1-72.勝負の行方(ゆくえ)。と言うか、落とし所。
少し前に、さかのぼる。
バサッ!!!
『うぉおぉおお!』
案外ビビリのカムランは、ヘルメットの内部で叫ぶ。
『おーいカムラン。経験値コピーのマニュアルにもあるだろう。飛行中は自動制御だから、御前の使い魔に任せれば良いんだよ』
ヤバはカムランの叫びにウンザリしながら、彼に語り掛ける。
『そうそう。俺たちは指示された目標を、制圧すれば良いのさ』
カムランの一人騒ぎに慣れてるタムは、あっさり受け流す。
『んっ?』
そして赤く表示された目標の他に、怪しい気配を感じる。
「なぁ、パル」
『はい。他にも潜む敵が居ます』
パッ、と、黄色表示された敵が、あちこち映る。
「おう!案外潜んで居るじゃないか。そっちは制圧しなくて良いのか?」
『はい。現在伏せて居るつもりであろう敵勢力は、ワザと放置します。武良様の方針は、敵勢力の完全制圧です。敵勢力の最後の戦力まで、絞り出したい所存かと』
「そうか……敵勢力の戦術戦略に、最後まで付き合えば良いのだな」
『はい』
『……敵に最後まで、自発的に戦わせるって、悠長な。この、着てるアーマーは敵の攻勢に、最後まで付き合えるのか?』
タムは、懸念を口にする。
出来るよ
急に、武良からの念話が、タムの脳裏に届く。
『おう!驚かさないで下さいよ!!』タムは、思わず口頭で返す。
もう少し念話に慣れたら、思考を漏らさず会話出来るよ。
武良のからかう様な、念話が続く。
タム。俺は、彼等を『無傷で丸ごと』欲しい。気絶モードで制圧してくれ。敵の武器機材も壊すなよ♪
『え?相手は、裏社会の組織も回れ右する『勇者の系譜』ですよ。無血制圧なんて、出来るんですか?』タムは、思わずボヤく。
大丈夫。『勇者の鎧』を、まとうタムなら出来る。
タムは、武良を『信じた』事を思い出す。
『わかりました。やりましょう!』
んじゃ、赤印の標的の制圧を、宜しくね。
『了解!ヤバ!カムラン!!行くぞ!』
バサッ!
タムは、ど真ん中の赤印に向かい、頭から突っ込む。
ふわり
次の瞬間、バカ長い狙撃砲?のシートに座って居る、狙撃手の右側に立っていた。
背中の翼は、消えて居た。
「うぉ!何処から!?誰だっ!!?」
急に現れた白いアーマーに、スナイパーは慌てて、腹に備えて居たハンドガンを抜こうとする。
バシッ
スナイパーは、タムの電撃に、一瞬光る。
スナイパーはグッタリと、シートにへたり込む。
ぞくり
背後から殺気を感じ、無意識に右手の六尺棒と、左手を上げる。
ガキンッ
タムの左手手甲は、背後からタムの口を塞ごうとする敵の左手手首を押さえる。
右手の六尺棒は、タムの腹を刺そうとするナイフを握る、敵の右手手首を押さえる。
バシッ
タムの背後の敵は、ゆっくり倒れて行く。
どさり。
ぞくり
無音だが、今度は左右から、殺気が迫る。
タムは、近接白兵戦には長すぎる、六尺棒を離す。
するりと、左手の敵の背後に回る。
バシッ
淀み無く、右手の敵の背後に回る。
バシッ
どさり、どさり。
まだ倒れない、六尺棒をつかむ。
タム自身は、自身の今の動きに、驚く。
なんて、軽々と動けるんだ?
これが『勇者の鎧』の、効能とでも言うのかな?
