1-29.守護のカタチ
竜神ニーズヘッグである。
此の世に生きて、久しいが、笹木武良は実に面白い。
……酒に釣られては、おらぬぞ。
……それは、美味かったが。
まぁ、良いではないか。
笹木武良が示す先に、どんな世が広がるかの。
楽しみじゃ♪(ぐびり)
あ、いや、これは笹木武良が、持たせてくれた『こし◯かんばい』と言う『にほんしゅ』じゃ。
何故じゃろう、何か懐かしい味じゃ。
「笹木武良勇者様」
武良付きのメイドのメルが、武良へ近付き、彼の耳元に来客を告げる。
「へぇ。タキタル隊長さんが、私に面会を!?あぁ。御願いの確認もしたいから、丁度良いね。うん。御通しして下さい。ケルシー。映像オフにして」武良はメルを促し、ケルシーも促す。
酒場の画像は、消える。
メルは、武良に恭しく一礼し、貴賓室の出入口へ向かう。
「ほう。タキタル坊主かの。人族は成長が早いから、偉丈夫に成ったかの?」竜神が、懐かしそうにつぶやく。
「偉丈夫どころでは、ありませんは。強かな、歴戦の戦士であらせます」セルガさんは召喚の間の、予想外の王都衛兵隊の数を、思い出し、渋い表情に成る。
「おや。タキタル隊長は、お知り合いでしたか」武良は、竜神に問う。
「うむ。初期の魔王退治パーティーの、下働きであった。剣の筋も良く、手合わせしてやったぞ♪」竜神は、懐かしそうに、つぶやく。
「タキタル隊長を、御案内致しました」メルが、先触れに声を掛けて来る。
少し後ろから、タキタル隊長の大柄な体躯が、のっそり入って来る。
メルとの体格差に、遠近感が狂いそうだ。
「笹木武良『真の勇者』様。御目通りを御許し頂き、誠に喜びと感じます」
タキタル隊長は、その巨躯を、なるべく小さくしたい様に、深々と一礼する。口調もかなり、謙って居る。
「……タキタル隊長。口調が固すぎだね。もう少し、平素の言葉で会話を、御願いしたい」武良は、苦笑する。
「失礼しました……是非に、御相談頂きたい事が御座います」見ればタキタル隊長は、汗だくだ。
「坊主。健勝そうだの♪」竜神はタキタルに声を掛け、ニヤニヤ微笑む。
「ニーズ様!!何故此処に!!」タキタル隊長は恩師との、思わぬ再開に、満面の笑みに成る。
「丁度、笹木武良からの接待を受けて居た所だ。笹木武良の世界の酒は、なかなか『良い仕事』をして居る。坊主も、一緒に相伴を受けぬか?」竜神は、巨大なピッチャーを掲げ、タキタル隊長を誘う。
「そうですよ。タキタル隊長も、御気に入りの酒を探して下さい♪味を確かめながら、相談を受けましょう♪」武良もタキタル隊長を、誘う。
「は、はぁ」
◯ ◯ ◯
「此れも、美味いですなぁ」タキタル隊長は、酒の味の多様性に、仕切りに感心する。
タキタルの座るテーブルの前に、数本のウィスキーを置いて有る。
それぞれの酒瓶が、日の光に照らされて、美しい。
「ううむ。この酒も、全部美味い。笹木武良の世界の酒は、レベルが高いのぉ」竜神は、真剣に利き酒に夢中に成る。
「全部、同じ種類の酒ですよね。しかし旨味も風味も、それぞれに違いますね」副司祭メルダは、感心する。
「ウィスキーと言う酒の歴史は、古いです。ですが、『酒造り狂いの人族』集団同士の切磋琢磨により、『新しい味』が毎年生まれます。実は、どの種類の酒でも、切磋琢磨が起こって居るのです」ゴトン、と、日本酒の一升瓶を数本、テーブルに置く。
「この酒は?」セルガが、問う。
「私が生まれ育った『日本』の酒です。今年の品評会上位10本の『酒蔵』の『日本酒』を、用意しました」
「うまい」
「ウィスキーと異なり、爽やかな喉越しですな」
「ううむ。どれも異なるが、どれも美味い」
「『美味しい〜♪』」
