第四話 盗賊討伐
街道を半刻ほど進んだところで、シグマたちは足を止めた。
門兵から聞いた話では、盗賊に襲われた商人たちが最後に目撃されたのは、この辺りだという。
周囲には木々が生い茂り、街道の左右には深い森が広がっている。一見しただけでは、人が通ったような場所は見当たらない。
「手分けして調べるぞ。ただし、互いの姿が見える範囲から離れるな」
紅蓮の指示に、全員が頷いた。
シグマは街道の端へしゃがみ込み、地面へ視線を落とす。
土の表面は不自然なほど平らに均されていた。しかし、完全に痕跡を消すことはできなかったらしい。薄く残った靴跡が、森の方角へ続いている。
木の幹には、荷箱か荷車をぶつけたような傷。
低い枝には、何か重い物を引っ掛けた跡。
踏み倒された草も、上から新しい草を被せて隠されていた。
「こっちだ」
シグマの声に、四人が集まってくる。
草木をよく観察すると、その奥に人一人が通れるほどの細い脇道が隠されていた。
枝葉を重ね、遠目にはただの茂みに見えるよう細工されている。
「門の兵士が言っていた道で間違いなさそうだな」
紅蓮が周囲を警戒しながら呟く。
「ほな、さっそく行こか!」
シルフは迷うことなく枝をかき分け、脇道へ飛び込もうとした。
しかし、その身体が前へ進むことはなかった。
「へ?」
紅蓮がシルフの首根っこを掴み、そのまま軽々と持ち上げていた。
両足が地面から離れ、シルフが宙ぶらりんになる。
「ちょ、紅蓮!? 何すんねん!」
紅蓮は暴れるシルフを自分の顔へ近づけると、声を潜めて耳元へ囁いた。
「勝手な行動はするなと、昨日言ったはずだが?」
「……はい」
「聞いていなかったのか?」
「聞いてました……」
「では、なぜ一人で入ろうとした?」
「道があったから、つい……」
紅蓮の目が細くなる。
シルフは叱られた子供のように肩を縮めた。
「ごめんなさい……」
その様子を見ていた白鬼が、口元を押さえながら小さく笑う。
黒鬼は何も言わなかったが、前髪の奥から心配そうにシルフを見上げていた。
紅蓮は深いため息をつき、シルフを地面へ下ろす。
「シグマ。偵察を頼めるか?」
「ああ」
「危険だと判断したら、無理をせず戻れ」
シグマは頷くと、隠された脇道へ入った。
◇
細い道は、左右から伸びた枝葉に覆われていた。
普通に歩けば、草を踏む音や枝を折る音が出る。
シグマは道から少し外れ、近くの木へ飛び乗った。
枝から枝へ。
身体を低くし、木々の間を音もなく進んでいく。
鳥が枝を移るよりも静かだった。
少し進んだところで、シグマは突然足を止めた。
前方から、微かな話し声が聞こえる。
太い幹の陰に身を隠し、慎重に様子を窺った。
開けた場所に、二人の男が立っている。
一人は腰に剣を差し、もう一人は背に弓を背負っていた。
その背後には、山肌に開いた大きな洞窟。
入口の近くには、荷車や木箱、空になった樽が無造作に積み重ねられている。
「中の連中、まだ飲んでるのか?」
「昨日の獲物が上物だったからな。頭も機嫌がいい」
「それにしても、見張りなんて必要か? こんな場所、誰も見つけられねえだろ」
「油断すんな。最近は冒険者が嗅ぎ回ってるって話だ」
「来たところで返り討ちだろ。中には二十人以上いるんだぞ」
シグマは男たちの会話を聞きながら、洞窟の入口を確認する。
盗賊のアジトで間違いない。
敵は最低でも二十人。
予想よりも多い。
さらに詳しく調べることもできたが、洞窟へ入れば発見される危険が一気に高くなる。
シグマは無理をせず、来た道を引き返した。
◇
「洞窟の前に見張りが二人。一人は剣、一人は弓だ」
偵察から戻ったシグマは、見たものと聞いたものを紅蓮たちへ伝えた。
「中には二十人以上いるらしい」
「二十人以上か……」
紅蓮の表情が険しくなる。
当初の情報では、盗賊は最低八人。
倍どころではない。
「ここでは話しづらい。場所を移すぞ」
紅蓮は四人を連れ、脇道から少し離れた川辺へ向かった。
流れる水の音が会話をかき消してくれる。盗賊の見張りに聞かれる心配も少ない。
紅蓮は大きな岩へ地図を広げた。
「今分かっているのは、アジトが洞窟であること。見張りが二人。そして、敵が二十人以上いることだ」
「弓を使う者も、他にいる可能性が高い」