「……御前は、誰だ?天使か?」
少し離れた場所に、簡易強化服で資材運搬を行っていた、やや年上の金髪男性が、某然と立っていた。
『武良マスターからです。名乗って良いそうです』
パルが念話で、伝えて来る。
そうか。まぁ、『勇者の系譜』の口コミに、自分が名前バレしてもやだし。
「タイ・クォーン衛兵隊である。貴君を拘束する。逆らうか?」
やや年上の金髪男性は、ふるふると首を横に振る。
「二番目標を、制圧!」
タムは、報告の声を上げる。
ワザと男から、注意をそらす。
急に、やや年上金髪男性から、殺気が飛んで来る。
タムはワザと、飛び掛かってくる男性を見ないまま、柔らかに体捌きを行い、男性の両腕をいなす。
バシッ
男性は、崩れ落ちる。
『一番目標、制圧!』ヤバの念話が、伝わる。
『三番目標、制圧!』カムランの念話が、伝わる。
「やれやれ。任務終了か」タムは初任務完了に、ホッとする。
『では『停止印』を設置して、御戻り下さい』パルはうながす。
「え?ここにとどまり、橋頭堡を確保し無くて良いのかい?」
『はい。武良マスターは『敵の武器を使えなくすれば良い』とのことです』
「はいはい」
タムは、指示通りに武器弾薬に次々と、タイ・クォーン教会の印象シールをペタペタと貼って行く。
貼られた武器弾薬は、停止フィールドが展開し、敵勢力は触れなくなる。
「よし。完了。ヤバ!カムラン!終わったか?」
『おう!』ヤバはいつもの、ぶっきらぼうな返事だ。
『完了だ。しかしこのアーマーは、すげぇなぁ!』
カムランは、驚きと嬉しさがないまぜな念話を、送ってくる。
「あぁ。そうだなカムラン。しかし帰るまでが作戦だ!嬉しい感想は、後で聞いてやる!」
『へいへい。じゃ、飛ぶぞ!』
三番目標から、カムランが飛び立つのを『感』じる。
一拍置いて、ヤバも飛び立つのが、分かる。
「じゃ、行くか」
タムは、地面をひと蹴りして、ふわりと高く飛ぶ。
バサッ
すぐさま『天使の翼』が広がり、グングン上昇する。
◯ ◯ ◯
ドグワッンッ!!!
ガクン
爆炎に、土手っ腹をブチ抜かれた機会蜘蛛の脚が、突然止まる。
ぐらり
機械蜘蛛の巨体が、傾き出す。
ボンッ!!
仁王像の様に突き出た、瑠璃色強化服の下半身が吹き飛ぶ。
ヒュン!
瑠璃色強化服の装着者は、使えなくなった機械蜘蛛をアッサリとパージし、身軽になった身体を空中でひるがえし、すぐ裏手の森の中へ飛び込む。
武良は、パージからの一連の流れを、ただ見送った。
そして、待つ。
ドヒュン!
すぐさま瑠璃色の残像が森から飛び出して来て、武良のマンモス・スーツに飛び掛かる。
どうやら、森林内に待機の補給部隊から、さらにスピードに特化したパーツに交換装着して来た様だ。
ガシュンッ!!
瑠璃色の残像は、武良のマンモス・スーツとすれ違いざまに接触し、マンモス・スーツの質量とパワーに押され、移動ベクトル方向を無理矢理変えられてしまう。
爆破!
『爆破!』
ドン、ドン、ドン、ドン!!
無理矢理方向を変えられた瑠璃色の残像が、地面に着地した周囲に、今度はランダムに爆破魔法が破裂する!
しかし今度は、瑠璃色の残像は華麗なステップで、爆破を見事に紙一重で避ける。
ドゴンッ!!
そこに一息で間合いを飛んで来た、マンモス・スーツの右回し蹴りが。瑠璃色の残像の腹に入る。
ブン!ゴロンゴロンゴロン!!
瑠璃色の強化服は、長い手足にもかかわらず、吹き飛ばされ数回地面を転がる。
ズシャッ!
瑠璃色の強化服は、すかさず跳ね起き、体制を立て直そうとする。
ブン!ドゴン!!ドシン!!!
