1-18.カムランの憂鬱と、タムの洞察
はい?
新年?
今日がですか?
あぁ。そう言えば、勇者様や勇者系譜の方々が、それぞれの御里で『はぴ、にゅいや!』とか、『きんだー、ちんねん』とか、『がしょ!』とか叫んで、盛り上がられてる見たいですね。
赤い帽子に、赤い服を着て、大きな白い袋を担いでる方も、拝見しましたね。
申し訳ありません。異世界の風習には疎いので。
この世界では、収穫祭の終わりが、一年の締めくくりなのです。
その日は、若人が、死ぬ程飯を喰わされます。
吐いた方が、負けです。
おはようございます。
はじめまして。
タイ・クォーン教会・衛兵隊一兵卒のタムと申します。
衛兵隊に成れて、もうすぐ2年に成ります。
切っ掛けは、飼って居た愛犬が、魔犬に成ってしまいまして。
妹のラムが、可愛がっていた犬なので、愛犬の様子がおかしくても、近寄ってしまいました。
そこに、魔犬が、妹の左膝上から脚にガブリと噛り取り、持って行きました。
あっと言う間でした。
たまたま、私は剣の手入れで、右手に長剣を持っていまして。
妹の左脚を咥えたままの、魔犬の喉に、長剣を差し込みました。
すぐさま妹の脚を止血し、外科医に処置して貰いました。
……なんとか一命は、取り留めました。
妹は、義足と杖を付ければ、歩けるはずです。が、外に出なく成りました。
私は、『魔犬を退治した』実績を認められ、給与の良い教会衛兵隊に入れましたが、『妹の脚の御蔭』で、衛兵隊に入れた様で、気不味いです。
武良勇者様が、妹に会いたいと仰られてましたが、何か勇者様の世界の、進んだ医療を施していただけるのでしょうか。
もう一度、妹の笑顔を取り戻せたら……
「あ~腹減った」
同室のカムランが、倒れ伏した自分のベッドから、くたびれた声で言う。
「本当だな。今日の献立は、何かな?」
確かに腹減った……今日は激戦だったが、戦闘よりも、勇者様の桁外れのパワーに心身ともに圧倒されて疲れた。御本人は気さくな御方なのだが。
勇者様の日常魔法で、隅々まで綺麗に成った鎧兜を自分の鎧櫃に納め、部屋着に着替える。
「おい、カムラン。行くぞ」
まだ、倒れ伏したままのカムランを促す。
カムランは渋々起き上がり、放り出した鎧兜はそのままに、部屋着に着替える。
「なぁ、タム」カムランが、妙に神妙な表情で声を掛けて来る。
「おう?何だ?」
「あの、やたらすげぇ魔核を持った時、どんな感じだったか?」
あぁ。勇者様が片手間で倒ちゃった、大型魔人の魔核の事か。
「うーん。『やたら、重い』としか感じ無かったよ。兎に角『落としてはいけない』に、集中してたからな」
「んー。そう言う事じゃない……最近の魔族の魔力が、やたら増してる事だ」
「あぁ。それは、重々実感してるよ」
「ならば……俺らは、生き残れるかな?」
「……まぁな」ふと。勇者様の笑顔が、脳裏に浮かんだ。
「俺は、今日の戦闘で……この商売を続けられるのか?と、感じちまった」カムランは俯き、表情は歪む。
「……俺はな」勇者様の笑顔を、思い浮かべながら言う。
「うん?」
「勇者様が、何とかしてくれそうな気がする」
「は?」
「勇者様の『飛び出す武具』を見たろ」
「おぉ」
「『同じ武具』とは言わないが、俺らも、ワードマン様の様に強化して頂けるかもしれない」
「……なんで?」
「勇者様も、我々が『魔獣一匹に四苦八苦』して居るのを見たからさ」
「ふむ。で?」
「俺が、勇者様なら『戦力の底上げ』を、考えるだろう。その位、魔族と俺らの戦闘力の差が、開いて居たからさ」
「ふぅん。そうして下さるかな」
「下さると思う」
「何で?」
「勇者様は……今日は、俺達を『観察』された居た様に思う」
「うん?どう言う事だ?」
「おや?と思ったのは、物見騎兵が魔獣と鉢合わせた時だ」
「おぉ。凄い遠投だったな」
「勇者様は、魔獣と鉢合わせる事を、御存知だったかも知れ無い」
「え?!」
「どうも鉢合わせの一泊前に、投げる準備をされて居たとしか、思えない。また、その後の魔獣戦でも、顔色一つ変えず、冷静に我々の戦闘能力を、吟味されて居られた様に感じる」
「ふーん」
ぐぐぅ
廊下に、二人の腹の虫がハモる。
俺とカムランは、苦笑いで目を合わせる。
「今の俺の感想は、まだ此処だけの話にして来れ。先ずは腹拵えだな」
「そうだな」しかしカムランは、俺の話に幾らか期待を持った様だ。
がははははは!
うわははははは♪
上手い!!
