1-81.『黒い風』を、所有すると言う事とは(2)
笹木武良勇者様は、『黒い風』への資金的援助を『公認両替商ロムダン』に頼むのか。それは心強い。
セルガ様の仰っていた『太っ腹な勇者様』とは、この事か。
アメリア司令と照美や、『黒い風』の男性陣は、思わず微笑む。
「じゃぁ本日は、カヤネの『初仕事』の成るのかしら?」
「あ!あのぅ……初仕事ではアリますが……」察しが良いカヤネは、慌てる。
「あぁ。『公認両替商ロムダン』からの『融資』話ではありません。
本日は、武良勇者様から『立会人』を要請されまして」
『黒い風』が『公認両替商ロムダン』からの融資を期待する空気を察したマク・ロムダンは、武良からの要請を明かす。
「「「え?」」」
融資じゃない?公認両替商ロムダンは『立会人』?
……立会人て、何の立会人?
『黒い風』の面々の頭の上に、?マークが乱立する。
「では、アメリア司令。これを納めていただこう」
武良勇者様が、どこからか、銀色のスーツケースを取り出す。
そして、アメリア司令に押し出す。
(武良様は、無限収納持ちなのね!)
照美は、すばやく察する。
「?はぁ……」
アメリア司令は、武良から押しいただいた、テーブルからわずかに浮かぶスーツケースを両手で受け、正直とまどう。
((これは、何!?(・△・;?))
アメリア司令と照美は、目配せをしながら、戸惑いあう。
「じゃぁ、アメリア司令と照美さん。二人とも、そのケースに触れて」
「「は、はい」」
照美は慌てて、自分の席に戻る。二人は素直にスーツケースに触る。
ピンポーン
『お二人の『生体情報』を登録しました』
スーツケースから優しいチャイムが鳴り、女性風の声で、アナウンスが流れる。
((!?))
二人は、戸惑いの表情を浮かべる。
「では、『オープン』と言って」
「お、おーぷん」アメリア司令は、戸惑いながら言う。
カチャリ
勝手にロックが外れる音がする。
ゆっくりと、ケースは開き出す。
山吹色の輝きが、ケースの内側から、溢れ出てくる。
「「「おおおおおおお」」」
黄金だ
見間違え様がない、本物の黄金の圧倒的で重厚な山吹色の輝が、『黒い風』を圧倒する。
見たことがない量の黄金が、ケースに詰まって居る。
「笹木武良勇者様が『持ち込み』されました、黄金です。『公認両替商ロムダン』は『純度100度』の黄金だと保証致します」
口が半開きなままの照美は、思わず成長したカヤネを見る。
照美の無言の問いかけを察したカヤネは、満面の笑みでうなづく。
「はい。純度100度です♪鑑定眼持ちとして保証致します。こちらが鑑定書です。アメリア司令、御確認下さいませ」
カヤネは自分の魔法カバンから、『公認両替商ロムダン』の印籠で封じられた封書を取り出し、うやうやしく彼女に渡す。
アメリア司令も口を半開きのまま、カヤネから封書を受け取り、震える手で開封する。
「ゔぇ」
彼女は鑑定額をみて、変な声を上げる。
彼女の半開きの口は、顎が落ちそうなほど全開になり、視線を鑑定書に向けたままフリーズしてしまう。
照美も横から、おそるおそる鑑定書をのぞき込む。
「ふグッ……1.2キルダンのインゴットが……ひゃ、百本!?……ごっ、五十億レン…………」
経験した事が無い金額に、照美も変な声を発してしまう。
かろうじて、金額を読み上げられた。
公都の一般人の月収は、30万レン位だろう。
『クロワシ』で、1億五千万レンかかった。
ので、公認両替商ロムダンに融資して貰った。
ちなみに『黒い風』の年間予算も、五千万レン位である。
しかし、笹木武良様から渡された金額は、もう『軍事費』と言って良いだろう
「……あ、あのぅ……この『金塊』は?」
顔色が青白いアメリア司令は、震える声で問う。
「うん。『黒い風』への『資金援助』だよ」
「「!!!」」
「いや、あの、高額過ぎるのでは……」
照美は、すっかり腰が引けた口調で述べる。
『黒い風』は『勇者系譜』でもあり、実力も備えている。
