1-17.初魔人
「あのね。すっごいの」
「いやぁ。凄かった」
「一瞬でした。びっくりしました。」
「すごく、安心しました」
「突然始まって、突然終わりました」
「……凄いです。希望が……湧いて来ました」
程なく、神殿城壁内へ戻って来た。
「よし、一度解散して、各々の装備を整備して貰う用に。御苦労だった!」コレド隊長が、笑顔で解散を命ずる。
「「「「御疲れ様です!」」」」
「ちょっと、宜しいですか?」武良は、一歩前に出る。
解散しようとした皆は、キチンと足を止め、勇者様を伺う。
「すぐ終わります。浄化!」昨日、ワードマンさんから指導を受けた『日常生活魔法』を、使って見る。
ふぁさっ
「「「「うわっ」」」」
何か心地良い風?に、全員の身体や着衣や装備が包まれる。
「お?」
「おぉ?」
「……おい、身体がヤケに、サッパリして居るぞ」
「おい!鎧や着衣の汚れが、無くなってる!」
「あれっ!?槍の歪みが、直ってる」
「おい!鎧の凹みも、直ってる」
「まさか……新品に?」
「……あれ?前から痛かった、膝や腰の痛みがないぞ!」
「ささやかですが、洗浄魔法と治癒魔法と再生魔法を使わせて頂きました。今日は、お疲れ様でした。ゆっくり、休んで下さい」武良は微笑みながら、礼を言う。
「勇者様へ、感謝!」コレド隊長が、笑顔で号令する。
「「「「ありがとうございました♪」」」」
全員ピシリと、武良へ敬礼する。
武良も、返礼する。
「解散!」コレド隊長が、その場を締める。
「うわぁ、すげぇな」
「本当だな。日常魔法とは言え、全員分掛けて下さるなんて」
「すごいなぁ、身体が軽いよ」
感嘆のつぶやきをしながら、皆は三三五五に、宿舎へ向かい歩き出す。
コレド隊長と武良は、お互いに軽く頭を下げながら、神殿を指差して居る。
ドゴーン!
突然来た。
地面が、揺れる。
「「「「うわ!」」」」
「なんだ?」
ドゴーン!
また来た!
神殿聖シールドニ、強力な魔力が激しく激突して来ましタ!神殿コア、出力増加しまス!
「あそこだ!」
一人の兵士が、聖湖の方を指差す。
そこそこ巨大な魔族?が、聖湖の中央上空に浮いて居る。
ドゴーン!
また、地面が揺れる。
その魔族は、神殿に向かって突き進もうとして居る。
「あれは……巨大魔人です!……都市をも壊滅させる程の!」女性神官が、簡易審神で断定する。
ドガランッ!! ドガランッ!! ドガランッ!! ドガランッ!! ドガランッ!!
一番背の高い鐘楼塔から、鐘が割れんばかりに、鳴り響く。
◯ ◯ ◯
タイ・クォーン教会・救護院の、ガランと広い食堂の隅っこに、武良勇者に敗れた刺客達が、拘束とは思えない拘束で、暇を持て余していた。
ふぅふぅ
ゴクリ
「うまい茶だー♪ しかし此処は、静かだなぁ。教会だからか?」スナイパーのラルフが、つぶやく。
「此処は救護院の建物だから、入院患者の為に、上級の防音防振魔法が掛けられてるそうだ」いつの間にやら情報を仕入れた、スポッターのハリーが 、御披露目する。
「どちらにしろ、暇って事には変わらないのわよね、って、私達は如何なるのかしらねー」顔まで覆って居た迷彩覆面を脱ぎ、背中までの赤い長い髪を下ろした、実は、赤毛灰眼色白巨乳美女のキャシーはボヤく。
「さあなぁ。その内に勇者様から、御達しが有るんじゃ無いかな」東郷は、気の抜けた渋い顔の眉を、すくめる。
◯ ◯ ◯
「こんなにも良い天気なのに、魔族襲来警報だと?」タイ公爵は、慌てて、公爵亭の窓から、外を見る。
◯ ◯ ◯
タイ・クォーン公都に所在する者は、(救護院内に所在する者以外)全員が教会の方向を伺う。
ドゴーン!