?食堂入口に近付くと、随分盛り上がって居る喧騒が聞こえる。
「随分盛況だなぁ」カムランは、明るい雰囲気に釣られて微笑む。
「本当だな。祭りでも無いのに」タムも、微笑む。
普段、俺ら兵卒は、戦いの備えに案外忙しい。食堂は、ただ飯を掻き込む場でしか無い。
少しの期待の微笑みながら、食堂の扉を開ける。
「おぅ!タム!カムラン!遅いぞ!」
「おまいら分も、呑み干しちまうぞ!!」
ぷぅん
「これは!」「おぉ!」
俺とタムの鼻は、上質で爽やかな酒の香りにくすぐられる。
「おぃ!ぐずぐずせずに、ジョッキを持て!そして、並べ!」
俺らは促される侭に、大ジョッキを持たされ、列に並ぶ。
「はーい♪此方にもどうぞ御並び下さ~い♪」朗らかな若い女性の声に、驚く!
気が付けば食堂の奥の壁に、巨大な銀色の樽?が三体、並んで居る。
プシュー
「はーい♪お代わりどうぞー♪」
それぞれの樽の隣に、黒髪・黒目の美人が立って居る。勇者様の御国の女性か?スッキリした異国衣装で女性の身体のラインを艶めかしく際立たせ、中々魅惑的だ。次々に差し出されたジョッキに、タンクから伸びて来ている管で、回転良く給仕して居る。
タムも倣い、ジョッキを差し出す。
「はーい♪お疲れ様です♪」
あら♪イケメンさんね♪異国美女はタムに微笑みながら、しゅわしゅわ泡立つ酒を次ぐ。
プシュー
どう言う仕組みなのかわからない、ジョッキは素早く良い香りのおそらく酒で、満たされる。
「皆んなジョッキを満たしたな。よし!もう一度乾杯行くぞ!!勇者様に!!!」
「「「「おぉ!勇者様に!」」」」
ごきゅ!ごきゅ!ごきゅ!ごきゅ!
「「「「ぷはー!」」」」
「「「「うまい!」」」」
「この喉越しは、イイな♪」
「爽やかな味も、イイぞ♪」
「この美味い酒と、美女は……勇者様様からかい?」タムが微笑みながら、乾杯音頭を取ったヘイガーに問う。
「おぉ、そうだ♪。勇者様の御国の酒で、ビールと言うそうだ。美女は……酌取り専門だそうだから、手を出すなよ」
「手を出されたら、どうするんだ?」
「あー『あの勇者様』に、釈明する覚悟が有るなら、俺は知らん」
皆の脳裏に、勇者様の朗らかな笑顔が浮かぶ。
が。皆、一瞬表情が真顔になる。そりゃあね。アレだけの実力を示されちゃぁ、『気後れ』して仕舞う。
「まぁ兎に角、今はこの旨いビールとやらを、楽しもう!」
「「「「お、オゥッ!」」」」
ごきゅ、ごきゅ、ごきゅ。
「「「「ぷはー♪」」」」
「しかし今度の勇者様は、兵卒の事を良く解ってらっしゃるな」
「うはははは♪しかり。戦いの後は、旨い酒と美女か」
「なぁ、タム」急にカムランが、声を顰めて話し掛けてくる。
「何だ?」
「さっき御前が話してた事だが」
「お。あぁ」
「俺も、そんな気がして来た」
タムとカムランは、にっこり微笑み合う。
「此方の軽食も、どうぞー♪」もう一人の異国美女が、厨房から大きなトレイを両手に持ち、出て来る。
トレイには、パンの間に何やら挟んだものが、山盛り乗って居る。
「これは、何ですか?」出て来た所に居合わせたタムが、問う。
「ハンバーガー、と言う軽食です♪。そのままかぶり付いて見て♪」
美女の説明に促されるまま、空いて居た手で、一つ取り上げる。
鼻が近付くと、ぷぅん、と旨い油の香りがして来る。
タムの口の中は、期待に唾液が溢れ出す。
がぶり。大きくかぶり付く。
「ん!旨い!!」タムのクールな美男子顔が、笑顔に輝く。
ハンバーガーを勧めてくれた美女は、タムの笑顔に赤くなる。
がタムの歓喜に、わっと集まった衛兵達に、囲まれる。
トレイの上は即、空になる。
「はいはーい♪此方にも有りますよー♪」違う美女が、大きなトレイに山盛りのハンバーガーを出して来る。
そちらにも、まだハンバーガーを手にして居ない衛兵が集まる。
「うーん。パンズと肉と野菜の味わいが絡み合って、旨い!」
「へぇ。こんな食い方も有るんだな」
「本当だな」ごきゅ「ぷはー♪おい、このビールに合うぞ♪」
がぶり。ごきゅ。「本当だ!」
謹賀新年
賀正
あけましておめでとうございます
御読み頂き、ありがとうございます
仕事場のビルが、元旦は丸ごと休みなので、自動的に元旦は休みです♪
寝正月真っ最中です
ので、明日も、投稿させて頂きます
本年も、宜しく御願い致します




