1-14.鳴かぬなら、殺してしまえ(2)
スナイパーの、ラルフす。
今日は、公休だったすよー
急に呼び出されて、仕事だってー
マジ、勘弁すよー
しかし、武良勇者様って……
あんなに、強いのに……
全然、威張って無いんすよね。
……しかも何で、あんな良い笑顔するですか……
……へっ
時を、少し前に遡る。
示現流の男は急に刀を収め、空手の様な構えを取る。
ピキュルーン!!
見ると男が剥き出しにした、妙に大きいベルトのバックルが光って居る。
今の音は、バックルの何かしらの機能の起動音って事かな。
バックルのど真ん中には……
風車!?
そう。ミニ風車が、クルクル回ってる。
……え、まさか。
示現流の男は、両手を自分の右側に揃えて伸ばす。
「変、身っ!」
示現流の男は掛け声と同期しながら、空手の型を演武する様、両手で大きい弧を描く。
示現流の男の全身は、紅く輝き出す。
オーラ。ア、こちらでは魔力でしたネ。示現流の彼の身体全体ニ、魔力が駆け巡っていまス。
これって、詰まり
「とうっ!!」示現流の男は、高く飛び上がる。
ピカッ!!
男の身体に紅い光が集約されて、あの『ライダー』っぽい衣装に変わる。
バックルの風車が高速回転しますト、魔力が高圧縮され、一瞬『擬似・物質転換炉』の働きに成る様でス。
ジャー・ヘッド系統の、オーラ転換炉に概念が似て居るな。ふむ、確かに変身の時だけ『転換』してくれれば良いのだし。よく出来てるね。
「ハマ・キィーック!!」
ハマ!?……ハマ……破魔か!
変身した示現流男の右足裏は、紅い焔を噴き出しながら、武良に迫る。
武良は、左拳に意識を集中する。左拳は青白く輝き出す。
示現流男の足裏の動きに同期させ、左拳を突き上げる。
ドガンッ!!
「うぁっ!!」示現流の変身男は、高く吹き飛ぶ。
しかし、変身男は中空で身を翻し、バランスを立て直して地面へ着陸体制を整える。
スタッ!!
「うお?!」
どさっ
無事に着陸出来たはずの男は、着地と共によろけて自分の右側に倒れて仕舞う。
男は即、上半身だけを起こし、自分の右脚を見る。
なんと、膝下は物の見事に変形し、足首は妙な方向に捻れて居る。膝や股関節も作動不良に陥ってる。
「ぐはっ」変身男は、糸が切れた様に、大の字に倒れ込む。
「トウゴウッ!」
バサッ!!
トウゴウと呼ばれた変形男の真後ろの森から、黒髪の若い女性が飛び出す。
ピキュルーン!!
「変身っ!」
女性は、紅い光に包まれる。
変身男と同系統のデザインの変身女が、姿勢の低くいファイティング・ポーズで武良に迫る。
「ハマ・パンチ!!」
変身女の、左右両拳から、焔が噴き出す。
そうか。こう言うパターンか。
武良は今度は右拳に意識を込め、変身女の右拳を狙う。
ドゴンッ!!!
「ウギャっ!」
変身女の右前腕が脆くも崩壊しながら、彼女は時計回りに激しく回転しながら、後ろの森へ吹き飛ばされる。
ガオオオォウ!!!
変身女が飛ばされた方向から、狼の咆哮が立ち、真っ白な毛並の巨大なライカン・スロープ(人狼)!?が飛び出して来る。
ガシッと、変身女を中空受け止め、変身男の横に素早く丁寧に降ろす。
ガオオオォウ!!!
改めて武良に向かい、真っ赤な口内を剥き出しに牙を出し、両手の鋭い爪を立て、咆哮する。
ピキュルーン!!
狼男の真っ白い毛並みは、紅く輝き出す。
え!?変身ベルト?
オッオゥ!変身男さん達よリ、数倍の魔力が圧縮されて行きまス!!
合わせ技かい?何でもアリか。しかし、この起動音は(今から変身します)と、敵にバレるよね。
こちらは剣が主流デスかラ、かまわ無いのでハ。
ドンッ!!!
