1-23.調整×調整、また調整
東郷す。
武良様の器がデカ過ぎて、何も言えません。
うちらの里の長老も、したたかな『海千山千』な勇者でしたが、『融通無碍』さも加わり、敵わないでしょう。
武良様の、次なる手を、拝見したいですね。
トントン
『どうぞ♪』武良勇者様の、気軽な答えが、返って来る。
武良勇者様に、指定された部屋のドアを開ける。
入ると、いきなり目に飛び込んで来た。
白い、フル・アーマーの鎧?の兵士が、勇者様の前に、ピクリとも動かず『棒立ち』に立って居る。
勇者様の隣には、セルガ様と第一守護天使様が立って居て、東郷と光子には気にも掛けず、白い兵士に顔を寄せて、検分して居る様だ。
セルガ様は両手に、大小の大きさのタイ・クォーン教会の紋章を持ち、アーマーの何処に付けるか、検討して居る様だ。
思わず、東郷は退室しようと、身を翻す。
光子も、それに習う。
風牙は廊下で、戸惑って居る。
「あぁ、大丈夫だよ。此れは、機密でも何でも無いから♪風牙もお入り♪」二人の背中から、武良勇者様の楽しげな声が掛かる。
「はぁ、失礼します」東郷は、再度武良勇者様に向き直り、一礼する。
光子も、無言で一礼する。いや、白い兵士に目が釘付けだ。
わうん♪
風牙は、気にせず入って来る。
「これは、魔族対策に、タイ・クォーン衛兵隊に標準装備させる、勇者製のバトル・アーマーだよ♪」東郷に説明する。
「え? 機密そのものじゃぁ無いですか! 勇者系譜が知ってはいけない機密では?」
「だから、見せるんだ。遠慮無く里に報告してね♪」武良勇者様は、にこにこ微笑む。
東郷と光子の頭上に、多くのはてなマークが浮かぶ。
武良勇者様の意図が、読めない。
「貴方方に、そう思わせる事が、目的ですは♪」セルガ様は、我々に向かい、ニヤリと悪い笑顔で話し掛けて来る。
「そうそう。『ここに『テルガンの実』が、在りますよ』と、多いに勇者系譜に、喧伝して欲しい」ワードマンさまも、笑顔で、サラリと怖い事を言う。
東郷は、引っ叩かれた様に、気が付く。
「勇者系譜抜きで、魔王退治を行うおつもりか!!!」
光子も( あっ!、成る程 )と言う表情に成る。
「そう。出来るから、行うだけだよ」武良勇者様は『何でも無い事』の様に、宣言される。
「うーむ」東郷は、考え込む。これは、新参勇者様よりの、勇者系譜への、挑戦状でもある。つまり。
「武良様、其処まで勇者系譜を、挑発されますと……タイ・クォーン教会自体が、狙われます」東郷は、眈々と結論を述べる。
にっこり
武良勇者様は、満面の笑みを浮かべる。
「面白いね」
ぞく、ぞくっ!
此の世で一番、怖ーい、良い笑顔かもしれない。
東郷は、背筋を走った、強い悪寒と共に、思う。
勇者系譜に、この笑顔に勝てる要素が、まったく無い。
「おぉ。そうそう。本題は、強化服だよね」武良様が、テーブルを振り返り、かぶせていた布を取る。そこには3つのベルトが、綺麗に並んでいる。
……綺麗すぎないかしら?
