第十一話
――昼下がりの田園風景をたっぷりと堪能した蒸気機関車は、線路上を走る規則的な音を立てながら、鉄と歯車が支配する機械的な首都へと帰還する所だった。
客室の中で窓ガラスに頭を預けて眠っていた私は目を覚まし、ゆっくりと息を吐いてから窓越しに外を見た――。
私はあの後何度も死にながら、レイチェル捜索依頼という楽曲の今夜の部分、つまり救出作戦の部分だけをしつこく譜読みした後、最後の一回の死でここまで時を戻した。ここでアルベルトに手紙を書くためだ。
私は茶色の革の鞄から万年筆と便箋を取り出し、窓際に取り付けられた机を降ろすと、駅に着くまでの時間を使って手紙を書き始めた。
今からの行動を二度書くつもりは無い。違いといえば……。
「うわっ!」
「きゃっ! ご、ごめんなさい!」
私とぶつかったレオンは鞄を落とし、書類が散らばった。私は書類を集めながら、自分が書いた手紙を胸ポケットから取り出して書類に重ねて渡した。
「すみませんでした」
「や、大丈夫だよお姉さん。俺も……」
私は去って行くアルベルトとレオンを見送った。今尾行して牧場まで行けばレイチェルを確保できるかもしれない。そんな考えが一瞬頭をよぎったが、失敗するとこの先のシナリオが大きく変わって全てを仕切り直す必要が出るかもしれない。
私は当初の予定通りに動く事にしてカフェに入った。依頼をこなすために一番最初に戻り、途中からいい未来に、依頼の終結に向かってジャンプする。ダル・セーニョ・アル・コーダだ。私は戻れない人生を歩む人達を眺めながら、もう一度この香りのいいコーヒーを味わった。
そして、同じように時を過ごしていき、あの時点に戻った――。
ハンドガンにサイレンサーを装着し、建物に入るとまず玄関のベルを鳴らし、出て来た男にハンドガンを一発お見舞いして階段を上がった。右に回って最初の部屋には誰もいないのが分かっているのでスルーし、こちらを見た三階の反対側の男に数発。彼は手すりにもたれかかって絶命した。
二歩歩くと二番目の部屋の扉が開くのでその隙間に向かって撃ち、ドアを押して倒れた男をまたいでその部屋に入り、左の薄い壁のシミの右上三センチの部分に銃を当て、引き金を三回引いた。この角度は多少誤差があるが三発撃てば十分だ。これで隣の部屋の男が夢から覚める事は無く、物騒な機関銃が使われる事も無い。
部屋を出て、リロードしながら玄関側の階段を上がって三階へ。昇りきった所でこの階の住人が二人、右奥の部屋から出て来て私を見た。彼等のライフルの銃撃が建物に響いた。私は横にステップしてかわしながらハンドガンで葬るとサブマシンガンに持ち替えた。サブマシンガンを右の部屋のドアに横向きに当ててドア越しに薙ぎ払うと、ライフルの銃声を聞きつけた部屋の中にいる美男子が私と見つめ合う事無くその生涯を終えた。
私は反対側に回った。四階と五階の連中が顔を出し、こちらに向かって撃って来てお祭り騒ぎが始まったが、私は不規則な速度で歩いて弾丸をかわし、手すりに求愛している死体からライフルを取り、中央の部屋のドアを蹴破って中の男達二人に向かってぶっ放すとそのままポイと部屋に捨てた。隣の部屋に入るとそこに私をねぎらうための上等の酒が置いてある。
グラスに酒を注ぐとベッドの横のテーブルに置き、銃を構えて物陰から飛び出して来たレイチェルの腕を叩いて銃を奪った。足を払いながら襟を引っ張ってベッドに倒す。私はポカンとしているレイチェルに銃を突き付けるとグラスを取って一口飲んだ。
私の今夜の大立ち回りはこれで終わりだ。私が主役の劇をやる時はこのシーンを宣伝に使うといい。
まだ四階と五階の男達が残っているが、これ以上私が戦う必要は無い。
今夜の部分はソロでは無いからだ。私がレイチェルに静かにしているよう口元に指を立てた時、玄関ロビーからコツコツという靴の音が響いた。もう一人の演奏家の登場だ。




