1-80.『黒い風』を、所有すると言う事とは(1)
「で〜すーかーら〜、セルガ様。『黒い風』は武良様に、折伏(相手をくじいて、己に従わせること)されたのです。完膚無きまで、負けたのです。ので『黒い風』の所有権は、武良様に有るのです」
東郷照美は、何度この内容を発したのだろう。
「う〜ん。でも〜。武良様は『いらない』と……」
タイ・クォーン教会の神官長セルガは、申し訳なさそうに苦笑する。
「もう!武良様は、無責任すぎます!!……そう!『黒い風』の『所有者』である武良様は、『黒い風』を『庇護する責任』が『この世』では、あるのです!」
照美は、気力を振り絞り、発言する。
「まぁー。例えば、どんな?」セルガは、のんびり問う。
えぇい!イライラする!!この『世間知らず』な御嬢様が!!!
東郷照美は、セルガと話が『微妙』に噛み合わないストレスで、頭痛がして来た。
「はい!ざっくり言えば、『黒い風』の作戦行為の全責任と、『諸々の諸費用や経費』と、『他の勢力からの庇護』です!」
ちと、険しい口調になったのは、許して欲しい。
「まぁ。さすがはアルノミルス伯爵様♪太っ腹ですのねぇ」
セルガは、さらりと述べる。
「ぐ!……いや……その」
裏仕事を引き受ける者のならいとして、『口の硬さ』も求められる。
急に、秘匿すべき前『所有者』の名をズバリと指摘され、思わず口ごもる。
表向きは、ケーリッヒ男爵に従う様に活動してたのに、どうしてそれを?
「もっとも武良様も、太っ腹具合では負けません事よ♪」
照美の気も知らず、セルガは飛び切りの微笑みを浮かべる。
後ろの壁に立って居る副官のアライを始め、『黒い風』男性陣の顔は、セルガの飛び切りの笑顔に引き込まれ、紅く上気する。
「それなら武良様は、堂々と『黒い風』の所有宣言をされ、勝利を世に広く知らしめれば宜しいではありませんか。武良様の武勲が増えますし」
照美の横に並んで座る、アメリア司令も述べる。
「あ〜『武功など、どうでも良い』そうですは」
セルガは武良の様に、右手をヒラヒラと振る。
「それは!『黒い風』を、辱める御意見!!……勝者の御事葉とは言え、あんまりです」
アメリア司令は、情け無い表情をする。
「あー、いえいえ〜。そのー」
セルガの視線が、くるりと中空を舞う。
「そう言う事ではありませんの。『所有』云々ではなく、武良様と『対等な関係性』ならば、『先の責任』を引き受けられるそうですは」
「……ふむ。つい先程出した条件の武良様の返答を、即答されましたね。どうやらセルガ様は、武良様と『さむらい・くらうど』とやらで、直接つながって居られるのですね!で!『面倒臭がり』な武良様は、どちらでしょうか!?」
照美は、有無を言わさず、すかさず突っ込む。
「あらぁ。バレちゃいましたか♪」
セルガはペロリと舌を可愛く出して、首を可愛くかしげて、苦笑する。
首をかしげると(たゆん♪)と、その巨乳と言うか、魔乳が揺れる。
真紅に成った男性陣の視線が、いっせいに泳ぐ!