故に依頼料は、なかなかに高額である。
しかし。これまでの慣例では『半金』の着手金を徴収し、依頼成功すれば残金を受け取る。
御互い様に『半信半疑』である。
まぁ当時、いかにアルノミルス伯爵が『所有者』とは言え、『黒い風』と信頼関係が在るとは、言い難い関係だったが。
「……しかし、こんなに高額を提示されるとは」
アメリア司令は、つぶやいてしまう。
「いいや。今から並べる私の要望の詳細を聞けば、決して『高額』とは言えないだろう」
一つ。『クロワシ』『アシナガ』『ジョロウグモ』の修理と整備。
二つ。そして、それ等の『量産機』を開発。
三つ。『量産機』を、量産する工房も増やす。
四つ。搭乗員の訓練。
五つ。同時に『黒い風』の里の『防衛強化』
「『黒い風』には魔族退治の戦力として、期待する。そこで、死亡率を下げるためにタイ・クォーン教会衛兵隊の、バトル・アーマーの技術も提供する。『黒い風』が魔族と対抗出来る戦力まで、増強する。まぁ『黒い風』全員分の『危険手当』も含むから、『支度金』としては妥当と思うよ。あぁ、足りなくなれば、公認両替商ロムダンにつたえて欲しい。追加必要分を、全額払う」
武良勇者様は、スラスラと構想を述べる。
アメリア司令と照美の脳内は、武良の意見を聞いて、フル回転し始める。
「なるほど」
アメリア司令は武良勇者様の、ムチャぶりな様で、現実的でしたたかな計算に納得する。
「……あの、『白い天使』の技術……」
(イケるかも知れない)
照美は、教会衛兵隊の装備と性能を思い出しながら、『黒い風』の装備との『掛け合わせ』を『妄想』し始める。
そして重要ところは、『全額前払い』と言う事だ。
『武良勇者様は『黒い風』を全面的に信頼する』と言う『誠意』だ。
と言う事は『黒い風』が、たとえ全滅してとしても、武良勇者様の『依頼』を、成し遂げなければ成らない。
『誠意』に応えなければならない。
ぶるっ
アメリア司令や照美、そして背後の『黒い風』全員が。ぶるっ、と『武者震い』を起こす。
そうか。魔族か。ぞんぶんに戦おう。『勇者の系譜』として、望むところだ。
これまでは『勇者の系譜』の力を、『弱肉強食』のこの世を生き延びるために『裏稼業』として使って来た。
が、『黒い風』の全員が、不本意に感じていた。
いくら『真円流』を研鑽しても、使える場所は『裏稼業』だ。
いくら死線を生き延びても、御天道様の下は、歩きにくい。
目の前に現れた武良勇者様は、『勇者の系譜』としての『魔族退治』と言う、本来の目的を取り戻してくれると言うのだ。
ここにいる『黒い風』全員の表情が、スッキリと迷いない『武人』の表情に変わる。
武良は『黒い風』の『武人の表情』に気が付き、微笑む。
微笑みながら立ち上がり、アメリア司令に右手を差し出し、握手を求める。
アメリア司令は、一瞬驚いた表情に成る。
が、にこりと微笑み、立ち上がり、武良の右手をガッチリ握る。
「『黒い風』の命、預かる」
「よろこんで」
するりと、握手をほどく。
「所で、『カレーライス』は好きかな?」武良は、にこりと微笑む。
「え?あ。祖母から『こんな料理』と説明は聞いた事があります。が、国中探しても、『かれー』に最適な香辛料が見つからなくて……」
「そうか。じゃぁ、食いに行こう」
「え?」
「人数多いから、野外立食にしたんだ。かなり多めに作ったが……十二種類のスパイスを使ったからね。無くなる前に、早く行こう。さぁ、みんなも。さぁさぁ、セルガさん達も」
武良は、笑顔で皆を追い立てる。
「「「「は、はい」」」」
「さぁ。ロムダン殿も、カヤネさんも」
「え?宜しいので?」
「もちろんです。さぁ、行きましょう」
「はい」
「はい」カヤネは、にっこり微笑む。
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次回は、9月26日(月)の予定です。
よろしくお願い致します。