光子は一見で、そう感じた。
ひいじいちゃんから、手渡された時点で、かなり草臥れた、くすんだ地金だったはず。
見れば、地金は、新品の様だ。
「実は3つとも、筐体地金内部に、細かなヒビが網羅してたんだ。程無く割れそうなんだ。ので、ヒビを修復させてもらったら、見掛けが新品レベルに成っちゃったんだ」と、申し訳成さそうに言う。
武良様は、光子の思考を読めるのかしらん?(苦笑)。
「いいえ。感謝します♪」光子は、微笑む。だって、此れからも使い続けたいから。
「よかった♪で、二つ程、確認したい事があるんだ」武良は東郷と光子と風牙に、問う。
「一つ目は、強化服の制御プログラム言語の件、何だけど。うーん、多分。修正を、何度も重ねる内に、余計なバグが蓄積されていまった様子で。強化服と装着者との、動きの同期が重く成って、反応が今少し悪く成ってる見たいなんだ」武良は東郷と光子に、解説する。
東郷と光子は、思い当たるので、深く頷く。
「確かに。特に強力な魔獣に対して、パワーを上げて行くと、一拍のズレを感じてました」東郷は頷く。
「私の親友が、制御プログラム言語の担当なのですが、『どのバグが、『動作の同期』の邪魔をして居るのか、突き止めるに時間が必要』と、ボヤいてました」光子も、苦笑いする。
「なら、その親友さんに僭越ながら悪いけど、制御プログラム言語を整理させて貰って良いかな?」武良も、苦笑いしながら提案する。
「「御願いします」」東郷と光子は、ためらわず要請する。其れは、里の利益にもなる。
「もう一つ。強化服の『運用』の仕方について、何だけど」武良は、二人を伺う。
「?何でしょう」東郷は、問う。
「二人とも。拳法の要領で『蹴り』と『正拳突き』を繰り出して居るよね。つまり、打撃が入るインパクトの一瞬前の『脚』と『拳』の筋肉は、一番弛緩して居るんだ。私はその状態の時を狙って、カウンター・パンチを叩き込んだんだ」武良は、やや申し訳成さそうに言う。
東郷と光子は愕然し、一瞬で真っ青に成る。
「いやいや!理屈はそうですが『行うは難し』ですよ!!」東郷は、思わず叫ぶ。
「申し訳無い。実は、私の師匠の『得意技』の一つなんだ」武良は、恐縮しながら言う。
東郷と光子は、その技?を受けて敗れた側なので、何にも言えない。
「それで、二つの提案があるんだけど」うなだれた二人を、促す。
「「は、はい」」二人の声は、小さい。
「一つは、『蹴り』や『突き』を、技の起こりから打突まで、相手に読まれない様に、コンパクトに纏めるんだ」
東郷と光子の瞳に、光が灯る。
「もう一つは、制御プログラムに、防御プログラムを組み込む」武良は、二人の瞳を、見返す。
東郷と光子の瞳の光が、強く成る。
ふと東郷は、気が付く。
「……武良様。何故『敵に塩』を?」
「そうだね。勇者系譜の方々に、メリットとデメリットを理解して貰いたいからね」
「メリットとデメリット?」光子の頭上に、再度?マークが出る。
「笹木武良様に味方するか、敵対するか……ですね」東郷は、確信して言う。
「そうだ」武良は、にこりと頷く。
「何故そんなに、白黒はっきり付け様と?」東郷は、問う。
「何故? では『そもそも論』を言えば、我々『勇者が召喚された理由』は、そもそも何だい?」
「……『魔王を倒す』……為でしたね」東郷の声は、小さくなる。
「そうだ……私と、勇者系譜との目的は、同じ『魔王』のはずだ」
「「……」」
「もう、勇者系譜どうしの諍いを納め、合同で魔王に敵対すべきだ……と言う方針を、私は強く打ち出す。それが、最終的に庶民の為に成る」
「「……」」
「言い方が悪いが、勇者系譜どうしの力が拮抗して居て、まとめられ無かったと思う。今回、私は、勇者系譜を取りまとめる」
「「……」」
「そして『召喚と言う拉致』を、やめさせたい」
東郷と光子は、はっと、驚く。召喚と言う拉致!?
「そして、この世も『明日の約束を、叶えられる世界』に、したいなぁ。そう成れば……」
「そう成れば……?」東郷は、鸚鵡返しする。
武良は、ふっと微笑み、押し黙る。
「成る程。『明日の約束を、果たせる世界』ですか」ワードマンが、感心した様に言う。
「『召喚が拉致』……確かに、その発想までは、有りませんでしたは」神官長セルガも、うんうんと、感心する。
「……では、強化服を受け取って貰おうかな」武良は、『さんにん』を促す。
「え?あれ?その、制御プログラム言語の更新は?……」光子は、思わずつぶやく。
『恐縮ですガ、御歓談中ニ、作業を終了致しましタ』隼は、音声で報告する。
「「え!?今の声は、誰が?!何処から!?」」東郷と光子と、風牙まで、辺りを見回す。
「あぁ。あー……私の、『姿無き、使い魔』だよ。諸々を記録し、諸々の現象の分析を、手助けをしてくれろんだ。諸々のプログラム言語も処理してくれる」前にも、おんなじ様な説明したなぁ。と、苦笑する。
「……はぁ。本当に『何でもアリ』何ですね……私の親友なら『使い魔』の彼?を、喉から手が出る程欲しがりますよ」光子は、半分呆れながら、感心する。
「ふむ。そこもメリットとして『売り』に成るか……」武良は、本気で検討する。
東郷と光子は、笹木武良勇者の、その『気さく』で『自由な発想』にも、些か空恐ろしくなる。
勇者としての、かなり強くて高いレベルを、何処かの『大将軍』の様な『戦略眼』と『戦術』で、融通無碍に駆使されてしまったら。
なんでも『出来る』、じゃん。
こんな男性は、生まれて初めてだ……里の『海千山千』な長老でも、敵わないだろうなぁ。
「あ。ごめん。では、受け取って貰えるかな」武良は、再度『さんにん』を促す。
「「はい」」東郷と光子は、素直にテーブルに進み、ベルトを取る。
「どうぞ、装着して見て」武良は、朗らかに言う。
「「え!?」」東郷と光子は驚き、戸惑う。其れは、敵陣の真ん中で、自分の武器を取れと言う事だ……我らがここで暴れたら、どうするんだ?
