦しそうな連中がひしめき合う中、うら若い私は男達の熱い視線を浴びながらその日雇いの方の相談窓口の順番を待って、眼鏡をかけている男性職員のブース席に座った。私は探偵の許可証を見せた。
「ブライトと言います。ジョンという外国人を探しています」
「何人か会いましたが写真が無いとなんとも言えませんね」
「若い女性も一緒にいた可能性があるんですけど。この女性です」
レイチェルの写真を見せると反応があった。
「ああ、この人と一緒のジョンさんね。はいはい、覚えてますよ」
「あ、というか探しているのはレイチェルさんの方なんです。ここで仕事をしたりとかしてませんか? 住所が控えてあれば知りたいんです」
「ああなるほど。いや働いたのはジョンさんだけなんですよね。なにせそのう……」
「何です?」
「どうも正規の入国者じゃないみたいなんですよねえ。レイチェルさんの方で登録してはどうかと言われたんですけど、女性にはきつい仕事しか無いから後で上から確認されるとちょっとまずくてですね。だからうちでは正式な仕事は出せないと言いました。それでも構わないというので住所もいらないようなちょっとした仕事はいくつか出しましたよ」
「そうですか。彼がどこに住んでいるか分かりますか?」
「いえ。ただ真面目に働いてくれましたんでね、何回かうちで働いてもらった後、細かい事情は問わずに高い仕事を斡旋してもらえる所があるんで、そこを紹介しました。情報屋さんなんで深入りするとちょっと危ないですけど、そちらで聞いてもらえますか?」
「分かりました」
私は教えてもらった住所に来てみた。やはり北区だが、こちらは工場が多い。しかし住所は工場の一つではなく、その近くの民家が建ち並ぶ一角にある小さなレストランだった。
入ってみるといわゆる普通の小さなレストランだった。私は店員にジョンの事で聞きたい事があるので店長を呼んで欲しいと言った。
しばらくしてから太った中年の男が現れ、私を奥の席に来るよう手招きした。私は向かい合って座った。薄くなった頭に太いキリッとした眉毛と目つきが印象的な男だ。白いタンクトップに金のネックレス。
私は探偵の許可証を見せた。
「探偵さん? ずいぶん若いね」
「ありがとうございます」
「んん、ああいや……失礼。ジョンに何か用事かな?」
「ジョンというより、その恋人に用事があります」
「ふむ」
私を射抜くような視線。
「何か問題が?」
「そうだな……」
彼は眉の辺りをポリポリと掻いた。
「これは助言なんだが……ジョンに会わずにその、レイチェル君だったか? その娘と会う事はできんかな?」
「というと?」
「俺が売れるのはジョンの住所だけなんだが、こっちの線から行くのは止めたほうがいいんじゃないかと思うんだがね」
「ふむ」
これは何回か経験があるやつだ。
「ヒモが付いているって事ですね?」
「そうだ。私も仕事だからね」
情報屋はたいてい金と引き換えに情報を売る。しかしもちろん仕事柄重要な人物の情報も手に入れる事があるため、狙われると自分の命が危ない。そこで特定の人間の情報を得たら、まず情報屋はそいつと連絡を取る。あなたについての情報を仕入れたんですがね、と。そして金を払ってその情報にオプションを付けるかどうか聞く。
もしそのオプション付きの情報を探しに来た者がいたら、情報は与えてしまうがその事を依頼者に報告する。こうする事でたいてい情報を売られた者は情報を求めた人物を消しに来るか、守るために警備を固める。これなら例えばマフィアの抗争で幹部クラスの人間の情報を売っても緊張状態は保てるし、情報屋が責任を取らされる事も無い。警鐘のヒモを引くと警戒される。そういう訳で、我々はこういう情報にはヒモが付いていると呼んでいる。
なぜジョンの情報にヒモが付いているかは分からないが、危険な事は間違いない。
「ご忠告ありがとう。でも大丈夫です」
私は名刺と金を渡した。彼は金を受け取り、名刺を裏返したりして確認した後机に置いた。
「そうか。見かけによらずタフなんだな」
私は微笑んだ。




