1-34.公都の台所(2)
セルガです。
うーん。やはり、神官長としては、マナーは厳守致したいですは。
『ずぞぞぞぞぞ!』
あう。武良様。そんなに豪快に啜らなくとも。
『『『ずぞぞぞぞぞ!』』』
そんなぁ。皆さん、そんな見事に、啜ら無くてもー。
しくしく。
「あぁ♪ 良かった♪ 今日はこちら側に屋台を回されたのね♪」セルガさんは、一つの屋台を見て微笑む。
武良も、彼女の視線の先を見ると、壮年位の男性が両手にコテを持ち、熱い鉄板の上で何やらい『じゅうじゅう』炒めて居る様だ。
「へぇ。アレは何の屋台ですか?」武良は、セルガに問う。
「『タイ焼き』ですは♪」
「えっ!? いま何と?」
「だから、タイ焼きですは♪ 魚醤味で、山肉や海産物や野菜が、沢山入っていますの。タイ領民は、古から食べ慣れた料理ですは♪」
「な……成る程」武良は、同音同名の日本の焼き菓子を思い出しながら、苦笑する。
「では、私が求めて来ましょう。御二つで宜しいでしょうか?」タイ・クォーン教会・衛兵隊の、超イケメンの衛士タムが、進み出る。
おや?!
俺は、タイ焼き屋台主人のAR表示に、気になる文言を見付けた。
隼。『竜眼』起動。
起動しましタ。
タイ焼き主人を、改めて竜眼で見る。
すると。彼の情報が、脳内に現れて来る。
彼の名は、ケンダン・アム。タイ焼き屋台主人。とは、仮の姿。反公爵組織の公都方面の取りまとめ役だ。
この市場でタイ焼き屋台を営むのは、組織の連絡網中継地として適当だからだ。
元々、歴戦の探求者として、得意の長剣を魔物に対して振るっていた。
数年前、探求者パーティーの仲間をかばい、魔物に右足を持ってゆかれる。それを切っ掛けに、探求者を引退。その後、妻実家農家の野菜を素材に、タイ焼きの修行を始める。
持ち前の探究心からタイ焼きの味を突き詰め、公都でも名のしれた屋台と成る。
反公爵組織に入ったのは、妻実家の農家が、理不尽な徴収で一家離散してしまったからだ。
妻実家の離散後、納得行かない彼は覆面で正体を隠して、得意の長剣を振るい、無慈悲な徴収に村々を回る徴収部隊を、全滅させた。
強大な魔物を相手して居た彼は、右足が義足でも、人族相手は物足りなかった。
その後、熟練のパーティー指揮スキルで、反公爵組織の一辺を担う。
現在は数日後の、反公爵の一斉蜂起を目指し、現公爵の暗殺を企てて居る。
ほっほー。確かに『竜眼』は便利だね。さて。タイ焼きの店主と、話さないと。
「いや、全員分を。皆で食べよう♪。あー。私は、屋台の店主と会話したいなぁ」武良はタムを制し、数人が座れる長テーブルを指差す。
「「「「えっ!?」」」」
今回の御忍び護衛役の、衛兵隊のタム、カムラン、ヤバ、ロムレス、が、驚く。彼等の常識では、貴人が庶民と会話を交わそうなんてあり得ないからだ。大抵一方的な下知で終わる。
「あのう。武良様。御忍びという事で、庶民と会話は御控えに成られた方が……何より、『光の聖剣』の主に会いたいと、武良様は大注目に成ってまして。ここで正体を明かされますと、市場で暴動が起きかねません」
セルガさん専属の女性警護人のラナが、申し訳無さそうに述べる。
ラナの娘のカルナも、申し訳無さそうだ。
「うん。そこら辺は、私が責任を持つよ♪。是非話したい。何故なら、庶民の生活改善をしたいのに、実際の庶民要望を、聞かせてもらわないと」武良は、にっこり笑う。
参ったね。貴人での御忍びでは、庶民の本音は聞けないなぁ。後日、コッソリ繰り出そうかな。