「「セルガ様!!!」」
照美とアメリア司令は、微妙に噛み合わない『交渉』に、心底疲れて居た。
ので、つい『新しい上司』かもしれないセルガに、叱責を発してしまう。
しかしこの金髪碧眼巨乳美人は、見かけによらず『食わせ者』の様だ。
にっこり笑う、飛び切りの笑顔の陰で、ペロリと舌を出しながら、自分のペースに持って行くのだ。
トン、トン、トン。
「はぁい♪どうぞ♪」
セルガは、微笑みながら答える。
「どうも『めんどうくさがり』の、勇者です♪」
武良が、おどけた口調で入室してくる。
ガタン
ザッ
『黒い風』全員が、いっせいに立ち上がり、武良に向かって整列する。
アメリア司令も照美も、武良に向かい、姿勢を正す。
「……やれやれ『堅苦しいのは困る』と、言ったはずですが?」
「いえ。『黒い風』の御主人様は、武良様です」
「我々は何処までも、御命令に従います」
「……では『敬語禁止』と、命じようかな?」
アメリア司令と照美は、ぐっとつまる。
「そ……それは……」
「あの〜武良様。こちらには『不敬罪』てのが御座いまして……武良様の御命令に従いますと『黒い風』の皆様の、首が飛んでしまわれますの」
セルガの提言に、アメリア司令と照美の『同意のうなづき』が、すごい早さで行われる。
「えっ!マジすか!!」
「まじ、ですの」
再度二人の、セルガの言葉に『同意のうなづき』が、早くなる。
「じゃあ、敬語は致し方ないか。まぁ私としては、上下左右の情報交流は、自由にしたいのですが」
「あくまで『公式な場では』、ですは」
「ん〜。じゃぁ、仰々しい無駄な『奉り』は、控える様に、って事で」
「「承りました」」
二人は深く、頭をを下げる。
「はい。早速ダメ。私の目を見ながら、『了解』くらいにして置いて」
「「りょ……了解、す」」
二人の顔は引きつり、口が変な形に変わる。
「あぁ。『了解ッス』イイねえ♪」
はぁ〜
副司祭メルダが、憂いのため息を付く。
「武良様。『黒い風』の皆様は精一杯の誠意を、武良様に示して居られます。もう、いじめないであげて下さいませ」
「おっと、これは失礼。では『もっとちょっとフランクに』って事でよろしく」
武良は、ニコリと微笑む。
「は、はい」
「よろしくお願いします」
アメリア司令と照美は、慌てて頷く。
そして、二人の思考はシンクロする。
((まったく。型破りな勇者様には、戸惑うばかりだは(汗))
「んじゃ、次の協議に入ろう。入室してくれ」
ガチャ
「失礼します」
挨拶と共に、タイ・クォーン公都公認両替商マク・ロムダンが入室して来る。
「「ロムダン殿!!?」」
アメリア司令と照美は、マク・ロムダンの顔を見るなり、立ち上がる。
「お久しぶりですね」
マク・ロムダンは微笑みながら、旧知の二人に、気安くあいさつする。
「!♪って事は、カヤネも来てるの!?」
「照美様♪カヤネは此方です♪」
マクに続き、カヤネ・ロムダンも入室して来る。
父親マクとおそろいで、カヤネには少しばかり大きい公認会計士の制服は、『着られてやってる感』な『制服萌え』をかもし出し、カヤネの可愛さを引き立てて居る。
「カヤネ♪」
照美は素早くテーブルを回り、カヤネの前に進む。
「照美様♪」
カヤネからも照美に進み、二人はガッチリ抱擁を交わす。
「まぁ、まぁ、まぁ♪大きく成って♪いつから御父様と御仕事を?」
「今年からですは。この春にやっと『見習い』が外れました。すべて照美様や『黒い風』の皆様の御陰様です♪」
「はい。照美様の御陰様で、カヤネの『鑑定眼』に気が付く事が出来ました。その節は、誠にありがとうございました」
マクも、丁寧に照美に頭を下げる。
「いいえ。私の方こそ。カヤネの『鑑定眼』の御蔭様で、最高の魔石と最高の調整で『クロワシ』を組み上げられたのです……で、お二人が何でここに?」
照美は旧知に再開できて嬉しかったが、『武良が』ワザワザ二人を呼んだ事に気が付くのは流石である。
「照美様。『タイ・クォーン公都公認両替商ロムダン』は、笹木武良『真の勇者』様とタイ・クォーン教会と、正式な『会計契約』を結びました」
「「えっ?」」
◯ ◯ ◯
タイ・クォーン公都公認両替商ロムダンの歴史は、案外長い。
小商いから、国軍や公都軍の『軍資金運用』も請け負う資金力と、圧倒的なノウハウを有して居る。
そして老舗だけに、『裏の軍資金』にも強い。
ので、王族を始め、どの勢力も『両替商ロムダン』には一目置いている。
