第17話 システム開発 懲役30年の刑
システム開発のメンバーから外れて1カ月。
このシステムを作るために部署まで異動したのだが開発メンバーから外れても元の部署には戻れなかった。
まぁいいかと思い事務作業に精を出していたある日。
システム開発の打ち合わせから帰ってきた副部長が帰ってくるなり
「てめぇふざけんな!」
と私に怒鳴りだした。
びっくりして硬直している私に対して
「ITエンジニアは嘘つきばかりだ。
信用ならん詐欺師やんけ。
おい大津、お前も来週の打ち合わせに参加しろ。」
尋常でない雰囲気に嫌とはいえず打ち合わせに参加するだけならばと了承した。
打ち合わせに参加していた開発メンバーに話を聞こうとしたが誰も話してくれなかった。
唯一答えてくれたのが
「来週の打ち合わせに参加すればわかります。」
の一言だった。
その来週の打ち合わせの日がやってきた。
会議室に入って彼らが来るのを待っていた。
副部長以下全員が無言である。
空気がピリピリして嫌な感じであった。
そこにシステム開発会社のメンバーが入ってきた。
私の時は営業1名だったが開発が始まったということで5名もいる。
(あれ?あの営業がいない。)
私をメンバーから外すように言った営業の姿が見えなかった。
「では定例開発ミーティングを始めます。」
システム会社の1人が宣言した。
(この人がトップということか。
どうやらあの営業は交代となったらしい。)
「先週の議題の続きですがこのまま開発を続けるか中止をするかの判断をしてもらいます。」
私は思わず声を出していた。
「どういうことですか、開発を中止するというのは?」
「先週の議事録を見てないんですか。
これ以上の開発は不毛と言う判断になりました。
これ以上コストをかけるよりも中止にした方がお互いのために良いだろうという結論になりました。」
私はプロジェクト開発メンバーでないので先週の議事録どころか資料が保存されているフォルダにすらアクセス権がない。
「どういうことですか、私が参加していたときはシステムの骨子はできていたと思います。
ベースのシステムに改修と機能追加で対応すると言う方針はどうなったんですか。」
相手があからさまなため息を吐いた。
「正直に言ってですね。御社が何を作りたいのかわからないんですよ。
意味不明な要望ばかりを言われてこちらも対応できないという判断になりました。
何のために打ち合わせを重ねていたのか私からすると理解しかねます。」
「ずいぶんな言い方じゃないですか。
そもそもは御社の前任の方が他社で作ったことがありますというから私たちは契約したのではないですか。
やはりあの話は嘘だったと言うことですか。」
「はて、何のことですか。
私の引継ぎ内容にそのようなことは書かれていません。
御社の勝手な妄想ですよ。」
「いや妄想ではない。契約締結後の打ち合わせの時に私がそのことについて確認している。
これは議事録にも残っている。」
「それが何か?
すでに前任はこのプロジェクトから外れています。
そして引き継いだ我々にはそのことを知らない。
過去の議事録で何を言ってようとプロジェクトは中止です。」
「そんなバカな話があるか。
そちらの引継ぎが十分にされていないだけだろ。」
「今日は議論をしに来たのではありません。
御社に今までにかかった費用の請求書を渡しに来たのです。
それがこちらの紙になります。」
そう言って一枚の紙を副部長に見せる。
「1000万だと・・・何も作っていないのにこんな大金払えるか!」
(1000万ということは純粋に打ち合わせ代のみでシステム開発していなかったと言うことか。
開発に着手していたらそんな金額では済んでいないはず。)
「では期日までに振込をお願いします。
要件定義段階での不備は発注者側に責任があるのは裁判の判例でも明らかです。
弊社には何の瑕疵もありません。」
システム会社のメンバーは全員たち一礼をして部屋を出て行った。
「大津!どういうことだ。説明しろ!」
即座に怒声が響いた。
「彼らが言った通りです。
システム開発において業務の要望を詰める要件定義で失敗した場合多くの場合は発注者側である私たちに責任があります。」