シグマが付け加える。
「洞窟の中がどうなっているかは分からへんの?」
「そこまでは調べていない。中に入れば、見つかる危険が高かった」
「それで正解だ」
紅蓮は迷わず答えた。
今回の依頼には、盗賊討伐のほかに、五人の連携を確認するという目的もある。
だが、連携の確認を優先して命を危険に晒すつもりはない。
「敵の人数を考えれば、いったん街へ戻り、兵士の増援を頼むのが確実だ」
「戻るん?」
シルフが少し不満そうに尋ねる。
「最後まで聞け」
紅蓮が睨むと、シルフは慌てて口を閉じた。
「だが、敵はこちらに気づいていない。見張りを静かに倒せれば、奇襲できる可能性はある」
紅蓮は地図の上へ指を置く。
「洞窟へ入った後、敵の数や状況を確認する。人質がいる場合は救出を優先。無理だと判断した時点で撤退する」
「それなら異議はない」
シグマが頷く。
白鬼と黒鬼も頷いた。
「シルフはどうだ?」
「もちろん賛成や!」
「ただし、私の指示より先に動くな」
「分かっとるって!」
「本当に分かっているのか?」
「今度こそ大丈夫や!」
自信満々に胸を張るシルフを見て、紅蓮は不安そうに眉を寄せた。
◇
五人は見張りから見えない位置まで移動した。
木々の隙間から、洞窟の入口が僅かに見える。
見張りの二人は、相変わらず退屈そうに立っていた。
「シルフ」
紅蓮が小声で呼ぶ。
「二人を同時に仕留められるか?」
「任せとき」
先ほどまでの軽い表情が消える。
シルフは背負っていた弓を手に取ると、矢筒から二本の矢を抜いた。
二本を同時に弦へ番え、静かに引き絞る。
狙う先は、離れた位置に立つ二人の見張り。
風が止んだ。
葉擦れの音すら消え、周囲が静寂に包まれる。
シルフの髪が、魔力に反応するようにふわりと揺れた。
「……今や」
二本の矢が放たれる。
ほぼ同時に飛び出した矢は、途中で僅かに軌道を変え、それぞれ別の男へ向かった。
「ん?」
弓を持った男が異変に気づき、腰に下げた警鐘へ手を伸ばす。
だが、遅い。
一矢が男の喉を貫く。
もう一矢は、剣を抜こうとした男の額へ突き刺さった。
二人の身体が、ほぼ同時に地面へ崩れ落ちる。
「……すごい」
黒鬼が、思わず小さな声を漏らした。
白鬼も目を輝かせている。
「二本同時に撃ったのに、別々の場所へ飛んでいったよ!」
「風で少し軌道を変えたんや。あれくらいなら簡単やで」
シルフは得意げに笑った。
「見直したぞ、シルフ」
紅蓮が素直に褒める。
「せやろ? もっと褒めてもええんやで?」
「調子に乗るな。行くぞ」
「もうちょっと褒めてくれてもええやん!」
抗議するシルフを残し、紅蓮は洞窟へ向かう。
シグマがその後へ続き、白鬼と黒鬼も歩き出した。
「待ってや!」
慌ててシルフも四人を追いかけた。
◇
洞窟の中は、外から見た以上に広かった。
天井は高く、大剣を振り回しても余裕がある。
岩壁には一定の間隔で松明が取り付けられ、奥へ続く通路を照らしていた。
鼻を刺す酒の臭い。
焼いた肉の臭い。
湿った土と汗が混ざった、不快な空気。
通路の端には、奪われたと思われる荷箱や武器、防具が積み上げられている。
壊れた馬車の車輪。
血の付いた衣服。
さらに奥には、人のものと思われる白骨まで転がっていた。
シルフの表情から笑みが消える。
「……こいつら」
「今は声を抑えろ」
紅蓮に言われ、シルフは唇を噛みながら頷いた。
五人は足音を立てないよう、洞窟の奥へ進んでいく。
通路はいくつか枝分かれしていたが、人の声と明かりを頼りに進めば迷うことはなかった。
やがて、前方から大きな笑い声が響いてくる。
「酒を持ってこい!」
「昨日の商人、ずいぶん金を持ってたな!」
「あの荷ならしばらく遊んで暮らせるぜ!」
五人は岩陰へ身を隠し、慎重に広間を覗き込んだ。
洞窟の奥には、酒場ほどの広さを持つ空間があった。
盗賊たちは焚き火を囲み、酒を飲みながら騒いでいる。
人数は二十人を超えていた。
壁際には弓が立て掛けられ、その近くに数人の男が座っている。
広間の一番奥。
粗末な椅子へ、ひときわ大柄な男が腰掛けていた。
身長は二メートル近く、片目には大きな傷がある。傍らには、紅蓮の大剣にも劣らない巨大な戦斧が置かれていた。
