1-68.東郷の魔刀
「それで、現在の三郎は?」開祖シンは、うながす。
「田畑三郎は現在、『活動停止』居ます。アドバイスが必要な時には、再起動してもらってました。私達の修行期間とか」
「そうか。100年の間、新品の部品交換をする、完全メンテナンスが出来なければ……」
「はい。里で開発された部品へも交換しましたが、性能や精度は、正規品にはかないません。現在は、再起動出来るのか、分かりません。幸いに『りんぱ液』への透析と栄養は実用化されたので、田畑三郎の脳は無事です」
光子は、親友で開発局の山崎優菜が解説してくれた情報を、思い出しながら述べる。
「……私や武良なら、新品へ部品交換し、完全メンテナンスが可能だね。ただ……」
開祖シンは、ほろ苦く笑う。
田畑光子は、ふっ、と微笑む。
「私の一存では分かりません」
「たしかに。それは、君達の里に帰り付いた時、話し合う件にしようか」
開祖シンは、うん、と頷く。
「田畑さん。あいわかった。では、東郷君」
開祖シンは、東郷を見る。
「はい」
東郷は、かしこまって受ける。
「強化服に変身後は、『魔刀』が使えないと言う事だが、強化服を起動して貰えるかな?」
「はい」
カシャン
東郷はバイザーを、降ろす。
『破魔回路起動!』
ピキュルーン!!
バックルの『風車』が、クルクル回り出す。
「ふむう……」
開祖シンは一歩下がり、東郷をの全身を観察する。
「では、愛刀を構えて貰えるかな?」
『はい』
シャキン
背中に回して居た鞘から、慣れた手付きで、愛刀を一気に抜刀する。
「……なるほど。東郷君。収めてくれるかな」
『はい』
東郷は背中から左手に回した鞘に、淀みない手付きで、愛刀を鞘に収める。
「東郷君達が『魔刀』を使えない理由が分かったよ。私がこの試作アーマーを設計した時は、概存の武器を運用する予定だったから、動力炉の容量も最小限なんだ。武器に動力を回す容量が無いから、六尺棒を剛力で振り回し、蹴りや拳で殴り殺す仕様だね。無理に魔刀を使用すれば、装着者の生命力を、削ってしまう」
開祖シンは切ない表情で、解説をする。
『えっ!装着者の生命力を、削る!?』東郷は、ソコに驚く。
「えっ!開祖様の設計?」光子は、そちらに驚く。
「そうだ。君達が装着して居る強化服は、俺が描いた試作設計図を、田畑三郎に渡し、共同開発をして居たんだ」
開祖シンは、ふと遠い目に成る。
「田畑三郎とは、母親同士も親友で、家族ぐるみの幼馴染でなぁ。同じ産院で生まれたんだ。そして同じ公園で遊び、同じ幼稚園から大学まで学び、就職先まで同じでね。良き親友であり、良きライバルだった。そしてある日、田畑三郎は『家族ぐるみの付き合いの田畑家』ごと、消えた」
東郷と光子は、開祖シンの独白に、答え様の無いままに聞き入ってしまう。特に光子は、自分の曽祖父の『意外な過去』に、戸惑う。
「数ヶ月後、ライバル国は『田畑三郎と共同開発した強化服』を原型とした、『ジャー・ヘッド・シリーズ』の強化服分隊を発表したよ。もちろん、開発の中心には『サブロウ・タバタ博士』が居た」
開祖シンは、切ない表情となる。
「えと。では、曽祖父は何時、『ジャー・ヘッド・サイボーグ』へと、自らを改造したのでしょう」
「……直ぐに、私が『新機軸の強化服』を発表したからね。人間身体に流れる『気』や、『経絡経穴』『チャクラ』にリンクする方式で、圧倒的な同期率と身体強化を可能にした……つまり私は、サブロウ・タバタの『ジャー・ヘッド・シリーズ』を『三日天下』に終わらせた訳だ。それで、ライバル国のサイボーグ技術との、掛け合わせを思い付いたのだろう」
『「えげつな!!」』
「仕方ないじゃないか。ただの産業スパイに盗まれた方が『あぁ、盗むのが仕事だからな』と、まだ精神的ダメージは少ない。心許していた長年の幼馴染の親友に、裏切られたんだ。容赦は出来なかったよ」
開祖シンは再度、ほろ苦く微笑み、遠い目をする。
