1-84.魔犬(3)
コンコン
「ミィーファ。入って良いかしら?」
「はい、御母様。どうぞ」
ガチャ
先ずは母親だけ入室する
「おはよう♪ミィーファ」
「おはようございます」
ギシ
どうやら、ミィーファのベッドのフチに座った様だ。
「ミィーファ。あなたにプレゼントよ♪」
「わ♪なんですか?♪」
「どうぞ、お入りなさい♪」
武良は身振りで、タムだけ入室するように促す。
「ミィーファ♪」
タムは、妹の名を呼びながら、入室する。
「わぁ!お兄様!♪いつ御帰りに?」
ミィーファは、大好きな兄に再開できて、とてもうれしそうだ。
「今朝だよ」
タムは『キラッ』とイケメン笑顔を、妹に向ける。
そのイケメンさに『イラッ』と来るかも。
「お兄様。教会衛兵隊の制服を、初めて拝見しましたは♪。白地に金糸の刺繍が、とても素敵デスね。似合ってますね」
妹は兄の晴着に、誇らしげに微笑む。
「おう、ありがとう。そう言えば、前回ココにくる時は甲冑だったなぁ」
「「そ〜う。スゴーく汗臭くて」」
母娘の声が、ハモる。
「オイッ!しかし、もう、汗をかかないんだぞ!」
「え?でも。甲冑着なくて、魔物と戦えるのです?」
「えーと」
(武良様。バトル・アーマーを、家族に見せちゃってよいですか?)
(許可する)
(ありがとうございます)
「今は『飛び出す甲冑』を、身に付けているのさ」
「え?『飛び出す甲冑』?」
ミィーファが、首を傾げる。
「よし。パル。装着!」
カシャカシャカシャカシャ!
タムの全身は一瞬で、白地に金色装飾の、バトル・アーマーに覆われる。
「「まぁ!」」
ミィーファと母親メルナは、驚きの声をハモる。
カシャ
タムはヘルメットだけ、収納する。
「ほらね」
タムは首から上を、むき出しにして、驚く妹に微笑む。
「うわー!スゴい!!」
「えーと、パル。鎧だけで、私の横に立てるかな」
『可能です』
「では、してくれ」
『はい』
カシャカシャカシャカシャ
鎧すべてのパーツがタムの隣に移り、首無しの状態で自立する。
「わぁ。鎧だけで、動くの!?」
「あぁ。自立型のゴーレム鎧だからね」
タムは(すごいだろ)とばかりに胸を張る。
いや、君が作ったワケでは無いよね。
『初めまして。ミィーファ様。私はこの鎧の中に居る『使い魔』で、パルと申します。タム様の御世話をさせていただいて居ります』
首無し状態の白い甲冑は、ミィーファへ『執事の様に』一礼する。
「うわうわ!しゃべるゴーレムなの?あ!パルさん、初めまして!」
ミィーファの頬は興奮に、紅く上気しはじめる。
『どうも……うーむ『首無し』では、どうにも締まりませんね』
カシャ
パルは、ヘルメットをだす。
『うん。これで話しやすいですね』
パルは可愛く、小首をかしげる。
「パルさん。お兄様を御護り下さり、ありがとうございます」
ミィーファは素直に、パルに一礼する。
『ただのゴーレムに、もったいない御言葉を、ありがとうございます』
パルは再度、うやうやしく一礼する。
(さて、そろそろ紹介してくれるかな?)
(はい)「でな。今日は、ミィーファに紹介したい御方が、いらしてる」
「え?私に?」
「そうだ。この『飛び出す甲冑』ゴーレムを、制作された方だ」
「まぁ。こんなに高性能のゴーレムを作れるなんて、御客様は第一級の魔導技師様かしら?」
「うーん……はるかに超えて居られるよ♪では、笹木武良勇者様、御入り下さいませ」
タムは武良の『凄さ』を思い出しながら、苦笑してしまう。
「えぇ!勇者様!?」
ミィーファは『ナンで私なんかに勇者様が?』と、驚きの声をあげる。
「失礼します」
武良は、気さくに微笑みながら、ミィーファの私室に入室する。
あとからロービンスン騎士爵も続く。
淡いピンク系の可愛いらしいベッドに、大きなクッションを背もたれに、十代なかばの可愛らしい美少女が座って居る。
カヤネと同年代だろうか?