あれが盗賊の頭だろう。
さらに、盗品が積み上げられた場所の隣には、縄で縛られた三人の商人がいた。
顔には殴られた痕があるが、まだ生きている。
紅蓮は人数と配置を確認すると、音を立てずに仲間の元へ戻った。
「敵は二十二人。奥に盗賊頭らしき大男がいる。人質は三人だ」
「助けなあかんな」
「ああ。だから大規模な魔法は使えない」
紅蓮は全員を見回す。
「作戦を説明する」
四人が耳を傾ける。
「まず、私とシグマが正面へ出る。敵の注意をこちらへ引きつける」
「二人だけで大丈夫なん?」
「倒す必要はない。敵を広間の中央へ集めるだけだ」
紅蓮はシルフを見る。
「シルフは高い位置を取り、弓を持つ者を優先して狙え。人質の近くに敵が向かった場合は、そちらを止めろ」
「任せとき」
「白鬼は火の魔法を使うな。洞窟が崩れる可能性もあるし、火が人質へ燃え移る危険もある」
「分かりました」
「氷か風で、敵の動きを制限してくれ」
「はい!」
「黒鬼は補助と回復だ。人質を守るための防御魔法も頼む」
「……うん。やってみる」
黒鬼は緊張した様子だったが、しっかりと頷いた。
「盗賊頭は私が抑える。シグマは周囲を減らしてくれ」
「了解した」
「危険だと感じたら、すぐに声を上げろ。勝手な判断で無理をするな」
紅蓮の視線がシルフへ向く。
「なんでうちを見るん?」
「心当たりがないのか?」
「……気をつけます」
「よし。行くぞ」
◇
紅蓮とシグマは岩陰から姿を現し、堂々と広間へ足を踏み入れた。
最初に気づいた盗賊が、酒の入った木杯を落とす。
「誰だ、てめえら!」
その声に、広間の視線が一斉に二人へ集まった。
盗賊たちは次々と立ち上がり、剣や斧を手に取る。
しかし、現れたのが二人だけだと分かると、すぐに笑い声が上がった。
「なんだ、二人だけかよ!」
「女と、細いガキじゃねえか!」
「冒険者か? 俺たちを捕まえに来たのかよ!」
大柄な盗賊頭も椅子へ座ったまま、紅蓮たちを見下ろしている。
「命が惜しければ武器を捨てろ」
紅蓮が大剣を抜きながら告げた。
一瞬の静寂。
直後、盗賊たちは腹を抱えて笑い出した。
「聞いたか、頭!」
「俺たちに武器を捨てろだとよ!」
「女は生け捕りにしろ! 男は殺せ!」
数人の盗賊が、紅蓮とシグマを取り囲むように広がっていく。
弓を持つ男たちは、壁際に立て掛けられていた弓へ手を伸ばした。
その瞬間。
「遅いで」
岩棚の上から、シルフの声が響いた。
「上だ!」
盗賊たちが顔を上げる。
シルフはすでに三本の矢を番え、弓を引き絞っていた。
「まずは三人!」
放たれた三本の矢が、風を纏いながら広間を駆け抜ける。
一人目の肩。
二人目の手首。
三人目の太腿。
弓を構えようとした三人が、次々と悲鳴を上げて倒れた。
「弓使いだ!」
「先にあいつを狙え!」
別の盗賊が短剣をシルフへ投げつける。
だが、短剣は彼女へ届く直前、不自然に軌道を逸らして岩壁へ突き刺さった。
シルフの周囲を、目には見えない風が渦巻いている。
「そんなもん、うちには当たらへんで!」
続けざまに矢を放つ。
一射。
二射。
三射。
矢は盗賊の武器を持つ腕や足を正確に射抜き、次々と戦闘不能にしていく。
「くそっ、速すぎる!」
「構っている暇があるのか?」
紅蓮が踏み込んだ。
大剣が横薙ぎに振るわれる。
三人の盗賊が武器ごと吹き飛ばされ、岩壁へ叩きつけられた。
あまりの威力に、広間全体が震える。
「ば、化け物……!」
「誰が化け物だ」
紅蓮が低い声で睨む。
その隣では、シグマが盗賊たちの懐へ飛び込んでいた。
「囲め!」
「素手だ! 一斉にかかれ!」
四方から剣と斧が振り下ろされる。
シグマは身体を沈め、最初の斬撃を紙一重で避ける。
空振りした男の腕を掴み、その勢いのまま隣の盗賊へ投げ飛ばした。
二人が折り重なって倒れる。
背後から別の男が斧を振り下ろす。
シグマは振り返らない。
半歩横へずれると、斧が地面へ突き刺さった。
男の腹へ肘を打ち込み、身体が折れ曲がったところへ膝蹴りを叩き込む。
「ぐはっ!」
盗賊の身体が浮き上がった。
さらに右から迫った剣を義手で受け止める。
金属音が響き、剣の刃が途中から砕けた。
「なっ……!」
驚愕する男の胸へ掌底を放つ。