また、地面が揺れる。
「あんなにデカい、魔族なのか!!」
「あれは、『巨大魔人』じゃぁ無いか?都市壊滅クラスでは?」
「おいおい!こんなに真っ昼間から、襲来かよ!」
『がっはっはっは! 新たな勇者様とやらは何処だ!クソ尊顔を、拝みに来てやったぞ!』
魔人の銅鑼声は、拡声魔法も混ぜて居るのか、公都全体に響き渡る。
ドゴーン!
また、地面が揺れる。
「え!?新たな勇者様が、召喚されてたのかい?」
「あんなにデカい魔人は、俺は初めてだ……新参の勇者様は、大丈夫か?」
「都市防衛機能は、効いてるね。取り敢えず、街は安全そうだが……守護天使様も、いらっしゃるはずだから、大丈夫だと思うけど……」
公都民の、怯えるささやきが、止まらない。
◯ ◯ ◯
「城塞砲準備急げ!!聖湖に火線を結べば、街に被害は出ない!!」
公爵亭で、武良勇者様から頼まれた手配を終え、茶を一服して居たタキタル衛兵隊長は、魔人襲来警報の鐘を聞くなり窓から魔人の位置を一瞥するなり、公爵亭内に発令する。
「「「はっ!」」」
命ぜられた公爵亭の衛兵達は、遅延無く動き出す。昨今では、公爵からの命令より、迅速に動く。
◯ ◯ ◯
大型魔人が、障壁と激突して居る真下に、絶景の聖湖を一望出来る、教会の結婚式場がある。
正に今から結婚式を取り行おうと言う、二家族の親類縁者が集って居た。
真上に、巨大魔族の足裏が見える。
ドゴーン!
また、地面が揺れる。
全員が、魔族の迫力の恐怖に竦み、棒立ちだ。
「これから、キムタが嫁を貰う最良の時だと言うのに、人生最後を迎えるなんて……」礼服に着飾った、中年に入ったばかりの美熟女が、小さな幼女を抱えながら、嘆く。
「ねぇ。おばあちゃま。あれが『まじん』なの? すごくおっきいのね!!」幼女は、素直に聞く。
「そうだよ。3年前に、セセタの村が一晩で無くなってしまったのよ。おんなじ魔人だは!」その声は、恐怖に震える。
「でも、でもでも、『ゆうしゃさま』が、いるのでしょ? たいじして、下さるのでしょ?」幼女の声に、期待が乗る。
「そう見たいだけど、あんなに大きな魔人なんて……御一人じゃ、無理よ」孫を抱きしめながら、強い恐怖と絶望に、顔を青くする。
◯ ◯ ◯
「……すいません。魔人て、あんなに尊大なのですか?」武良は、簡易審神をした、若い女性神官に聞いて見た。
「こ、これは勇者様……はい。魔族は、欲望の塊です。顕示欲も誇大です」女性神官は、武良からの直問に、少し頬を赤らめる。
ドゴーン!
また、揺れる。
「おぃ!教会城塞砲の準備はどうした!!火線を聖湖に結べば、街に被害は出ない!!皆動け!!いそげ!!迎撃の配置に付け!!」コレド隊長が叫ぶ。
「「「「「は、はいっ!!」」」」」
衛兵隊達は我に返り、慌てて走り出す。
『早く、出て来いや!元の世界に尻尾を巻いて戻るなら、見逃してやらんでもないわ!がっはっは!』
ドゴーン!
また、揺れる。
「……はた迷惑な」武良は、苦笑する。このままだと、神殿核も痛むよね。
「そうですね♪」中々可愛い女性神官は、武良の落ち着きにはげまされ、自分も落ち着く。そして、期待の眼差しを、武良に向ける。
「美女の期待には、答えないとねぇ」武良は、苦笑いする。
そのまま、右手をすっと上げる。
きらり
もう、青く輝く光の双刃剣が、その手にあった。
「綺麗……」若い女性神官はうっとりと、その暖かい聖なる光を、見入ってしまう。
ドゴーン!
