1-82.魔犬
「えい!」
「はっ!」
「やあっ!!」
早朝の練兵場で、衛兵隊分隊の10名が、二名づつ模擬戦をして居る。
カン
「くっ」
カン ガキン
「えいっ!」
カン
タムとカムランも、木製の長剣で真剣に模擬戦を行う。
「カムラン。もう少し全身の力抜いて、ゆったり構えた方が、打ち返しが早くなるぞ」
「うわ!」
いつの間にか武良が、カムランの真横に居た。
「「「「勇者様!」」」」
全員が(いつのまに!!(滝汗;)と、内心焦りながら、姿勢を正す。
「鍛錬中にすまん。タム」
「はい」
「妹さんに合わせて欲しい」
「え?」
「ゴーレムの義足を、進呈したい」
「えっ♪」
思わずタムは微笑んでしまう。
「「「「「おおお♪」」」」」
分隊の戦友達も、笑顔がこぼれる。
分隊の戦友達は、タムの密かな悩み事を知って居る。
タムの妹は二年と少し前、愛犬が魔犬化してしまい、左足の膝から上を食い千切られてしまった。
丁度愛剣の手入れをして居たタムは、そのまま愛剣を魔犬の口に差し込み、すばやく退治出来た。
『妹と、魔犬化した愛犬を浄化して助けた』実績を買われて、タムは衛兵隊に早期に入隊出来た。
だがタムからすれば、妹の左足と妹の愛犬を犠牲にして入隊出来た様なモノなので、妹への気兼ねがぬぐいきれない。
戦友達も、背中預けられるタムが入隊するキッカケを作ってくれた妹さんが幸せを取り戻す機会になれば、肉親の様に嬉しい。
そして自分達からすれば、常時魔物と対自する機会が多いこの仕事は、手とか脚とか『魔物に、かじられる』事が多い。
先輩・同期・後輩に、片手片足、最悪には両手両足全部『かじられた』者が案外多い。
明日は我が身かも知れない。
そこに、あの高性能の『ゴーレムの甲冑』技術を持つ、武良勇者様が『ゴーレム義足』を提供するというのだ。
義手義足とはいえ、生身の手足の動きと遜色ないに違いない。
また一つ武良勇者様は、明日の『希望』を示してくれる。
「うん。朝食後に出かけよう」
武良は、ほがらかに微笑む。
「「「「はい!!」」」」
◯ ◯ ◯
カポ カポ カポ カポ カポ カポ カポ
教会衛兵隊の白地に金糸で装う制服のままで騎乗する騎馬隊が、中世ヨーロッパの様な街中の大通りを、二列縦隊でのんびり歩を進める。
その中央に、エア・バイク状態の『隼』にまたがる武良も居る。
◯ ◯ ◯
「おい。あれ、『聖光剣の勇者』様じゃないか?」
「そうだ。あの『浮かぶゴーレム』にまたがってるんだから、間違いない」
「……すっごい『にこにこ』笑顔なんですけど?」
「へぇ。衛兵隊の制服て、あんなんだったんだ。初めてみるな」
「そうだな。いつもは重そうな、全身甲冑だったはずだが?あんな軽装で、魔物退治できるのかい?」
「なんでもな、勇者様と同じく『飛び出す甲冑』を、全員が装備されて居るらしいぞ」
「へぇ!『聖光剣の勇者』様は、太っ腹なんだな!」
◯ ◯ ◯
なかなかに制服姿の分隊は、通行人の注目を集めている様子だ。
武良は変わらず平服である。
が、分隊全員が『飛び出す武器や全身甲冑』の恩恵を、しみじみ感じる。
先月までは『ちょっとした見回り』だけでも、総重量30キロはある全身甲冑やフル装備をいちいち装着しなくてはならなかったのだ。
今は教会衛兵隊の制服に、着替えるだけで良いのだ。
何という『気楽』!
ふわり
心地よい風が、全員の間を吹き抜ける。
全身甲冑では、感じられない爽快感だ。
皆、思わず微笑んでしまう。
「ヤバ。あの屋台は、どんな食べ物だい?」
「はい。ツェール果実のジュースですね」
「ほう。良い香りだな」
武良は、屋台の目の前に『隼』を寄せる。
「姐さん。全員分もらえるかな?」
「『ねえさん』って♪何も出ない……よ?え?その乗り物は……勇者様!?」
屋台の向こうを向いて何かを取っていた、恰幅良いオバちゃんが振り返り、武良を認識する。
「ありゃぁ。『隼』有名になったな」
武良は、バイク形態の『隼』のタンク部分を、軽く叩く。
『そりゃァ、アレだけ『バトル・アーマー』で暴れましたからねェ』
『隼』は、電子音で答える。
「へぇ!しゃべるゴーレムなんですね!!」
「あの!武良様!我々が御世話いたしますので」
ヤバは慌てて下馬し、オバちゃんが用意した、十個のコップが乗ったトレーを受け取る。。
「いやいや。これは『情報収集』さ。庶民と話がしたい。あ。ほら、皆にコップ配っておくれ」
「はぁ……」ヤバは、微妙な表情で、コップを配り出す。
「で、姐さん。最近どう?」
「ありがとうございます。実は……巨大魔人が現れた時、息子が聖湖教会御で結婚式をあげてまして。私も、巨大魔人の足下に居りました。勇者様の『聖光剣』御蔭様で、無事に結婚式を行えましたは」
「ほう。それは、それは。役に立てて幸いだ」
「まぁ」(全く『武功を自慢しない』のね。不思議な御方)
「何か必要な物とか、何かあるかな?」
「そうですねぇ。今の所、安心して商売出来てるので、助かってマスよ♪」
「そうか。何かあったら、投書しておくれ」
「はぁい。ありがとうございます」
屋台のオバちゃんは分隊を、笑顔で見送る。
◯ ◯ ◯
分隊は街を外れ、郊外の村に差し掛かる。
「笹木様。こちらです」
タムは生垣に囲まれた、平均的な農家の敷地に入って行く。
「笹木武良勇者様!御成!!」
タムは大声で、来訪を告げる。
「おお。タム様!」
「タム様の御帰りだ!」
庭のあちこちから、使用人達がワラワラと集まって来る。
◯ ◯ ◯
「え♪ミィーファに、義足ですか!」
タムの母親のメルナは、思わぬ幸運に、涙ぐむ。
ミィーファは、左足と愛犬を同時に失ってから、すっかり笑顔を無くしてしまっていた。
でも、左足を取り戻せば、また笑顔になってくれるはず!
「……あのう」
しかしタムの父は、うかない表情で、武良に伺いを立てる。
「はい。ロービンスン騎士爵。何でしょう」
「いかほど……でしょうか?」
「父上」
「あぁ。御心配なく。娘さんには『モニター』として、わたしの『ゴーレム義足』の試しを行っていただきたい。よって『無料』ですよ」
「そ、それは……上々」
無料と聞いて、ロービンスン騎士爵の肩から、緊張が抜ける。
「ありがとうございます……実は先月、魔族がウチの畑を荒らしまして。お恥ずかしい話ですが、年一回の収入源の『ツェール』畑が潰されてしまいました……他家のツェール畑は、豊作なのに……」
ロービンスン騎士爵は、悔しそうな表情に成る。
「ほう。それはいけない。些少ですが、御見舞を御納め下さい」
ゴトン。
武良はインベントリから、一キロの金塊六枚をだし、テーブルに無造作に置く。
御読みいただき、ありがとうございます。
次回は、10月3日(月)の予定デス