武良は、瑠璃色の強化服の懐に突っ込み、マンモス・スーツの重いワンツーパンチを、容赦無く叩き込む。
ビキン!バキッ!!
瑠璃色強化服を、強化して居る外装強化骨格の右手首が、マンモス・スーツの左フックと激突し、折れて吹き飛ぶ。
『アガタ!手を貸せ!!』
瑠璃色強化服は背後の森に、初めて声をかけながら飛び下がり、マンモス・スーツから間合いを取る。
ヒュン!
瑠璃色強化服へ、紅色の強化外骨格の右手首が、飛んで来る。
カシャン!!
たちどころに接合し、瑠璃色強化服に、紅色の右手首が装着される。
『高振動ブレード!!』
瑠璃色強化服は叫びながら、紅色の右手で、巨大で黒光りする大剣を抜く。
ピキュルーン!!
紅色右手首の風車が回り、光る。
ピキュルーン!!
瑠璃色強化服の、あちこちに備え付けられた風車が、連動して回り出し次々と輝き出す。
キュ、キューン!
抜き放たれた大剣は、凄まじい振動音を響かせながら、大きく振りかぶる動作に移る。
◯ ◯ ◯
「成る程。三郎も考え付いたか。泥臭く、徹底的に強化を重ね掛ける確実性を」開祖シンは、うんうんと納得した様にうなづく。
「はい。しかし私の親父を、ここまで追い詰めるなんて」東郷は青ざめる。
「残念だが、消耗戦に陥れば、武良が有利だ」開祖シンは、無慈悲に切り捨てる。
「そもそも、無限の魔力を有する『真の勇者』様に、総力戦を挑むのが、間違いだと思います」
田畑光子は、高振動ブレードを振り回す東郷の父を、案じる声が思わず出てしまう。
「何と言うかな。仕方が無いのさ。結局は負ける可能性が高い『真の勇者』が相手だとしても、全部の力を振り絞って『あらがう』事が重要なんだ。それが『武人』の矜持(プライド)だからね」
開祖シンは、致し方無い事を受け止めざるを得ない、哀愁の表情に成る。『武人』である開祖シン自身にも、身に覚えがあるからだ。
◯ ◯ ◯
「まだ、決着が付かないの?」
高振動ブレードを振り回す、東郷の父の姿を見ながら、キャシーが嘆く。
「まだだろう。多分最後は、教会衛兵隊との『強化服同士の白兵戦』に、成るだろうな」
ハリーは、渋い表情に成る。
マイクは無言で頷き、ハリーに同意する。
「えー。そんなに掛かるのかい。なんで?」
他人事なラルフが、ボヤく。
「それはな、陣地を正式に掌握する『正規軍』が来てないからだ。
しょせん俺たちは『切り込み部隊』で、敵の『正規軍』の連携を、少人数の人外な裏技チートで撹乱して切り込んで行く『消耗品』扱いだからだよ。
『消耗品』の裏技チート使いは、表舞台で勝ってはいけないんだ。
今日負ければ貴族達から見放され、野垂れ死ぬだけさ。
さらには『最初から居なかった』事にされるかもなぁ」
皮肉な未来予想を描ける自分に、ハリーは皮肉な笑顔を浮かべる。
「じゃぁ、なおさら、武良様に勝ってもらわなきゃ。武良様は戦う人材が欲しいから、里の新しいスポンサーに成ってくれるじゃないの!」
キャシーは、断言する。
「……結局は、そこが一番『収まり』が良い『落とし所』か」
マイクは、ボソリとつぶやく。
「……どう考えても、一番収まりがイイじゃ無いか」
ハリーも、しぶしぶマイクに同意する。
「どう、あがいても、武良様を中心に巡ってゆくんだよ」
ラルフは、お気楽な『傍観者』の口調で、言い放つ。
「「「……」」」
だれも、反論出来ない。
御読みいただき、ありがとうございます。
次回は6月26日の予定です。
宜しくお願い致します。




