第六鋼
鋼音ちゃんの頭の中はどうなっているのか、
特訓といえば山籠りという少年漫画的な思考の持ち主だった。
親御さんを心配させてはいけないので泊まり込みはせず、
明るいうちに行き来できるようにある魔法を解禁した。
瞬間移動。
妖精界では座標を交換するタイプの術式が主流だが、
ここでは魔法陣同士をトンネルで繋げるタイプを採用した。
その方が事故率が低いからだ。
あらかじめ転移先に魔法陣を描く必要があるだけでなく、
一度の往復で効力を失ってしまうが、安全は何よりも優先するべきだ。
俺は金曜日の夜に目当ての山へ出向き、魔法陣を描いてトンボ返りした。
翌日、瞬間移動を初体験した鋼音ちゃんは「魔法みたい」と感想を述べた。
彼女がまず挑戦したのは滝行だ。
本人がやりたがっていたので滝のある山を選んだのだ。
どこで用意したのか、白装束まで持参して準備万端だ。
まだ寒い季節ではないにしろ、これから水に打たれるのだ。
こちらもいつでも焚き火を起こせるように準備を整えておいた。
そして、彼女は1分と持たずにギブアップした。
山籠りならぬ山通いを始めてから3ヶ月が過ぎた。
初日は1分と持たなかったが、翌日もその翌日もリトライし続けた結果、
今では1時間は余裕で滝を浴び続けていられるし、火の起こし方も覚えた。
それが魔法の修行になったのかは不明だが、精神が研ぎ澄まされたのは確かだ。
パワーアップしたのは鋼音ちゃんだけではない。
ワルイドが作り出す怪人の性能も確実に引き上がっていた。
当初は見た目が不快なだけの存在ばかりだったが、
今や殺傷能力を有する本物の脅威と化していた。
先週、初めての犠牲者となったのは若い警察官だった。
彼は発砲しようとしたが、ベテランが妨害して対応が遅れたのだ。
連日そのニュースで持ち切りらしいが、今は目の前の敵に集中だ。
彼は人間の形状をしているが、片手で車を持ち上げるほどの怪力だった。
それをおもちゃのように投げつけて破壊行為を楽しんでいるようだった。
こちらのやることはひとつだ。
敵に気付かれる前に始末すればいい。
「──ロブ・ハルフォード!!」
16000度の熱光線が怪人を襲い、跡形も無く消え去った。
これが修行の成果だ。
俺が分け与えた妖精エネルギーを更に圧縮することに成功したのだ。
やはりこの子は天才だ。彼女ならワルイドの企みを阻止できる。
ビルがいくつか消し飛んだが、その前に破壊されていたのでセーフだろう。