男は数人を巻き込みながら吹き飛んだ。
「こいつ、本当に人間かよ!」
「シグマ! 伏せて!」
シルフの声。
シグマは迷わず身を低くした。
その頭上を、三本の矢が通過する。
矢はシグマの背後から迫っていた三人の足へ突き刺さり、その動きを止めた。
「助かった」
「礼は後でええ! 右から二人来るで!」
言われるより早く、シグマは地面を蹴った。
一人目の顔へ跳び蹴り。
着地と同時に身体を回転させ、二人目の足を払う。
宙へ浮いた男の腹へ拳を叩き込み、地面へ沈めた。
シグマとシルフ。
二人は初めて共に戦っているとは思えないほど、互いの動きを邪魔せず敵を倒していく。
「白鬼!」
紅蓮が叫ぶ。
「はい!」
後方で待機していた白鬼が杖を掲げた。
足元に青白い魔法陣が広がる。
「凍てつく氷よ――敵の足を封じて!」
地面を冷気が走る。
盗賊たちの足元が一瞬で凍りつき、数人がその場から動けなくなった。
「足が!」
「くそっ、外れねえ!」
「今や、紅蓮!」
「分かっている!」
紅蓮が大剣の腹を使い、動けなくなった盗賊たちをまとめて薙ぎ払う。
まともに刃を当てずとも、その重さだけで男たちは意識を失った。
別の盗賊が人質の方へ走り出す。
「動くな! こいつらがどうなっても――」
「させへん!」
シルフが矢を放つ。
男が人質へ剣を向けるより先に、その手の甲を矢が貫いた。
「ぎゃああっ!」
剣が地面へ落ちる。
続く二本目が男の足元へ突き刺さり、纏った風が男の身体を弾き飛ばした。
「人質に手ぇ出す奴は、絶対に許さへんで」
シルフの声から、普段の軽さが消えていた。
緑色の髪が風に揺れ、その瞳は盗賊を鋭く睨みつけている。
その姿は、紛れもなく勇者だった。
「黒鬼! 人質を!」
「……うん!」
黒鬼は前へ出ると、杖を両手で握りしめた。
「守護の光よ……彼らを守って」
淡い光の膜が三人の商人を包み込む。
続けて、紅蓮たちの身体にも白い光が宿った。
「身体強化……防御強化……」
シグマは、自分の身体が急に軽くなるのを感じた。
先ほどまでよりも速く動ける。
盗賊の剣を義手で受けても、衝撃がほとんど伝わってこない。
「これは……」
「黒鬼の補助魔法だ」
紅蓮が盗賊を斬り伏せながら答える。
「遠慮なく使え!」
「ああ」
シグマはさらに速度を上げた。
残った盗賊たちは、シグマの姿を目で追うことすらできない。
拳。
肘。
蹴り。
必要最小限の動きで、一人ずつ確実に倒していく。
紅蓮が正面から敵陣を崩し。
白鬼が氷で動きを封じ。
黒鬼が仲間を強化し、人質を守る。
そして、逃げようとする者や弓を取ろうとする者を、シルフが正確に射抜いていく。
五人の役割が、徐々に一つへ噛み合っていった。
「なんなんだ、こいつら……!」
「聞いてねえぞ! こんな化け物どもが来るなんて!」
「逃げろ!」
数人の盗賊が、広間の奥へ逃げようとする。
シルフは矢筒へ手を伸ばした。
残る矢を確かめると、口元へ笑みを浮かべる。
「逃がすと思う?」
四本の矢を同時に番える。
「風よ――うちの矢を運んで!」
放たれた矢が風に乗り、複雑な軌道を描きながら飛んでいく。
四本の矢は逃げる盗賊たちの前へ突き刺さり、激しい風を巻き起こした。
「うわああっ!」
盗賊たちは風に押し戻され、広間の中央へ転がっていく。
「今や!」
白鬼が杖を振る。
盗賊たちの周囲を氷が囲み、その場へ閉じ込めた。
「ええ連携やな!」
「自分で言うな」
紅蓮が呆れながらも、僅かに笑った。
やがて、立っている盗賊はほとんどいなくなった。
そのとき。
広間の奥から、低い笑い声が響く。
「情けねえ連中だ」
盗賊頭が椅子から立ち上がった。
巨大な手で戦斧を掴み、肩へ担ぐ。
先ほどまで座っていたとは思えないほどの威圧感が、広間全体を包み込んだ。
「二十人以上いて、たった五人にやられるとはな」
盗賊頭は倒れた仲間たちを一瞥すると、唾を吐き捨てた。
「使えねえ」
「仲間を何だと思っている」
紅蓮が盗賊頭の前へ立つ。
「金を運ぶ道具だ。それ以外に何がある?」
「最低だな」
「盗賊に何を期待してるんだ?」
盗賊頭が戦斧を構える。
「お前は強そうだ。女にしておくには惜しい」
「黙れ」
紅蓮も大剣を構えた。
二人が同時に地面を蹴る。
戦斧と大剣が激突した。