ライカンスロープの巨躯が、消える。
いや、余りにも早いスピードで飛び上がったので、目が追いつかず消えた様に見えただけだ。
何だ。変身人狼に成らないんだ。
人狼さんハ、元から身体頑強でしょうかラ、強化服は必要無いかト。
成る程。
ドンッ!!!
武良も、消える。
「……消えたって事は」迷彩女性が、呆然とつぶやく。
「……フウガも、越えるかも知れんのか?!」無口な迷彩男も、思わずつぶやく。
其処に、スナイパーとスポッターの二人が近付いて来る。
「よう、マイク。あれ?新参勇者は?って、何でトウゴウとミツコが倒れてるんだよ?!」スナイパーが、呆然してつぶやく。
「まさか!新参者に?!」スポッターも、焦る声のを挙げる。
「ラルフっ!作戦中は名前を呼ぶなと言ってるだろ!!!」
はぁ
マイクと呼ばれた迷彩男は、怒りにボヤいた後、一つため息を吐いた。
「二人とも、あっさり一撃で撃退されたよ。今、強化フウガと戦闘中だ」
「強化フウガを出したのか?!」ラルフと呼ばれたスナイパーが叫ぶ。
「二人とも意識が飛んじゃったから、フウガも最終防衛体制に入っちゃったのよ」迷彩女は、言い訳っぽく話す。
「まぁ此処なら、森が無くなるだけだから大丈夫だろうが。トウゴウとミツコが動け無いなら、誰が強化……いや、暴走したフウガを止める?!」
スポッターは、眉をひそめて懸念を述べる。
「……守護天使様に、御願いしてみる?」迷彩女が、仕方が無さそうに言う。
『お呼びかな♪』
「「「「うわっ!!!」」」」
タイ・クォーン教会第一守護天使ワードマンが、全員の真後ろに顕現した。
「ななな、何で第一守護天使様が、顕現されるのですか!!!」普段冷静なスポッターの声のが裏返って叫ぶ。
『やぁ、ハリー♪ 勇者武良様に、呼ばれましてね』
「……だから、事前調査をしろって言ったのに!!!」迷彩女は、強い口調で、ボヤく。
勇者は、持つ魔力レベルに相当する天使を召喚出来る。
詰まり、タケヨシと言う新参勇者の魔力レベルは、第一守護天使に相当すると言う事だ。
ちなみに第一守護天使は、都市壊滅レベルの巨大魔人を、排除出来る。
都市壊滅巨大魔人を、どうにか出来ちゃうかもレベルの新参勇者を、数人の刺客では、どうにも成らない。
『キャシー、久しぶりですねぇ♪』
「こんな形では、お逢いしたくありませんよー」キャシーと呼ばれた全身迷彩女は、苦笑した声を出す。
「あ! フウガが暴走しちゃってます! 止めて頂けませんか!!」キャシーは慌てて、思い出した様にワードマンに訴える。
『あぁ……もう直ぐ、『疲れて、へばりそう』とのことです』
「へっ?」キャシーは、( 何を言ってるのです? )な、声を出す。
ドスン!!!