「やぁ、ミィーファ。笹木武良と申します。よろしくね」
武良は気さくな笑顔で、ミィーファに話しかける。
ミィーファから、その笑顔にホッと安心した様に、緊張のほぐれた笑顔がこぼれる。
が、微笑みのままに表情を引き締め、座ったままで武良に一礼する。
「初めまして。ササキ・タケヨシ勇者様。座ったままの御無礼を、失礼致します」
見かけによらず、キチンとした挨拶が帰って来る。
「はい、初めまして。ミィーファの事情は、すべて聞いています。だから私は、貴女に会いに来ました」
「え?」
彼女は、キョトンとした表情をする。
「貴方に義足を、進呈したい」
「え?!」
カヤネは思わず、兄と母親と……ゴーレム甲冑の『パル』に、視線をさまよわせる。
そして……期待と不安のない交ぜな表情に成る。
『ミィーファ様。笹木武良勇者様は、われらの世界では医師免許も取得されて居りまして。貴女様の様に『不都合な状況』に陥いってしまわれた方々に、私の様なゴーレム技術を応用し、健常者様方と遜色ない義手・義足を装着されて来られました』
パルは、ベテランの執事の様に右手を胸に当て、少し頭を下げ、上品に説明する。
「まぁ……わたくしも『パル』さんと同じように、歩ける様に成れますの♪」
『ハイ。保証致します』
パルは彼女に、うやうやしく一礼する。
ミィーファは笑顔のままに、パルの『左足』に視線を送る。
一瞬、彼女の表情が曇る。
武良は、彼女の視線をたどり、パルの左足を見る。
「あぁ。たしかにパルの左足は『ゴツい』ね。ゴツいのは、兄様の足が入り、防御するためだから。大丈夫。貴女に贈る義足は、見た目も『貴女の生身の右足』と全く同じ様に成るよ」
武良は、細やかに説明する。
「……本当ですの?」
まだ、微妙な表情のままだ。多分コレまでの『いかにも義足』な、義足のせいだろう。失望の連続だったに違いない。
乙女心だねぇ。武良は、苦笑する。
「そうだ。『隼』入っておいで」
『はイ』
入り口から『十代なかばの女の子』の様な声の返答があり、『隼』が入室して来る。
「「「えっ!?」」」
まさしくミィーファと同年代の……女の子の服装をしたゴーレムが、現れた。
いや、『銀色の肌の色』以外、姿形はミィーファの生き写しだ。
(((どういう事だ?!確かに、さっきまでは『男の子』だったはず……)))
ミィーファと武良以外、その変化に戸惑いを隠せない。
「まぁ♪」ミィーファの表情は輝く。
自分の『歩く姿』を、鏡を見ているように感じられたからだ。
左足の動作も姿も、全く『自然』だ。これなら義足と判らない。
ゴーレムは義手・義足の技術力の塊なのだから。
ミィーファは一目で納得し『自分が歩いている姿』を想像でき、早く装着して欲しいと願う。
「皆様には驚かせてしまいましたな。このゴーレムは『モーフィング素材』と言う『変幻自在に変形出来る素材』で構成されております」
「「「ほおおおお」」」
「先程ミィーファさんの姿と形を『転写』させて頂き、このゴーレムに写させました」
『初めましテ。ミィーファ様。『隼』と申しまス。勝手ながら御姿を『転写』してしまイ、失礼致しましタ』
ミィーファは隼を、ジッと見つめる。
そして手招きする。
隼は、素直に近付く。
ミィーファは近い左手を、隼に差し出す。
「ハヤブサさん。握手していただけますか?」
『喜んデ』
二人は左手どうしで、握手をする。
「……柔らかい。暖かい。うん。人族と、おんなじ」
ミィーファは確認するように、うなづく。
「では。ミィーファさんの肌色と、合わせましょう。隼」
武良は、うながす。
「え?」
隼の銀色の肌色は、ミィーファと握手をしている左手から、ジワジワと変わって行く。