「こう言う物言いは、不遜と取られるかも知れません。ですが、庶民の経済が豊かになれば、庶民それぞれが『多様性』を生み出す『余裕』が出来ます。そして庶民同士が、その『多様性』を楽しめる文化が生まれるのです」 武良は微笑みながら、事実を述べる。
「『……すごい。そんなにも、『可能性』が拡がるなんて』」
((武良様の御指導を、しっかり受け止めないと))
セルガ×ケルシーの思考が、シンクロする。
「……尚更、笹木武良様の御知恵を、仰がねば」タキタル隊長は、つぶやく。
◯ ◯ ◯
「魔族崇拝者?」武良の、左眉が上がる。
「はい。魔族崇拝者による魔族結社が、意外に大勢の構成員を抱えて居ります」
タキタル隊長は、無骨な軍属らしく庶民の苦中を憂えた、苦虫を噛んだ表情に成る。
「えーと。強大な魔族と言う恐怖の対象を、むしろ積極的に崇めて仕舞おうかと?」武良は、自分の理解を確認する。
「はい。聖と魔。どちらにしろ『すがり付く』には、寄り強い魔力を『即時に』受けられる方を、崇めて仕舞うモノのかと。悩ましいですが、聖なる力を祝福される迄には、修行の時間が掛かりますし」タキタルは、溜息を付く。
「成る程ね。聖なる力を祝福される前に死んじゃうかも知れないし。汚泥に塗れても生きるか、誇り高く死ぬか、か。・・・選択肢が二択じゃねぇ。魂さえ捧げれば、取り敢えず簡単に『強い魔力が授かる』魔族を崇めちゃおうと」
「はい。魔節の期間は、特に死亡率が上がります。庶民は、『先づは生き残りさえすれば良い』と」タキタルは、天を仰ぐ。
「一理あるところが、痛いのぅ」横で聞いて居る竜神も、渋い顔に成る。
「はい。此の儘では庶民は、魔族崇拝に傾く一方です……そこで、勇者様のお知恵をお借り出来れば……と」タキタルは、恐縮した表情で、武良を伺う。
「うーん;」武良は、思わず天を仰ぐ。
庶民の、即時の安全・安心かぁ……教会の信用回復も、計るとな。
ふわり
心地よい微風が、開け放たれた窓から入って来る。
武良は、つと窓の外に視線を向ける。
今日は晴天だ。青い空と神殿神域の森の緑が、麗らかな陽射しに映えて美しい。
ブルル。馬の嗎が聞こえる。水場で身体を洗って貰って位て、心地好さそうだ。
うん。此処は平和だ………んっ?
神殿城壁の向こうに、聖なる柱が見えて居る。
武良の脳裏が閃き、タキタル隊長に笑顔を向ける。
「タキタル隊長!そうだよ。我々は、庶民の守護者だ!」
「は?はぁ」タキタルは、弾ける様な武良の急な笑みに戸惑う。
「君がヒントを言ってくれた♪」にこり、と、タキタル隊長に微笑む。
「はっ?私が?何がでしょうか?」タキタルは、益々戸惑う。
「庶民が求めるものは、魔節の中、『先づは生き残りさえすれば良い』と」
「あぁ! えー……それで?」タキタルは、まだ困惑顔だ。
武良は、窓の外を指差す。正確には聖なる柱だ。
タキタルも、皆も、柱に注目する。
「今現在、神殿神域の平和に、『聖なる柱』の結界が加算されて居るね」
「はい。確かに」しかしタキタルは、それがどうした?と言う表情に成る。
武良が大型魔人を、聖光剣で打ち倒した後に、聖なる柱が出現したのだが。広範囲の聖なる結界も構築して居ると分かった。更には、神殿周囲の村や小都市に、魔族もそうだが小さな魔物すら現れなくなった。魔族崇拝者達も、聖なる力の波動で正気に帰り家に戻れた者や、結界外に逃れて行った様子だ。
現在、聖柱の結界内の庶民達に、神殿は非常に感謝されて居る。
「その、結界効果を国中に拡大しよう♪」武良はニコニコ顔で、タキタルに向き直る。
「ど。どうやって、ですか?」簡単に言うが、隈なく聖なる柱を建てて行くのなら、どれだけの魔力が必要に?