耳をつんざくような金属音。
衝撃波が広がり、焚き火の炎が大きく揺れる。
「ぐっ……!」
紅蓮の足が僅かに後ろへ滑った。
純粋な力だけなら、盗賊頭が上回っている。
「どうした! その程度か!」
盗賊頭が戦斧を振り回す。
紅蓮は大剣で受け止めるが、重い一撃が打ち込まれるたびに腕が痺れた。
盗賊頭が大きく戦斧を振り上げる。
「潰れろ!」
紅蓮へ向けて振り下ろされた。
だが。
シグマが横から飛び込み、戦斧の柄へ蹴りを叩き込む。
軌道を逸らされた刃が、地面へ深く突き刺さった。
「てめえ!」
盗賊頭が片手を離し、シグマへ拳を振るう。
シグマは両腕を交差させて受け止めたが、身体ごと後方へ吹き飛ばされた。
「シグマ!」
黒鬼がすぐに回復魔法を放つ。
淡い光がシグマを包み、腕に走った痛みが和らいでいく。
「大丈夫だ」
シグマは空中で体勢を整え、地面へ着地した。
「紅蓮! 正面から力で押したらあかん!」
シルフが岩棚の上から叫ぶ。
「分かっている!」
「ほんまに分かっとる!?」
「今それを言う必要があるか!」
盗賊頭が戦斧を地面から引き抜く。
「戦ってる最中に喧嘩してんじゃねえ!」
その巨体からは想像できない速さで、紅蓮へ迫った。
「させへん!」
シルフが二本の矢を放つ。
一本目は盗賊頭の右肩。
だが、男は戦斧の腹で矢を弾いた。
二本目は膝を狙う。
盗賊頭は身体を捻り、矢を避けた。
「当たらねえぞ!」
「それでええんや」
「何?」
避けた先。
そこにはシグマが待ち構えていた。
踏み込んだ拳が、盗賊頭の脇腹へ突き刺さる。
「ぐっ!」
巨体が初めて大きく揺れた。
「今です!」
白鬼の杖が地面へ向けられる。
「氷鎖!」
地面から伸びた氷の鎖が、盗賊頭の両足へ絡みつく。
「こんなもの!」
盗賊頭が力任せに引きちぎろうとする。
氷へ亀裂が走る。
「黒鬼!」
「身体強化……紅蓮さんへ!」
黒鬼の魔法が紅蓮へ集中する。
淡い光が紅蓮の全身を包み、その腕へ力が満ちていく。
「シルフ!」
「分かっとる!」
シルフが弓を引き絞った。
周囲の風が一本の矢へ集まっていく。
矢を中心に、小さな渦が生まれた。
「風穿ち!」
放たれた矢は、先ほどまでとは比較にならない速さで飛んだ。
盗賊頭が戦斧で防ごうとする。
矢は戦斧の刃へ当たり、纏った風を炸裂させた。
「なっ――!」
凄まじい衝撃に戦斧が弾かれ、盗賊頭の両腕が大きく開く。
「今や、紅蓮!」
「言われなくとも!」
紅蓮が一気に間合いを詰めた。
大剣を横へ構える。
「これで――終わりだ!」
刃ではなく、大剣の腹を盗賊頭の胴体へ叩き込む。
轟音。
盗賊頭の巨体が地面から浮き上がり、広間の奥にある岩壁へ激突した。
岩肌へ亀裂が走り、土煙が舞い上がる。
戦斧が地面へ落ちた。
煙が晴れると、盗賊頭は白目を剥き、その場に倒れていた。
しばらくの沈黙。
誰も動く者はいない。
「……終わったん?」
シルフが弓を下ろしながら尋ねる。
シグマは盗賊頭へ近づき、呼吸を確認した。
「生きている。意識はない」
「よし。全員を拘束するぞ」
紅蓮が大剣を背へ戻した。
シルフは岩棚から飛び降りると、大きく息を吐く。
「疲れたぁ……」
「かなり余裕そうに見えたが?」
「勇者やからな!」
「では、拘束を手伝え」
「そこは少し休ませてくれてもええやん!」
「働け」
「紅蓮は人使いが荒いわ!」
文句を言いながらも、シルフは縄を拾った。
◇
盗賊たちを全員拘束した後、三人の商人を解放した。
「た、助かった……」
「ありがとうございます! 本当に……!」
商人たちは何度も頭を下げる。
怪我をしていたため、黒鬼が一人ずつ治療を行った。
命に関わる傷はなかったが、数日間まともな食事を与えられていなかったらしい。白鬼が持っていた水と保存食を渡すと、三人は涙を流しながら口へ運んだ。
洞窟の奥には、大量の宝箱や荷物が残されていた。
金貨。
宝石。
武器。
衣服。
食料。
どれも盗賊たちが、これまで襲ってきた者から奪った物だ。
「これ、全部うちらが持って帰ってええん?」
目を輝かせるシルフへ、紅蓮が首を横に振る。
「駄目だ。盗品は持ち主へ返還される」
「一個くらいなら分からへんのと違う?」
「駄目だ」
「冗談やって!」