そこら辺ヲ、もう少し探っておきまス。
うん。宜しく。
「では、行こう」武良は、自然体で、歩み始める。
いつの間にやら、『タイ焼き』の屋台の前に立つ。
「御主人。『タイ焼き』を……」後ろを振り向き、慌てて走って来る護衛達や、セルガさん達の数を確認する。
「八名分頂けますか♪」武良は、気軽な声で、注文する。
「へーい……あまり護衛を、困らせてはいけませんよ」店主は、焼く手を止めずに、頭巾の貴人に忠告して来る。
「ありがとうございます。此方に到着して、日が浅くて。細かい『仕来たり』が、分からなくて」武良は、素直に感謝する。
店主はジロリと、上目遣いに、武良を見る。
「変わり者は、生き残り辛いですぜ」頭巾の中身を、伺う様に述べる。
「死線を覚悟しなければ、見えて来ない事もあります」あっけらかんと、武良は、答える。
店主は、思い当たるのか、ニヤリと笑う。
「違い無いですな。法螺話とも思えない、旦那の越えて来た死線とやらに、興味が出ますな」ニヤリと微笑みながら、炒める手を止めない。合間に、魚醤ソースを追加する。
じゅーじゅうじゅう
良い香りが、拡がる。
「……御主人。屋台を営む方々は、御主人の様に腕利きの元探求者さんも多いのですか?」武良は、あっけらかんと、問う。
店主の炒める手が止まり、ギロリと鋭い視線を、武良のサングラスに向ける。ふっ。と微笑み、再度炒め始める。
「何でいきなり、探求者が出て来るんです?」幾分堅い表情で、問う。
「はい。右脚が義足なのに、作業中の動きに、身体のブレが見られません。相当剣を振って来ましたね♪」断定する。
再度、店主の手が止まる……直ぐに動き始める。
「驚きましたな。この市場に来て以来、義足を見抜いたのは、旦那が初めてですぜ……旦那は、何者ですか?」両眉を上げて、武良のサングラスの中を、伺う。
「……庶民の話を聞かせて貰いたい、物好き……って、所ですかね♪ 四半時程、御時間を頂きたい」武良の声は、笑う。
ふっ。仏頂面の店主の顔に、微笑みが浮かぶ。
武良の後ろに控えて居た護衛達は、意外な話の成り行きに、皆戸惑いの表情を浮かべる。このみすぼらしい屋台の店主が、元探求者だって?……確かに、姿勢や所作に無駄な動きは無いが……この動きが、義足だって?
「良いでしょう。此れを炒め終われば、休息に入れます。おう、後ろの。皿に分けるから、運んでくれるか?」武良に答えると、後ろの護衛達にも、声を掛ける。
二人が進み出て、何度か往復して、長テーブルまで運ぶ。
「えと。すんごい大盛何ですけど」セルガは、山盛りのタイ焼きに、驚きの声を上げる。
「一度火を止めちまいますと、具材が冷えて、鉄板にこびりついちまうんです。まぁ、二日分の稼ぎは頂けたので、文句はありやせん」
店主は、渋い声で答える。見れば、元は美男子を伺わせる容姿だが、右頬に大熊の爪で抉られた様な傷もあり、年齢不詳だ。。
「まぁ、冷めないうちにどうぞ」渋い声で、勧める。
武良は、頭巾の口を外し、長い菜箸?を、タイ焼きに差し入れる。がっ、と掴み上げる。
ずぞぞぞぞぞっ!と、一気に啜る。
「うまいっ!!」武良は、感嘆の声を上げる。
「あ、あの」セルガは、戸惑って居る。
「?どうされました?」武良は、問う。
「食事中、音を立てるのは……」セルガは、哀しげだ。
「あぁ。マナーですね。ですが、ここは、庶民の食堂です♪ 郷に入れば、郷に従うべきかと♪」
ずぞぞぞぞぞ!!