「あ、あの。セルガ様の前で『我らの武器』を、起動させるのは……」東郷は、気が引けて、戸惑いながら言う。
「あぁ。大丈夫だよ」武良はまた、にっこり笑う。
東郷と光子は、その笑顔に、思い出す。そうだよ。この人は、我々を一撃したんだよね……今更、我々が暴れても。
カシュン
光子は、ひいじいちゃんから以前聞いた『御釈迦様の手の平の上』に乗ってる『気分』て、こんなんかしら?、と思いながら、ベルトを腰に装着する。
「「変身」」
ピキュルーン
一瞬で、二人は強化服に、包まれる。
うわ!起動早い!!
「すごい……何て、一体感だろう!!」東郷が、独り呟く。
光子も、東郷の独り言に、うんうんと頷く。
「よし!『破魔』を、一発贈れ♪」武良は二人に、両手手の平を向ける。
「「え!?」」
「実は、私はこの後、予定有るんだ。さぁ、早く♪」
「で、では、私から」光子は、両手をファイティング・ポーズに構える。
「行きます!」光子は、両手に魔力を込める。
ブワッ
「きゃっ!?」
軽く集中しただけなのに、以前の三倍は、魔力が高い!
光子は思わず、燃え盛る、自分の両手を見詰めてしまう。
「よし来い!」武良は、促す。
「はいっ!」光子は、武良の右手の平を狙い、破魔・右ストレートを繰り出す。先程指摘された様に、コンパクトに。
ズドン
「よし!」破魔の魔力は、あっさり、武良の右手の平に吸収される。
『良いですネ。右ストレートの動きト、魔力が完全同期してまス♪』隼が、楽しそうな口調で報告する。
「東郷。右上段蹴りだ!」
「はいっ!!」東郷は、右脚に魔力を込める。
ブワッ
右足首下が、強く燃える。
「行きますっ!」
東郷も、コンパクトに、武良の左こめかみを狙う。
ズバンっ!
武良が顔の目の前まで上げた、左手の平に、東郷の右上段蹴りが入る。
『東郷様も、完全同期されていまス♪』
「よし……後は、風牙だが……二人に任せるよ♪」武良は、苦笑する。流石に人狼化した風牙には、この部屋は狭い。
パシュ
二人は、マスクのシールドを開く。
「承りました」光子は、にこにこ微笑む。
「ありがとうございます」東郷も、にこやかに一礼する。
「あ。そうだ。東郷」武良は、彼を見る。
「はい」東郷は、反応する。
「変身後に、何で『示現流』を使わないのかな?」
東郷は、一瞬で紅く成る。
「……あれ。君の地雷を、踏んだらゴメン」武良は、申し訳成さそうになる。
「いえ。私の不徳何ですが……刀に『魔刀』を起こす事が、不得意なのです」彼は、少し、うなだれる。
「で、光子さんは?」
「私は、六尺棒を扱いますが、実践では今一つ何です」光子も、渋い表情に成る。
「ふむ。それも、対応出来ると思う。プログラム的対応と、後日少し、指南をさせて頂こうかな」
「「えぇっ!!」」二人は、目をむく。
「な、何故そこまで、して頂けるのですか?」東郷は、余りの大盤振る舞いに、うろたえる。
「我々はもう、殺気と拳を交えた『拳友』だろう?御互い隠す腹は、もう無いさ」武良勇者様は、にっこり笑う。
確かに。武良勇者様には、殺気どころか、気を許してしまって居る。
「……貴方は、面白い方だ」東郷は、脱力して、苦笑いする。
「……全く同感です。面白い方だは」光子も、にっこり微笑む。
「それは光栄かな?(苦笑) では、納品完了だね。じゃあ、ワードマンさん。セルガさん。『神殿の聖魔核』に、向かいましょうか♪」
「「はい♪」」ワードマンとセルガの答えが、ハモる。
「神殿の聖魔核?」東郷が、疑問を呈する。
「そうですは♪武良勇者様には、教会の聖魔核も、調整頂くのですは♪」セルガは、にこやかに答える。
東郷は、またも、引っ叩かれた様に、気が付く。
「神殿防衛力の、強化ですか?!」
「うん。君達の強化服見たいにね……勇者系譜で攻め込む時は、心しておいで♪」武良勇者様は、やっぱり、あの『満面の笑み』をする。
うわー。冗談で済まない、話だぞ……本気で戦いに成っても『この人』は、『面白い!♪』と対戦して来そうだし!!……もう『気心知れた友人』との闘いは、嫌だなぁ。東郷は、胸の内で、ボヤく。