シルフは笑って誤魔化した。
紅蓮は回収用の札を取り出し、宝箱の蓋へ貼り付ける。
札には討伐した冒険者の名と、発見した盗品のおおよその量を記す決まりになっている。
後ほど兵士たちが荷物を回収し、持ち主を調べて返還する。
「返還された財産のうち二割が、討伐した冒険者への謝礼になる」
「二割ももらえるん?」
「ああ。ただし、持ち主が判明した物だけだ」
「十分やん!」
落ち込んでいたシルフが、一瞬で元気を取り戻した。
「現金な奴だな」
「お金は大事やで?」
「否定はしない」
連絡を受けて到着した兵士たちへ、盗賊と商人たちを引き渡す。
盗賊の数を見た兵士たちは驚いていたが、五人に何度も礼を述べた。
討伐と引き渡しを終えた頃でも、日はまだ高い。
予定よりも早く依頼を終えることができた。
◇
日が暮れる前に、シグマたちは猫夜亭へ戻った。
扉を開けると、店内から料理の香りと賑やかな話し声が流れてくる。
「お帰りなさいませ!」
受付にいたリリアンヌが、猫耳をぴんと立てながら笑顔を見せた。
「皆さんお揃いということは、無事に終わったようですね」
「ああ。盗賊は全員捕らえて、兵士へ引き渡した」
「本当ですか!?」
リリアンヌは驚いたように目を丸くする。
「報告にあった人数よりも、かなり多かったと聞いていましたが……」
「二十二人おったで!」
シルフが得意げに胸を張った。
「それに、めっちゃ大きい頭もおったんや!」
「二十二人……」
リリアンヌの笑顔が引きつった。
「皆さん、本当に無事でよかったです」
「今回は白鬼が報告をする」
紅蓮が言うと、白鬼は元気よく受付へ向かった。
「任せて!」
シグマ、紅蓮、シルフ、黒鬼の四人は、店内の空いている席へ移動する。
席へ着くと、黒鬼が疲れたように息を吐いた。
「……緊張した」
「初めて組んだにしては、よく動けていた」
紅蓮が声をかける。
「黒鬼の補助魔法がなければ、もう少し苦戦していたはずだ」
「……本当?」
「ああ。助かった」
黒鬼は前髪の奥で嬉しそうに笑った。
「うちも助かったで! 身体が軽くて、いつもより矢を撃ちやすかったわ!」
「……よかった」
そこへ、注文用の紙と炭筆を持ったシルビアがやって来た。
「皆さん、お帰りなさい。随分と早かったですね」
「予定より早く片付いた」
「怪我はありませんでしたか?」
「黒鬼が治してくれたから問題ない」
「それなら安心しました」
シルビアは柔らかく微笑み、注文用の紙を構える。
「今日はたくさん動いたでしょうから、お腹も空いていますよね。おすすめは鹿肉の香草焼きです。焼いた根菜と黒パン、それから野菜のスープも付きます」
「それや!」
シルフが真っ先に手を挙げた。
「まだ全員に聞いていないだろう」
「絶対うまいやつやん。うちはそれ!」
「では、鹿肉の香草焼きを一つですね」
シルビアが慣れた手つきで書き留める。
「俺も同じものでいい」
シグマが続く。
「私もそれを頼む」
「……私も」
紅蓮と黒鬼も同じ料理を選んだ。
「白鬼さんの分はどうしましょう?」
「たぶん同じ物を頼む」
黒鬼が答える。
「白鬼、肉が好きだから……」
「では、五人分にしておきますね」
シルビアは紙へ書き込み、次に飲み物を尋ねた。
「お飲み物はいかがなさいますか?」
「エール!」
またしてもシルフが真っ先に答える。
紅蓮が眉を寄せた。
「昼間から酒か?」
「依頼が終わった後やで? 祝杯にはエールやろ!」
「飲み過ぎるなよ」
「大丈夫やって! うちは酒に強いんや!」
「その言葉は信用できない」
「なんでや!」
シルビアが笑いを堪えながら、注文を書き留める。
「シルフさんはエールですね。紅蓮さんは?」
「私もエールを頼む」
「飲むんやん!」
「お前が飲み過ぎないよう見張るためだ」
「絶対自分が飲みたいだけやろ!」
「シグマさんと黒鬼さんは?」
「果実水を」
「……私も果実水」
「かしこまりました」
シルビアは注文を読み返す。
「鹿肉の香草焼きを五つ。エールを二つと、果実水を二つですね。白鬼さんの飲み物は、戻られてから伺います」
「ありがとう」
「すぐにお持ちしますね」
シルビアが厨房へ戻ろうとしたところで、シルフが呼び止める。
「あ、シルビア!」
「はい?」