また、揺れる。
「行け」
ふっ。と、光の双刃剣は、消える。
次の瞬間巨大魔人の目の前で、光の双刃剣は、青く強く輝いて居る。
青く、爽やかで、強い輝きは、公都に所在する者全員の目に止まる。
◯ ◯ ◯
「むぅ?あの輝きは『聖剣』か!笹木武良勇者の、『聖剣』か?!」タイ公爵は、つぶやく。
◯ ◯ ◯
「おう!武良勇者様の『聖剣』か!こんなにも強い輝きは……初めてだ」
ぶるっ
タキタルは、昨日の武良勇者様の『凄まじい殺気』を思い出し、一つ震える。
◯ ◯ ◯
「おう?! あの青い光は、新参の勇者様の武器かい?」
「新たに御出でになられた勇者様の『聖剣』だね!凄い綺麗な、輝きだねぇ♪」
「へぇ。あんなに力強い輝きなら、あの魔人を一撃しちゃうんじゃないかい♪」
「まさか」
公都民の『期待』の、ささやきも止まらない。
◯ ◯ ◯
「おばあちゃま♪すっごーい、キレイよ♪」真上に現れた、強く・優しい青い輝きに、幼女は微笑む。
「本当だねぇ。なんて御優しい光……」美熟女の恐怖は、少し和らぐ。
◯ ◯ ◯
『ふははははは!こんな小剣で、我を倒すと言うのか?片腹痛いは!!』
ズドンッ!
『ぐはっ!』
光の双刃剣は、呆気なく巨大魔人の鳩尾に突き刺さる!
キカッ!
魔人の鳩尾を中心に、巨大な体躯をも包み込む、巨大な光の竜巻が起こる。
『ぐああぁあぁぁ!まさか!これ程までの……』
ふぁさっ。
もう、魔人の巨体は、跡形無く消える。
そして、聖湖水面の真ん中から、天まで届く聖柱が、青く優しい輝きを煌めかせながら、建って居る。
◯ ◯ ◯
「…………城塞都市を壊滅出来る、大型魔人を、一撃?」女性神官は、あまりの驚愕に、大きな両目を何度もパチクリさせ、その聖柱を某然と見つめて居る。
それは公都に所在し、強い青い『聖なる光』が、魔人を一撃で撃退した事実を目撃した者達全員の代弁である。
◯ ◯ ◯
「……おばあちゃま。あんなにおっきな『まじん』が……きえちゃった……」幼女は、素直に驚く。
「……す、凄い……」美熟女の胸から、恐怖が消えて行く。そして、目の前の御柱の優しい青い輝きに、心が癒されて行く。
「おばあちゃま♪ こんどの『ゆうしゃさま』って、ほっんとーうぅに、おつよいのね♪」幼女の瞳は、きらきら輝く。
「そ、そうね!今度の勇者様って、『本当に強い』んだね」余りの安堵に、ポロリと涙がこぼれる。同時に、強い『希望』が、湧いて来る。
◯ ◯ ◯
「な、なんだと……一撃だと!?と言うことは!」タイ公爵の全身は、ガタガタ震え出す。
そんな勇者様に、刺客を送り込んで仕舞ったのか!
◯ ◯ ◯
「………」
タキタルは、事実を強く受け止める。そして『希望』が、更に強く成る。
◯ ◯ ◯
うおおおおおおおおおおおおぉお!!!
余りの恐怖に言葉を失っていた公都が、危険が去り、我に帰った公都民の一斉の歓喜で包まれ、揺れる。
「すごい」
「凄い」
「今度の勇者様って……凄い」
「凄い」
「一撃、なんて!凄い!!」
余りの歓喜に、皆『凄い』しか、言えない。
「御名前は?!」
「そうだ!新たな勇者様の、御名前は?!」
「まだ御召喚されたばかりで、御披露目はされて無い見たいだぞ」
「教会に、問い合わせよう!」
公都民全員の胸に、強い『希望』が、湧いて来る。
◯ ◯ ◯
ドンドンドン!
