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1-79.東郷勝也の決断。

7月末日に、急病で緊急入院してしまいました。


御心配を御掛けしました。


御陰様で、無事に退院出来ました。


ありがとうございます。


再出発です。がんばります。



ぷかり、と『黒い風』斬り込み隊長・東郷勝也の、意識が起きる。


(ここは?)


どうやら寝心地良い寝具に包まれて、仰向けに寝かされて居る様子だ。


仰向けの視界に入る天井は、清潔感にあふれて白い。


すぐに、身体は指一本動かせない事に気が付く。


なんだ?


目に見えない、硬くてしなやかに柔らかい何かで、全身を覆われて居る様だ。


ピンポーン


警報?の様な、優しいチャイムが成る。


ふっ、と、全身を覆っていた何かが消え、自由に解放される。


だが東郷勝也は、しばし動かずに、白い清潔な室内を頭も動かさずに視線だけで見渡す。


警戒すべき気配が一切感じられないので、ゆっくり首だけ起こす。


自分は、清潔なベッドで寝かされているようだ。


おや。ベッドすぐ脇の床に、見覚えある真っ白い毛皮が規則正しい間隔で、膨らんだりしぼんだりして居る。


(ふむ。風牙が、ここまで警戒心を解いて、熟睡して居るとはな)


東郷勝也は気配無く、ゆっくり上半身を起こす。


こきん


首を回すと、首が鳴る。


ふむ。背骨の疲労が抜けると、俺の首は鳴りやすい。まぁ体調は万全の様だ。


ふとサイドボードを見ると、綺麗なガラス製の水差しに、コップが被せてある。


喉の渇きを自覚したので、コップを取り上げ、水をそそぐ。


ごく、ごく、ごく、ごく。


「ふぃ〜」


うまい。かなり、うまい水だ。


もう一度規則正しく呼吸して居る、風牙を見て苦笑する。


珍しく熟睡して居るな。どれだけ安心して居るんだ?


「風牙」


ピクリと、風牙の耳が立つ。


わふぅ?


風牙は頭を動かさず、寝ボケた声を上げる。


「おい、風牙」


「くぅん♪……わ〜ふぅ」風牙は勝也に返事をするが、大アクビをする。


「おいおい、風牙。そんなに気を抜いて、ここは大丈夫なのか?」


「くぅ〜ん。わうん♪」風牙は背筋を猫の様に四つん這いで、うぅーんと伸ばす。そして勝也に『ここは安全だよ♪』と言うように、答える。


ふと、ドアの前に気配を感じる。


「わうん♪」


勝也は思わず緊張するが、風牙は気にせず、気配に向かい軽く吠える。


トントン


ドアがノックされる。


「……どうぞ」勝也は、致し方なく答える。


かちゃり


「やぁ、父さん」


息子の哲也の顔が、ドアから入ってくる。


「よう」


久しぶりに会う息子に、気安く声を掛ける。


「わふぅ♪」


風牙は、哲也に歩み寄る。


「風牙。付き添いありがとう」


哲也は、わしわしと風牙の頭を撫でる。


「父さん。体調はどう?」


ぱきん


勝也が首をひねると、首が鳴る。


「あはは。良いみたいだね」


哲也は、微笑む。


「……笹木武良殿は、そんなに有能なのか?」


哲也は、一瞬真顔に成る。が、すぐに微笑む。


「そうだね。ここはタイ・クォーン教会の救護院なのだけど。教会の領地内は、武良様の勢力圏でもあるよね。風牙が『ここ』に戻ると、途端に警戒心を解いてしまうんだよ」

と、苦笑する。


「御前もか」


「まぁね。この『安心感』は、初めてだよ」


照美(テル)もか」


「あぁ。母さんは、武良様と『条件』を詰めてるよ。でも……武良様に押されてる見たい。だから、父さんへ付き添いが出来ないと、なげいて居るよ」


「ほほう」


始めて勝也の眉が、驚きに上がる。


東郷照美()ほど用心深く、思慮深く、頭の回転の早い『交渉人』は、そうそう居ない。

海千山千の貴族や交渉人達と、『丁々発止』な交渉を行い、『黒い風』への有利な条件を毎回もぎ取って来る。

その東郷照美(テル)が、交渉で押されてるとは。


「まぁ御自身も頭の回転早いのだろうけど、武良様の頭の中には武良様御自身が組み上げられた、『隼』と言う『戦闘情報官制の使い魔』が存在して居るからねぇ」


「……なんだ?その状況は」


「その使い魔は『直面した事実』を忘れないし、『森羅万象を検索』出来るのだけど。さらに武良様自身が、その情報を素早く活用しちゃうからねぇ」


「……東郷照美(テル)でも、かなわないのか」


「うん……母さんでも、無理だと思う。武良様は……いわゆる、勇者様の人外とか規格外を表す『ちーと』?だっけか。そんなもん超えてるから」


カチャリ


哲也は、腹の変身ベルトを外し、無言で勝也()に渡す。


変身ベルトを持った勝也は、驚く。


実はこのベルトは、勝也自身も使って居た。ので、馴染んで居るハズなのだが。


勝也は思わず、目を近付けてしまう。


「……なんで、ベルト筐体の地金が、新品に成ってるんだ?」


「武良様が、治してくれたんだ。中の『おー・えす』だっけ?も調整してくれて、性能は30ぱーせんと上がってるそうだよ。すごく使いやすくなったよ」


「……これは、武良殿へ『正式』に、乗り換えるしかないか」


「だよね。でも、武良様の御考えは違う見たいなんだ」


「へ?武良殿は『黒い風』を負かしたんだ。所有権は『武良殿』に有るのだぞ」


この世では『弱肉強食』が基本である。ので勝負が付いたら、負けた方は勝った方に従うのが『常識』である。

『黒い風』も、そうして有能な人材を集め、武闘集団を大きくして来た。


「俺もこの世界では、それが常識だと、武良様に説明したんだけどね。武良様の世界では違うんだって。『奴隷とか、所有権とか、面倒臭い』って、バッサリ『所有権』を拒否されちゃったよ」


「ほう?じゃぁ御前は」


「うん。奴隷じゃないよ」


「じゃぁ『黒い風』も?」


「いらないって。ただ……」


「ただ?」


「『魔族討伐(とうばつ)に、協力して欲しい』ってさ」


「……わかった」


勝也は、あっさり了承する。


哲也は、ニヤリと笑う。


「母さんも同意見だよ。でも『武良様は、欲が無い』のだと。だから、交渉しにくいってさ」


「一番怖い、勇者様じゃないか」


「そうなんだよ。無欲で、『融通無碍(ゆうずうむげ)』な視点で、必勝の戦略や戦術をホイホイ編み出すから、ちっとも気が抜けないよ」


「……楽しそうだな」


勝也は、いきいきと話す息子(哲也)に、微笑む。


哲也は、ニヤリと笑う。


「そこで父さん。相談がある」


「聞こう」



御読みいただき、ありがとうございます。


次回投稿は9月12日(月)の予定です。


よろしく御願い致します。

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