第7話 (悪習)定例イベント
入社して数ヶ月が経過したころの話。
ここ数日部内の雰囲気がよくない。
夏を過ぎたあたりからイライラしている人が増えてきた。
「どーすんだよ。このままじゃやべーだろう」
「こんなんで年越したらいけんやろ」
とかブツブツ言っている。
情報チーム内のメンバーもよくない。
「何かあったんですか。みんなピリピリしていません。」
向かいの席に座る同僚に話しかけてみた。
「んー。まぁ今年は遅いよね。
因果が逆なんだけど・・・この時期までないってなるとそわそわするね。
でも毎年だからそのうちわかるよ。」
同僚もどこか素っ気ない。
(待てばわかるのだから待っておくか。)
秋が終わり寒さが本格になろうとしている頃。
午前中に一本の電話が管理部に来た。
電話を取る事務員。
「え、本当ですか?
すぐに部長に代わります。」
そう言って事務員は部長席に向かった。
「部長、現場で男性作業員が朝出社してこなかったらしく家に行ってみたところ首をつっていたそうです。」
その瞬間、部内の空気が一変した。
「やったー!」
「おおーーー」
「よかったー」
拍手をしている人もいる。
部長も笑顔で頷きながら話をきき受話器を取った。
「これって何ですか。
みんな何を喜んでいるんですか。
喜ぶところ何もなかったですよね。」
先輩もどこか納得したような表情でコーヒーを啜っている。
「大津くんは初めてだね。
うちって毎年誰かが死んでいるんだよね。
僕が入社する前からみたいでね。
定例行事みたいなもんだよ。
そのせいかみんな誰かが死なないと落ち着かなくなってしまってね。
いつもは夏くらいに誰かが過労死するか過労自殺をするんだけどさ。
今年は少し遅かったかな。
でもこれで安心だよ。」
(何が安心なん?)
同僚の説明を聞いても理解できなかった。
超えてはならない一線を越えていると感じた。
部内の事務員たちはまだはしゃいでいた。
部長も受話器を置いている。
そしておもむろに立ち上がり
「みんな、聞いてくれ。
〇〇現場のXXさんが今朝出社してこなかった為上長が彼のアパートまで訪問したところ。
鍵がかかっていたらしい。
それから管理会社に相談して合鍵で入ったところ自殺していたのが見つかった。
もうすぐ1年の終わりが近づいてきたところだったのでみんなやきもきしていただろうがこれで安心して年を越せるね。」
続けてベテラン事務員が話し始める。
「いやー今年はさすがに焦りましたよ。
このまま今年誰も死ななかったらうちの会社どうなっちゃうんだって思いました。
死んだ人は若いんですか?独身ですか?」
「死んだのは入社2年目の男性だ。独身だね。」
「おお、それなら遺族も泣き寝入りしてくれますよね。
これで裁判だってなったら俺らの仕事も増えるんでたまったもんじゃないですよ。
死んだんだからいいだろうってならないんですかね。
こっちの迷惑も考えてほしいですよ。」
「まだ遺族が訴えるかどうかはわからん。ここは確率の問題だ。
何もないことを祈ろう。」
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