公爵亭の公爵執務室のドアが、激しく叩かれる。
バタン!!
入室許可を待たずに、血相を変えた王都勇者管理局長のハナマサが、飛び込んで来る。
某然とする公爵に、迫る。
「タイ公爵っ!私は!即刻王に報告に戻りますっ!」ハナマサは、タイ公爵を睨む。
「そ、そうか」タイ公爵は、圧倒される。
ハナマサは、タイ公爵の両肩を、強く掴む!
「うわ!な、なんだ?!」
「良いですか!!笹木武良勇者様……いや、『真の勇者』であった笹木様に、もう、何もしないで下さい!!わかりましたか!!!これ以上、何かしたら……あの……あの巨大魔人の様に、我々の方が!文字通り、木っ端微塵に吹き飛ばされます!!わかりますかっ!!」ハナマサは、タイ公爵の両肩を、激しく、揺さぶりながら、詰め寄る。
「わかった!いや、同感だっ!ワシ『ごとき』に、『何も出来無い!』と、いま、痛感してたところだっ!!!」タイ公爵も、怒鳴る!!!
はーっ!はーっ!はーっ!
二人は大きく喘ぎながら、真っ青な顔で、暫く睨み合う。
「……っは……では、そ、そう言う事で、願います」ハナマサは、タイ公爵からゆっくり手を離し、気の抜け切った声を絞り出す。
「う……うむ。あい分かった……進言を、感謝する……王様に、よしなに頼む……いや、全面的に御任せ致したい」タイ公爵も、ヘロヘロに答える。
「はい……承りましが。で、では」ハナマサは、よろめきながら、退室して行く。
残されたタイ公爵は、足元がおぼつかなくなり、テーブルに手を着く。
テーブルの淵を手探りに辿り、やっとこさ特注の椅子に座り込む。
いや、公爵亭ごと、ずるずると地獄の底に落ち抜けてしまいそうな恐怖に、椅子の肘掛をありったけの力で掴む。
しかし、恐怖感は、取れ無い!!
『真の勇者』であった、笹木武良勇者様に、どう申し開きすれば良いのだ。
どうすれば、良いのだ。
肘掛を掴むタイ公爵の指から、爪が剥がれ、血が流れ始める。
◯ ◯ ◯
ひゅん
何かが、聖湖の方から飛んで来る。
がしっ
武良は、無造作につかむ。
それは、ちょっと大きいビーチボール大の、魔人の魔核だった。
「タム。御願いするよ」
「はっ!」タムが隊列から走って来て、恭しく、重そうに魔核を受け取り、そのまま神殿の方へ運んで行く。
「「「「………」」」」
皆そっと、歩みを止めて居た場から、武良を伺う。
大型魔族を、一撃って(滝汗;)なんて埒外な。
先程の大型魔獣達どころではない戦闘力だ。まるで大国の軍隊に、匹敵する戦闘力かも知れ無い。
一人なのに。
皆の眼差しは、勇者様の圧倒的なパワーへの尊敬なのか……はたまた畏怖なのか……
うおおおおおおおおおおおおぉお!!!
公都からの公都民の歓喜は、まだ聞えて来る。
武良は、何事も無かったかの様に微笑みを浮かべながら、自然体で立って居た。
◯ ◯ ◯
隼。どうだった?
マスタの仰る通りの数値でス。
うむー。ならば開祖シンと、セルガさんやワードマンさんにも集まって頂き、相談だな。引き続き、解決策も検討し続けてくれ。
承りましタ。
御読み頂き、ありがとうございます。
あれ?もう年末ですか。早いですね。
文豪に……いや「小説家になろう」に参加してから、もう一月。
楽しんで頂けてますか?
新年元旦も、投稿させて頂きます。
宜しく御願い致します。
では、良い御年を♪