「何にも作っていないのに1000万も払えるわけないだろうが!」
「会計的には特別損失扱いで処理するしかないです。
要件定義の資料はこちらに納入されるはずですからその資料を流用して別のシステム会社に依頼するというのもなくはないです。
他の会社が作った要件定義書をそのまま使う会社はいないので要件定義費用を別途払う必要があると思います。」
「こんなのおかしいだろう。なんでこんなことになったんだよ。」
「それは私よりも私以外のメンバーの方が詳しいでしょう。」
私は周りを見たがみんな顔を伏せていた。
誰も一言も話さない。
「どうやったら作れるんだ。どうやったらシステムは出来上がるんだ?」
「私が最初に言った通り今時点のAIでは高度のことはできないです。
テレビに出ているAIはフロアいっぱいに機械を敷き詰めて24時間稼働させてやっと囲碁の世界一に勝てるレベルです。
人間が脳みそ1つでしていることをAIは広い部屋と大容量の電気、大量の排熱を出してやっと勝てるのです。
しかもそれは囲碁ならば囲碁に特化したものです。囲碁に勝ったからと言って将棋は素人なので勝てません。
そのレベルなのに彼らはそれができると言っていたのです。」
副部長の顔は紅潮していた。
「どうして止めなかった・・・それがわかっていてどうして止めなかったんだ。」
「いや、止めましたよ。
契約を保留にしましょうって言いましたよ。
利用者にきちんと意見を聞いてどういう業務フローにするのが適切か話し合いましょうって言いましたよ。
彼らが他社で作ったことがあるって言った時もあやしいって言いましたよ。
私は最初から開発反対側です。」
「そこまでわかっていながら俺がサインするのを止めなかったってことだよな。」
「だから、止めたって」
「お前には必死さがないんだよ。
もっと必死になって止めろよ。
1000万だぞ。
ただ毎週1,2時間話しただけで1000万だぞ。
こんなのどうやって経営会議で説明するんだ。」
「それは発起人たる副部長の役割なので」
「お前が悪い。」
「え?」
「全部お前が悪い。お前が俺の心に響くように訴えていれば俺はこんなことをしなくて済んだんだ。
みんなもそう思うよな。」
他のメンバーが顔を伏せたまま頷く。
(おまえらなぁ)
「ほれみろ。みんなお前が悪いって言っているじゃないか。
お前に1000万の責任を取ってもらう。」
「それは管理職たる副部長の役割でしょう。」
「いーや違うね。ITの専門家にも関わらず俺の判断が鈍るような発言をして俺に契約をさせた。
お前が適切なアドバイスをしていればこんなことにはなっていない。
専門家としての義務を果たしていない!」
「契約書をもらった打ち合わせで素人に毛が生えたレベルっとあなたが言ったんじゃないですか。」
「だから何?
それが意味あるの?
それで職務放棄したってことを認めるんだな。
ほーれみろ。お前が全部わるいんじゃん。」
「いい加減にしろよ。こっちが丁寧に何度も警告したのを無視したのはあんただろうが。」
「なんだその口の利き方は、お前は態度が生意気なんだよ。
仕事ができるからって調子に乗ってんじゃねーよ。
これでお前はおしまいだ。」
そう言って副部長は部屋を出て行った。
その後に続くように他のメンバーも出て行った。
私も事務所の自席に戻った。
すると副部長が立ち上がりみんなに向けて話し始めた。
「みんなもわかっている通り今回のシステム開発は大津君に責任がある。
責任ある社会人として私は彼に罰を与えることを決めた。
無限転勤の刑に処すことにする。
みんな異存はないな。
彼の新しい勤務地が決まるまで彼のことはいないものとして扱う。
以上」
「何を言っているんだ。
私は何度も止めたでしょ。失敗したら私の責任か?」
副部長は私の言葉が聞こえていないのか何も答えない。
振り返ってメンバーを見る。
「君たちはどうなんだ。
私がいない1カ月の間君たちは打ち合わせ何をしていたんだ。」
誰も私の声が聞こえていないふりをしていた。
ある人は電話をかけ、ある人は事務作業をしている。
本当に私は消えてしまったのだ。
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