◯ ◯ ◯
「『明日の約束を、果たせる世界』かぁ……デカい話だ……しかし、武良勇者様が宣うと、アッサリ実現させそうで怖いな」スポッターのハリーが、新品に成った、強化服のベルトを眺めながら、苦笑する。
定番に成った、教会救護院の広い食堂の片隅で、現世トップクラスの刺客達が、膝詰めで話して居る。
もう拘束は、解除されて居るのだが、それぞれの里からの返事が無いから、動けない。
返事も無いのに、のこのこ里に戻れば、里仲間から殺意を向けられかねない。
だから、東郷と光子から、もたらされたビッグ・ニュースも、里に届けられない。
「もう、お手上げ!どうすりゃ良いのよ!!」キャシーが、イライラと憤慨する。
「……武良様に、相談するしかないな。彼なら『ゲーム板を取り替える』奇策を、編み出してくれるよ」東郷は、微笑む。
「何よ。ずいぶん武良様を、信頼して居るじゃない」キャシーが、意地悪く、からかう。
「我々とは、視点が違い過ぎるもの」光子が、当たり前の事の様に言う。
「光子!、貴女までも!!勇者様に屈したの!!」キャシーは、驚く。
わうん♪
風牙は、東郷と光子を肯定する様なタイミングで、可愛く吠える。
「……フウガ。あんた迄、武良様のファンなのね」キャシーは、力無く苦笑する。
「こっちにも情報が、さっき入った」スポッターのハリーが、言う。
「あぁ。さっき、食堂のオバちゃんと話し込んで居たな」スナイパーのラルフが、まぜっかえす。
「笑え無い話が、加わるだけだ」ハリーは、疲れた口調で、返す。
「ふぅん。何かしら?」キャシーが、問う。
「先日、聖湖方面から、大型魔人が教会障壁に突っ込んで来たそうだ」ハリーは、面倒臭そうに言う。
「「「「えっ!!」」」」ハリー以外は、驚愕する。
「で、でも。教会真横の救護院には、衝撃も騒音も、何も無かったぜ!」ラルフが、わめく。
「それだけ、この救護院に掛けられた、『防音防振魔法』が上級なんだが・・・」ハリーは、どんどん疲れて行く様だ。
「それで、大型魔人は、どうしたんだ?この救護院は無視して、教会神殿へ攻撃したのか?」東郷は、問う。
「いや。魔人は、攻撃開始も出来なかった」ハリーは能面の様に、無表情だ。
「出来なかった?何で?大型魔人なら、城塞大都市壊滅レベルでしょ」キャシーは、呟く。
「……!まさか!!」光子は、閃いた懸念を呟く。
「武良勇者様の放った『青い光の聖剣』が、中空に浮かぶ大型魔人へ飛び、魔人を『一撃・一瞬』で、消し去ったそうだ」ハリーは、語り終えると、テーブルにぐったり倒れ伏す。
「「「「えっ!げっ!!」」」」
「大型魔人を、一撃!?」東郷は、改めて驚く。
「どんだけの、魔力レベルなんだよ」ラルフは、ボヤく。
「やっぱりね……『真の勇者』確定じゃない」キャシーが苦笑し、代表で述べる。
「『真の勇者』様に、殺意を向けちまったのか……」東郷は、苦虫を噛んでしまった、表情に成る。
「げげっ……あ。でも一切不問だから、俺らは無罪か。って、俺らに発注したのは……タイ公爵だろ?」ラルフは、誰の責任か気にする。
「タイ公爵と、勇者管理局長ハナマサだろなぁ」ハリーは、断定する。
「タキタルは?」ラルフは、問う。
「したたかな歴戦の傭兵が、そんなヘマし無いさ。公爵とハナマサの命令書とか、責任回避の証拠を握ってるよ」ハリーは、やはり断定する。
「……武良様は一切不問だろうけど、発注者の『社会的責任』は問われるだろうなぁ」東郷は、悟った様に述べる。
「フン。ドスケベ公爵なんてどうでも良いは。くそハナマサもよ。私が勇者系譜で無かったら、二人にベッドに連れ込まれてたは」キャシーは、苦々しく暴露する。
「小心者達は、自分達が仕出かした事に、ガタガタ怯えて居るさ。このまま、消え去れば良いのさ」珍しく、マイクが、意見を述べる。
御読み頂き、ありがとうございます。
次話が(今一つ)まとまらないので、1月10日(日)に更新させて頂きます。
申し訳ありません。
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