「その新機軸の強化服も、いずれは三郎に開示して、評価して貰うつもりだったさ。しかし、人体安全検証実験がまだだった。それで、一人で自分に検証して居たんだ。もう少しで検証が終わる直前で、三郎と田畑家達は居なくなった。私の母も、ずいぶん落ち込んで居たなぁ……」
『何故、そのタイミングでの、発表だったのでしょうか?』
東郷が、疑問を述べる。
「ジャー・ヘッド・シリーズの正式発表は、ライバル国の総国民による、元首への信任投票選挙の前だったよ」
『うわ!!ジャー・ヘッドは、文字通り『客寄せパンダで人気取り』じゃないですか』
東郷は、おもいきり、引く。
「そんなことで田畑三郎と田畑家は、『草』を解除されたんですか!?」
光子は、くだらない理由で、翻弄された田畑三郎の不運をなげく。
「そうだ。『それならば』と私も、投票日の3日前に、新機軸の強化服でジャー・ヘッド分隊に挑み、分隊を壊滅させた。私一人でな。強化服だけ破壊し、装着者をインナー姿にむいた一部始終の動画を、動画サイトに流し、ライバル国マスコミに流した」
『そ、それで、元首への信任投票選挙の結果は?』
「まぁ経済は安定してたし、失業率も低下してたから、かろうじて与党元首が勝ったよ。そして、『ジャー・ヘッド・サイボーグ計画』が発動された。程なくして、田畑三郎……いや、サブロウ・タバタは、サイボーグ分隊を引き連れて、私に再戦を挑んで来た」
開祖シンは、田畑光子を見る。
「君の曽祖父は、見事に私の強化服の制御回路を、機能不全に追い込んだ。装着して居る強化服を、爆発寸前に追い込まれた私は、致し方なく、この身の経絡経穴やチャクラに、エネルギー・フィールドを流した。結果、私のチャクラは、ユグドラシル・エナジーとつながり、無限のエネルギーを手に入れ『侍』スーツの原型が出来た」
開祖シンは、光子を見つめ続ける。
「その状況で、余剰エネルギーが周囲に爆発し、巨大な海底クレーターが出来た。同時に、私に一番近付いていたサブロウ・タバタだけが、あちらの世界から消滅した。私も、ライバル国も、『死亡判定』したよ」
「……実は、この世に転送されて居た、と」
光子も、切ない表情に陥る。何と言う運命。
「照らし合わせたら、そう言う事だな。私は復讐を達成して、あとには田畑三郎との思い出と、彼への対応への後悔が残った。もし、もっと早く、新機軸の強化服の情報を、田畑三郎と共有出来ていたら、『草』の任務を忘れてくれて居たのでは?と」
「……それは難しいです。一人が裏切れば、家系ごと跡形無く消されます。少なくとも、この世では」
光子は、断定する。
開祖シンは再度、光子を見つめる。
「そう言う『悪習』は無くす。事実、向こうの世界の『悪習』は、根絶した。この世界でも『悪習』の根絶は、可能だろう」
『どの道、我々の所属する『里』の在り方も、変えて行かれてしまうのですね』
東郷は、あきらめる声音で、つぶやく。
「表に出れば良いじゃないか。強さを極めて、勇者の系譜でございます。と」
開祖シンは、またどこからか、小ぶりのジュラルミンのケースを取り出す。
ピピッ
カチャリ
中には、腕時計サイズの、ミニ風車が数個入って居る。
「この『増幅器』でもある風車を、両手両足に付けてもらう」
開祖シンは、東郷にミニ風車を4個渡す。
東郷は、素直に指示通り、右手の甲にミニ風車を当てる。
ピピッ
音と共に、東郷の強化服に装着される。4回繰り返される、
「では、また、愛刀を抜いてもらおうかな」
『はい!』
シュパッ
一息で抜刀する。
「そして、破魔回路を起動」
『起動します』
ピキュルーン!!
ピキューン!!
東郷の腹の風車が、勢い良く回り出す。
東郷の手足につけられたミニ風車も、勢い良く回り出す。
「魔刀発生!」
『魔刀発生!!』
東郷の愛刀は、紅く怪しく輝き出す。
「よし、成功だ!!」
御読み頂き、ありがとうございます。
次回投稿は、5月29日(日)を予定して居ります。