あっという間にそこには、座って居るミィーファと、立っているミィーファが居る。
「「「おおお」」」
ロービンスン騎士爵夫妻も、兄のタムも、二人の間を交互に視線をさまよわせる。
二人がグルグルとダンスを踊れば、どちらがどちらか、肉親でも判別不能だろう。
「さて。もう一つ、見せる事が有ります」
「え!?」
「勇者様。まだ有るのです?」
「隼。五歳、成長せよ」
『はイ』
ジワリ
「「「え!」」」
ジワリ
「「「ええ!」」」
ジワリ
「「「えええ!」」」
ベッドに座る中学生位のミィーファは、いつ間にやら高校生位のミィーファと握手して居る。
母親のメルナと違った、ゴージャスな超絶美人が、そこに居る。
「……」
ミィーファは、ポカーンと口を開けて、将来の自分と見つめ合う。
「……隼。同調解除」
『はイ』
ジワ〜
あっという間に小さく成り、当初の少年の姿に戻る。
「……はわわわ……」
ミィーファは、口を開けたまま、固まる。
彼女と隼は、握手をほどく。
『ミィーファ様。私達は『いかなる事態』にも対応出来るように『作られた』ゴーレムなのでス。この位は『朝飯前』なのですヨ……なので義足は、ミィーファ様の御成長に伴い『形や大きさ』を変えられまス』
『実は、私もそうです』
タムの隣に立つパルが、甲冑から、ジワジワとモーフィングして行く。
そこには、タムが二人に成る。
「「「……」」」
武良以外、ポカーンと固まる。
「申し訳ない。少し脅かし過ぎましたね。ではミィーファ」
「はい!」彼女は急に武良に話を振られ、我に帰りビックリする。
「私の作った『義足』を、装着して見てくれますか?」
「はい!ぜひ!是非とも、御願い致します!」
ミィーファは『何か?』を決心した様に、勢い良く身を乗り出す。
「よかった……『侍』の理念の一つに、『発想は、融通無碍(何ものにもとらわれることなく自由である・こと(さま))であれ』と、有ります。『人族と科学技術』は『融通無碍』に、より添え合えれば良いなと」
「「「……はぁ……」」」
ミィーファは武良の言葉にウットリして居るが、その他はすっかり魂をぬかれて、放心状態に陥る。
◯ ◯ ◯
「ではメルナ夫人。娘さんにコレを着せて上げて下さい」
「はい……えーと?」
メルナ夫人は、渡されたモノを広げて戸惑う。
膝上までの、スパッツだ。
この世界で下着は、男性はパンツ。女性はドロワーズである。
「これは……ドロワーズの様な扱いで宜しいでしょうか?」
「はい。診断し易いので御願いします。用意出来ましたら、呼んで下さい」
「かしこまりました」
スパッツを母親に任せると、男性陣は退出して行く。
廊下で、武良とロービンスン騎士爵は、二人だけで立つ。
「ところで、ロービンスン騎士爵」
武良は、さり気なく声をかける。
「はい」
ロービンスン騎士爵は、武良製造の義足の思わぬ高性能に、期待にふくらんだ笑顔を返して来る。
「今回の魔族案件……『人為的な作為』が、疑われて居られるそうで」
「!……」
ロービンスン騎士爵の表情は、一瞬で青くなり愕然とする。
「勇者の専門は『魔族』です。が……今回の様に『魔族の悪意』でさえ、私利私欲の為に利用しようとする『人族の悪意』が加わるとしたら……増幅される『瘴気』は、目も当てられません。早期に『瘴気の元の人族』を、見極めたいモノです」
「……お恥ずかしながら、その『瘴気の人族』は、私の兄と弟です」
彼の額に、冷や汗がつたう。
「……心中、御察しいたします」
武良は、少し一礼する。