「失礼!」ずぞぞぞぞぞ!
ずぞぞぞぞぞ!
セルガ以外、一気に啜り始める。
まぁ、セルガ以外、庶民出身だし。
「セルガさん。ここは各々の流儀で、食しましょう♪」武良は、促す。
「は、はい」セルガは、音を立てずに食し始める。
「「「「「うまい♪」」」」」
「本当ですは♪ それぞれの具材のダシが、見事に調和して……」
タムとカムラン組は、あっという間に完食する。
「お待ちどう♪」
立哨して居た、ヤバとロムレス組と交代する。
ずぞぞぞぞぞ!
「「うまーい♪」」ヤバとロムレスは、まだ暖かいタイ焼きに、舌鼓を打つ。
「御馳走様♪ 店主のタイ焼きは、絶品ですね♪ 店主の御名前を教えて頂けますか♪」武良は、頭巾の口元を開けたまま、和かに微笑む。
「ケンダン・アムと、言います。三年前の魔族との戦いで、右脚を持って行かれました。その後、タイ焼きを習い始めました」仏頂面のまま、渋い声で話す。
「ありがとう……申し訳無い。此方は、現在名乗りは許されて居なくてね。このまま幾つか質問させて貰って良いですか?」
「貴人の御忍びは、そんな物です。ちゃんと過分な代金を頂けたのが、珍しいですぜ」店主ケンダンは、皮肉な苦笑いで答える。
「美味い物を作る努力に、ちゃんと代金を払わせて貰わないと」武良は、真剣に答える。
「それこそ、変わった旦那だね」ケンダンは尚、面白そうに笑う。
「ありがとう♪……では、仮の話をして良いですか?」武良の態度が、少し真剣味を帯びる。
「仮の話?……どうぞ」ケンダンは、不思議そうな表情に成る。
「税率を、前公爵様の利率に戻したら、一斉蜂起鉾を、中止してくれるますか?」
ガタン!
ケンダンは、椅子を蹴立てて立ち上がる。
「何を言うんだ!!ふざけるな!!」
セルガも、護衛達も、武良の質問の意図が理解出来なくて、視線を武良と店主の間を、往復させてしまう。
「待ちなさい。だから、仮の話をして居るんです……後、搾取し過ぎた収穫物を、返納したいんですが」
「おい! だから、何の話だ!!」
武良は、少し顔を、ケンダンに近付ける。
「……だから仮の話と言う『根回し』を持ち掛けて居るんだ。お互いに、今少し、立場を濁した会話をしないか?」武良は、悪い顔をする。
「………」
ケンダンは立ったまま、険しい表情で固まる。『立場を濁した会話』の利点を、計っている様子だ。
「……本音を言うが、これ以上は誰にも血を流させたく無い」ケンダンに、宣言する。
「………」ケンダンの眉間のシワが深くなる。彼の頭脳は、武良の言葉を、ブンブンとフル回転させ、吟味して居る。
「圧政に、改革・革命を挑む気持もわかる。しかし血を流せば、何処までも底なし沼だ。だから現実的な補償で、一度鉾先を鎮めて欲しい」ケンダンの瞳の奥を見る。
「………ぬぅ」ケンダンは、何か答え様とするが、迂闊には答えられない。
「無理に答えなくて良いよ。今日は、是迄と、しよう」武良は、静かに立ち上がる。
「ぬ!……うぬ」ケンダンは、戸惑う。
「ケンダン兄!後は任せろ!!」
急に男がケンダンの後ろから出て来る。周りを見れば、武良達が座る長テーブルの周りを囲む、人集りが完成して居た。
御読み頂き、ありがとうござる。
「タイ焼き」うーん。「焼うどん」デスかね。
お昼は、焼うどんにしようかな♪
次回投稿は、2月2日(火)です。
よろしくお願い致します♪