そんな感じで『黒い風』も、急遽『クロワシ』を組み上げなければ成らない時、『アルノミルス伯爵』の紹介で緊急融資を受けた事がある。
その時にマク・ロムダンは『融資の成果』を視察しに『黒い風』の工房に来る。
マクは、踏ん反り返りがちな中途半端な金貸しと異なり、『融資の成果』を確認しに『どんどん現場に出る主義』である。
そして、長期的に有望と審査すれば、とことん融資する。
せっかくの融資を『いい加減な運用されて居る』と判断すれば、どんな王侯貴族でも、アッサリ融資を引き上げる厳しい審査を行う。
ので、実力ある王侯貴族からの信頼は、絶大なモノがある。
『クロワシ』の時も、『将来性を感じた』マクの方から『追加融資』を申し出たくらいである。
その時マク・ロムダンは、まだ幼いカヤネの経験値を上げるため、同行させていた。
ちょこまか歩く黒髪の可愛い人形の様なカヤネは、殺伐としがちな工房の『萌えアイドル』に認定される。
フォ〜ン
(うーん、この配列はダメね。魔石どうしの共鳴が弱いは。これでは期待する推進力だ出ないはね。うーん;)
照美はその時『クロワシ』の推進機エンジンに組み込む『魔石』の配列の組み合わせを、あれこれ並べ直していた。
魔石の配列により、推進機エンジンの性能が変わってしまう、難しい作業だ。
フォ〜ン
魔石の配列を『あれこれ』変え、配列の共鳴具合を確かめる為に、音叉の様な魔道具を当てる。
そして、横のノートにメモをする。
その繰り返しの地味な作業だ。
そこに、美しい音叉の音に惹かれたカヤネが、ちょこまかと歩いて来る。
「照美お姉様。キレイな音ですね。何をされているのです?」
正直カヤネから見れば、工房に居る人員は皆『オジサン・オバサン』だ。
しかし、気配りの鬼・父親マクの仕込みで『お兄さん・お姉さん』と、そつなく呼ぶ。
調整がうまく行かず、精神的に煮詰まっていて、内心不機嫌な照美は、カヤネ萌えの笑顔で「お姉さん」と呼ばれたモンだから、一瞬で上機嫌さ♪
「あら、カヤネちゃん♪うん。魔石の並びによって、魔石が鳴る音が違うのよー。なかなか『良い音』を鳴らして上げられ無くてねー」
照美は、思わずボヤいてしまう。
「こんなに沢山の魔石は、初めてです〜。キレイですね♪」
カヤネ萌えの笑顔を、照美に向ける。
「キレイでしょ♪この子達を生かすも殺すも、我々次第なの」
「あれ?照美お姉様。この子とこの子が、反発してる見たいですよ」
「え?」
「うーん。この子の隣が良い見たいです」
「えっ?」
「この子とこの子をまとめてから、この子と並べると、波長が良いみたいですよ♪」
「……ちょっとまって、『観える』の?」
「え?はぁ。魔石ごとに出す波長が、色違いで観えますよね?」
「……じゃ、じゃぁ。カヤネちゃんが『一番良い』と思う並びは?」
「え♪カヤネが、並べ替えて良いですか♪」
「うん。御願い!」
「は〜い」
カヤネは、迷い無く魔石の配列を変え出す。
(えぇ!この配列!?)
照美は内心、いぶかしむ。
カヤネは『最高品質の魔石』を選んだかと思うと、隣に『どうしようもないクズ魔石』を平気で並べる。
照美は、すべて『最高品質の魔石』だけで並べていた。
「うーん。照美お姉様。この魔石も、ここに置いても良いですか?」
「えぇっ!?」
そこは、魔石入れの外だ。つまり、推進力エンジンの外に成る。
しかし照美のモットーは『新発想を否定しない』が心情である。
自分の固定概念にとらわれれば、新機軸の技術は生まれない。
(いいじゃない試すぐらい。まだ、検証段階なんだから!)
「良いは。じゃぁ並べたら、この音叉を叩いて、ここに当てて」
「はぁい♪」
カヤネは照美をまねて、音叉を右手で持ち、左手で叩く。
無音で振動する音叉の柄の端を、照美に指示された魔石に当てる。
キィイーーーーーーーーーン!!
工房内の全員が思わず振り返る程の、強くキレイに澄んだ『音色』、いや『和音』が『沸き起こる』
……これは、凄まじい『推進力』を起こす『和音』だ!!
この子は、『鑑定眼』持ちだ!!
「ロムダン殿!!」
照美は慌てて、マク・ロムダンを呼ぶ。
程なく、カヤネは『鑑定眼持ち』の修行に入る。
そして『クロワシ』の、チューニングにも参加する。
『クロワシ』の運動性能は、武良も体験した通りだ。
御読み頂き、誠にありがとうございます。
次回は9月19日(月)の予定です。
宜しくお願い致します。