「……人族の限界なのでしょうか。惣領として、『家』を粛清せねばならない事は自覚して居ります。しかし幼い頃、兄弟三人で仲良く野山で遊んだ思い出が……しかし私が惣領に指名されてから、兄と弟は、一気に歪みました」
ロービンスン騎士爵は、寂しげな苦笑を浮かべる。
「……」
「……メルナの事も……我々は普通の男女として愛し合って居ります。が、兄と弟は、二人で『メルナを共有』しようとして居りました。彼等は、お互いが気に入った女性を、共有する愛人とする性癖があるのです……断固として、許せません」
「……確認ですが『魔族崇拝結社』の件は……」
ロービンスン騎士爵の表情は、急激に引きつり、視線をそらす。
「……御兄弟への探索中に、情報をつかんでしまいましたな」
「……」
ロービンスン騎士爵は、口を硬く閉ざし、視線はそらしたままだ。
「残念ながら状況は、貴君の手に負えぬ事態に陥りました。この厳しい『魔節』の状況で『自ら進んで魔族と結ぼう』という輩は、勇者は断固として見逃す訳には行きません……」
武良は、ロービンスン騎士爵の横顔を、ぐっと見つめる。
「……われらが魔族結社を『取り締まり時』に『偶然』御兄弟が『その場に居合わせ』……われらが『成敗してしまった』折りは……お目こぼしを頂ければ……」
「……」
ロービンスン騎士爵は視線をそらしたまま、無言で、わずかに頷く。
武良は深く、ロービンスン騎士爵に一礼する。
すっとタムが、二人から少し離れた場所に、無言で立つ。
「……準備出来たかな?」
タムは、無言で頷く。
「では……」
「ササキ・タケヨシ勇者殿!」
ロービンスン騎士爵は、うって変わり、強い視線で激しく詰問してくる。
「はい」
武良は、フワリと受け止める。
「貴殿の『無償の奉仕』を、重ねる目的は何か!?」
「目的……は、タイ・クォーン教会や勇者が『魔族結社』よりも、『魔族から確実に命を守ってくれるぞ』と、人々の『信用・信頼を得ること』ですね」
武良は、サラリと答える。
「……」
それで!?と、ロービンスン騎士爵は睨んでくる。
「そして『正々堂々と努力した者』が、公平に正当に評価される風潮を、確立したいですかな」
「……正々堂々と……」
ロービンスン騎士爵は一瞬、とまどう。
「はい。ロービンスン騎士爵も、正々堂々と努力した結果、惣領に選ばれた訳です……御兄弟の行為は『逆恨み』です」
武良は、キッパリ断定する。
ロービンスン騎士爵は『ハッ』とする。
そのまま深く、自問自答を始めた様子だ。
「さ、ロービンスン騎士爵。娘さんがお待ちかねでしょう。久々に、娘さんと御庭を御散歩していただきましょう」
武良は、優しく微笑み、彼を促す。
「……ササキ殿のその『人たらし』な笑顔。その誘惑には、魔族より恐ろしさを感じますな」
ロービンスン騎士爵は、皮肉るように苦笑する。
「『人心を集める』……それも、勇者の役割かと」
武良は、悪い笑顔をする。
しかしロービンスン騎士爵は、その『悪い笑顔』に『頼もしさ』を感じる。
一己の人間に、善意もあれば悪意もある。
教会関係や聖職者等の『綺麗事』や『建前』だけでは、物事は進まない。
ましてや『魔節』である。
教会で徳を積む前に、殺されるかもしれない。
この笹木武良には、善だろうと悪だろうと『丸ごと』飲み込める、懐がデかい漢を感じる。
ためらいなく目の前の『本質』を、つかみ取れる漢は、信用出来る。
「なるほど!……これは一本、取られましたな」
ロービンスン騎士爵は、晴れやかに微笑む。
そしてスッと姿勢を伸ばし、正々堂々とした態度で、娘の元に向かう。
御読みいただき、ありがとうございます。
次回投稿は、10月17日(月)の予定です。
宜しく御願い致します。