「パン、おかわりできる?」
「できますよ」
「やった!」
「ただし、食べきれる分だけにしてくださいね」
「任せとき!」
シルビアは微笑むと、カウンターの奥にある厨房へ注文を伝えに行った。
少しして、依頼の報告を終えた白鬼が戻ってくる。
「お待たせ!」
「報告は終わったか?」
「うん。盗賊の人数が多かったから、追加報酬も出るかもしれないって!」
「ほんま!?」
シルフが嬉しそうに身を乗り出す。
「まだ決まったわけじゃないよ」
「出るとええなぁ」
白鬼が席へ着くと、シルビアが再びやって来た。
「白鬼さん、お飲み物はどうなさいますか?」
「エール!」
「お前も飲むのか?」
紅蓮が呆れたように言う。
「今日は頑張ったから!」
「白鬼は一杯だけにしておけ」
「はーい」
白鬼の返事を聞き、黒鬼が小さく呟く。
「……たぶん守らない」
「黒鬼!?」
「よく分かっているな」
「紅蓮さんまで!」
全員の注文が揃うと、最初に飲み物が運ばれてきた。
木製のジョッキに注がれたエールは、表面に白い泡が浮いている。
果実水からは柑橘の爽やかな香りがした。
紅蓮がジョッキを持ち上げる。
「まずは依頼の完了を祝おう」
「うちの大活躍にもな!」
「それは後で反省点と一緒に話す」
「今は褒めるところだけでええやん!」
白鬼が笑いながらジョッキを掲げる。
「それじゃあ、盗賊討伐の成功を祝って!」
「乾杯!」
五つのジョッキが中央で軽くぶつかった。
シルフは勢いよくエールを飲む。
「くぅーっ! 依頼の後の酒は最高やな!」
「一杯目から飛ばすな」
「紅蓮も飲んどるやん」
「私はゆっくり飲んでいる」
「負けへんで!」
「何の勝負だ」
その頃、厨房から料理が運ばれてきた。
厚切りの鹿肉には香草が散らされ、焼き目の付いた表面から肉汁が滲んでいる。
付け合わせの根菜からは湯気が立ち、濃い色の黒パンと温かな野菜スープが皿に添えられていた。
「うわぁ……!」
シルフの目が輝く。
「めっちゃうまそう!」
「熱いのでお気をつけください」
シルビアが料理を並べていく。
「パンのおかわりが必要になったら呼んでくださいね」
「いただきます!」
シルフはシルビアが離れるのを待ちきれず、鹿肉へナイフを入れた。
切り分けた肉を口へ運ぶ。
次の瞬間、その表情が一気に明るくなった。
「うまっ!」
「声が大きい」
「だって、ほんまにうまいんやもん!」
香草の香りが肉の臭みを消し、柔らかな肉から濃厚な旨味が広がる。
シグマも一口食べ、静かに頷いた。
「確かに美味い」
「せやろ!」
「なぜお前が得意げなんだ」
紅蓮も呆れながら肉を口へ運ぶ。
その表情が僅かに緩んだのを、シルフは見逃さなかった。
「紅蓮も美味しいと思っとるやろ?」
「悪くない」
「素直やないなぁ」
「お前にだけは言われたくない」
食事を続けながら、話題は自然と今日の戦いへ移った。
「最初はどうなるかと思ったけど、かなり上手くいったよね」
白鬼がパンをちぎりながら言う。
「ああ。初めて組んだにしては悪くなかった」
紅蓮が頷く。
「シルフが遠距離の敵を抑えてくれたから、前で動きやすかった」
「おっ、やっと素直に褒めた!」
「ただし」
「ただしはいらん!」
「最初に一人で脇道へ入ろうとした件は反省しろ」
「まだ言うん!?」
「当然だ。あそこで罠にかかっていたら、戦闘以前の問題だった」
「結果的には何もなかったやん」
「結果がよければ、勝手に動いていいわけではない」
「うちは自分の判断で動いただけや!」
「その判断を仲間へ伝えろと言っている!」
二人の声が徐々に大きくなる。
白鬼は楽しそうに二人を見比べ、黒鬼は少し困ったように果実水を飲んでいる。
シグマは黙って食事を続けていたが、二人が同時に立ち上がったところで口を開いた。
「そこまでにしておけ」
紅蓮とシルフが同時にシグマを見る。
「だが――」
「せやけど――」
「周りを見ろ」
言われて店内を見回すと、他の客たちが何事かとこちらを見ていた。
二人はしばらく黙り込み、気まずそうに席へ座り直す。
「……ふん」
「……ちぇっ」
シルフは不貞腐れた様子でジョッキを持ち、一気にエールを飲み干した。
「おかわり!」
「飲み過ぎるなと言ったばかりだろう!」
「紅蓮も飲めばええやん!」