「……うん。教会に参拝に訪れた庶民に『身体護符を付与する』だね」
「身体護符を付与?」タキタルは、思わず拍子抜ける。聖なる柱から、えらくスケール・ダウンした様な。
「只の身体護符付与じゃ無い。勇者様御墨付きの強固な守護結界を、祝福を受けた者の周囲に構築する。巨大魔族や魔物だけでなく、魔族崇拝者おも近寄らせない物だ。その身体護符付与で、なるべく多くの庶民一人一人を祝福する……つまり、庶民一人一人を『歩き回る聖なる柱』とするんだ。聖なる護符の祝福を受けた一人が居れば、周囲の多くの庶民を、強力な魔物や魔族や魔族崇拝者から完全守護出来る」武良は、微笑む。
「え……と。守護するだけですか?」
「そうだよ。時間稼ぎだよ。守護付与からの自動警報を受けた、我々『守護する者』が駆け付ける迄の」
「!!」
タキタルの身体に、雷に打たれた様に身震が起こる。正に、衛兵隊の出番ではないか。正確迅速な警報さえあれば、即座に駆け付け、庶民を守る事が出来る……魔節であろうと、守られた庶民達は死なない。安堵した庶民が、再度神殿を信頼し敬愛してくれる可能性は、高く成る。
「で、具体的には?如何が居たしましょう?」
「うん。悪魔崇拝者の真似をすれば良いね」
「は?」
「悪魔崇拝者が、魔族を憑依させるには、魔族の種子を飲み込むのだっけ」
「はい」
「神殿や教会で施す『御聖体』が有るね。そちらに、守護聖句符を付与しよう。聖神の欠片である『御聖体』を食させれば、一人ひとりが祝福を受けたホーリー・コア(聖なる核)を、その身に抱く『守護の人柱』と成る
「!!」
タキタルは、目からウロコがバラバラと落ちまくっていた。
即席だが、数多くの庶民を魔族の暴挙から救え、例え亡くなって仕舞ったとしても、魔族に魂は奪われない。
「我々『守護者』は、庶民を、徹底的に魔王・魔族から、守り抜く。そうすれば庶民は、教会の信頼を取り戻してくれるだろう。先ずは、この公都から始め様かね♪」
バサッ
目の前を急に、真っ白な翼が舞う。
「素晴らしい♪流石は武良殿。大賛成だ。ヴォーグ神も意表を突かれ、膝を打たれ、大笑いして居られる」
ワードマンさんが、微笑みながら二人の横に立って居た。
「守護天使様!」普段天使を見れない霊格で、無骨な軍属であるタキタルは、守護天使の急な実体化に飛び上がり、最敬礼する。
「タキタル殿♪良く武良殿に相談されたな。良き方策を導いて頂いた。貴殿は祝福に値する!」
「は?」
「先ずは、貴殿から守護聖句付与しよう。祝福!」
「うわ!」タキタルの身体は、一瞬輝く。
御読み頂き、ありがとうございます。
ストックがー
アイディアは確定して居るのですが、話を『回す』のに、時間が掛ってしまいます。
がんばります。
……御意見・御感想を頂ければ、原動力になります。
次回は、1月21日(木)を予定して居ります。