「言われなくとも頼む!」
シルビアが空になったジョッキを見て、苦笑しながら新しいエールを運んでくる。
それから一杯。
さらに一杯。
白鬼は紅蓮に止められ、二杯目の途中で果実水へ変更させられた。
しかし、紅蓮とシルフは互いに張り合うように飲み続ける。
「うちはまだ飲めるでぇ……」
「私も……まだ問題ない……」
「二人とも、もうやめた方がいい」
シグマが止めるが、二人は聞こうとしない。
「シグマは心配性やなぁ」
「そうだ……この程度で酔うものか……」
言葉とは裏腹に、二人の顔は赤い。
紅蓮はジョッキを置こうとして、机の端へぶつける。
シルフはパンを取ろうと手を伸ばし、何もない場所を何度も掴んでいた。
そして数分後。
「もう……飲めへん……」
「私は……まだ……」
二人はほぼ同時に机へ突っ伏した。
静かになった二人を見て、白鬼が笑う。
「二人とも同じくらい弱かったね」
「……似た者同士」
黒鬼の言葉に、シグマも小さく頷いた。
◇
紅蓮とシルフは、自分たちの宿へ戻れる状態ではなかった。
猫夜亭の二階には空き部屋があったため、今夜はそこへ泊めてもらうことになった。
「俺が運ぶ」
シグマは最初に紅蓮を背負った。
酔い潰れているとはいえ、紅蓮は大柄で、装備も重い。
それでもシグマは苦もなく階段を上がり、用意された部屋のベッドへ寝かせた。
「……まだ飲める……」
「もう十分飲んだ」
眠りながら呟く紅蓮へ布団を掛け、部屋を出る。
次はシルフだった。
小柄な身体を抱き上げると、シルフは無意識にシグマの服を掴んだ。
「んぅ……」
「起きたのか?」
「シグマぁ……」
目は閉じたままだ。
完全に酔っている。
「どうした?」
「お前なぁ……」
シルフはシグマの胸元へ頬を寄せる。
「強いし……優しいし……かっこええから……」
「……」
「うち、お前のこと好きや……」
シグマの足が止まった。
腕の中にいるシルフを見る。
しかし、本人は何を言ったのか分かっていないらしく、すぐに穏やかな寝息を立て始めた。
「……酔っ払いの戯言か」
シグマはそう呟き、聞かなかったことにした。
部屋へ運び、シルフをベッドへ寝かせる。
布団を掛けようとすると、シルフは枕を抱きしめながら小さく笑った。
「もう一杯……」
「まだ飲むつもりなのか」
シグマは僅かに呆れながら、部屋を後にした。
◇
自室へ戻ってしばらくすると、扉を叩く音がした。
扉を開けると、お湯の入った桶を抱えた少女が立っていた。
前の晩にもお湯を運んできてくれた少女だ。
「ありがとう」
シグマは桶を受け取る。
少女の細い腕には、桶を運んだ疲れが見えた。
シグマは銅貨を数枚取り出し、少女の手へ乗せる。
「これを」
少女は驚いたように目を見開く。
そして、銅貨を大切そうに両手で握りしめた。
「それと、今日は他の二つの部屋には行かなくていい」
少女は不思議そうに首を傾げる。
「二人とも酔って寝ている。起こさない方がいい」
「……うん」
少女は小さく頷いた。
そのまま一階へ戻ろうと背を向ける。
だが、数歩進んだところで足を止めた。
ゆっくりと振り返り、シグマを見る。
「……エレナ」
「え?」
「わたしの名前」
少女――エレナは、少しだけ頬を赤くした。
「エレナ、です」
「そうか」
シグマは穏やかに微笑む。
「覚えておくよ。エレナ」
自分の名前を呼ばれたことが嬉しかったのか、エレナの表情が明るくなった。
「うん!」
元気よく返事をすると、今度こそ階段を駆け下りていく。
シグマはその小さな背中を見送った後、静かに扉を閉めた。
温かい湯で一日の汚れを拭い、寝間着へ着替える。
ベッドへ横になると、今日の戦いを思い返した。
紅蓮の判断。
白鬼の魔法。
黒鬼の支援。
シルフの弓。
初めて共に戦ったにもかかわらず、最後には互いの動きが自然と繋がっていた。
悪くない一日だった。
それでも、眠ることだけは少し怖い。
目を閉じれば、またあの暗闇へ戻されるかもしれない。
無数の目。
怒鳴る口。
振り上げられる手。
シグマは布団の中で拳を握る。
「……今日は、あの夢を見ませんように」
小さく呟き、ゆっくりと目を閉じる。
静かな夜の中。
シグマの意識は、やがて深い眠りへと落ちていった。