全員が音がした方へ視線を向けると、先程まで新参勇者が佇んで居た場所に、フウガの真っ白い巨躯が仰向けにへばっていた。その傍らには新参勇者が佇み、フウガの腹の変身ベルトを観察して居た。
不意に武良は右手を伸ばし、フウガの腹のベルトに触る。
ブブーン
ベルトから何か、低い音がした。
シュワ~
フウガから、淡い紅い光が抜けて行く。
フウガは、どんどん小さく成る。
淡い紅い光が消えると、其処には大型犬位の白い毛並が美しい狼が、横たわって居た。
武良は小さく成ったフウガにそっと屈み、もう一度優しい手付きで、ベルトに触る。
カシャ
鍵が外れた様な、音がした。
武良は、ゆっくりベルトを持ち上げる。
ベルトを丁寧に軽くたたみ、そっと芝生に置く。
改めてフウガに向き直り、フウガの全身を優しく、獣医の如く的確に触って行く。
「うん」
にこりと微笑み、フウガの身体の下に両手を差し込む。
中々重量が在りそうなフウガの身体が、軽々と浮き上がる。
ゆっくりと、変身男女の方へ歩み出す。
女性の右手側に、人ひとり座れる間隔を開けて、フウガを降ろす。
「腕の良いスナイパー君♪」
「は、へ?!お、俺?」スナイパーは自分しか居ないが、度肝を抜かれっ放しの相手から、いきなり声を掛けられて戸惑って仕舞う。
「いきなり頼んで申し訳ないが、狼君のベルトを狼君の顔の側に持って来て貰えないかな」武良はスナイパーに微笑み掛けながら、要請する。
「い、良いぜ」何故だろう、素直に要請が心に染みてくる。
ラルフは、素直にフウガのベルトの元に向かう。
武良は微笑みなながら一つうなづき、変身男の右手側からベルトに近付く。
男のベルトに、右手人差し指を当てる。
「……これは、ベルトの身体強化機能を働かせたまま、総大腿動脈を止血しないと。ベルト解除したら、大出血が始まる。瞬間に出血死だな」渋い表情に成る。
「え。でも、ベルトは外部からの魔法を防ぐと言って居たは。起動したままだと、治癒魔法は効かないわよ」全身迷彩のキャシーは、思わず助言する。
「ありがとう。だから、外科手術を行う」武良は、宣言する。
「え?!あなたDr.なの?!」
「あぁ。私の世界の医師免許を保持してる。では始める」
「へ?!此処で?!」
「そうだ」武良は、両手で無造作にひん曲がった膝下を掴むなり、グイと脚を伸ばす。
ピキ、パキパキ、ゴリ、グリグリ、ピキ。
一発で、股関節や大腿骨や膝関節や足首の多数の各種の骨折が、キチンと整復されたのが傍から見て居ても確認出来た。
( 腕利きだ !!)全員が、同時に感じた。この人に救われた負傷者は、後遺症も少なかったのではないか。
「隼、無菌包スプレーを」
『ハイ』
バイク・モードの隼が変身男の左側から近付き、カウルの一部が開く。其処から銀色のチューブが出て来て、チューブの先端が変身男の右股関節に向けられる。
プシュー!
白い泡が、みるみる右脚を包んで行く。
白い泡は、みるみる透き通ったプルンとしたゼリーの様な物質に変化する。負傷した脚全部が、スッポリ包まれる。
銀色チューブは、そのまま変身女の右腕も、泡で包み出す。
『ベルトの頭脳へのハッキング完了。擬似情報を走らせまス。完了。右股関節からノ、右脚強化服解除』
途端にゼリーの中で、黒地の強化服がホロホロと溶けて行く。
「よし、地肌を目視確認。総大腿動脈の出血部位の筋肉を切開し、直接血管を修復での止血に入る」
武良の人差し指・指先が、青白く極細に輝く。レーザー・メスか。
両手を透明なゼリーの中に、ズボリと突っ込む。
左手で右太腿を保持する。
迷い無く大腿部のやや内側を、縦方向に切開する。
切開部から透明なゼリー内部に、鮮血が火山の噴雲の様に、ブワッと勢い良く噴き出す。
武良は、平気で人差し指の根元まで、開口部に深く突っ込む。
そのまま、内部を探る……数秒で、噴き出す鮮血が止まる。
「よし、強い出血部の止血完了! スーツの防衛機能を停止。治癒魔法に切り替える」
武良は、ゼリーから手を抜く。
そそくさと、変身女の右腕側に回る。
「あぁ、衝撃が肩甲骨まで抜けちゃったか~」武良は、ほろ苦い表情に成る。
「彼女の身体を、15度反時計回りにしてくれ」
透明なゼリーは彼女の背後にも回り、キッチリ身体を15度持ち上がる。
迷い無く左手を肩甲骨に添え、右手で彼女の手首を掴む。
一気に腕を伸ばす。
ゴキッ、ペキッ、グキグキ、ポリポリ、コリッ。
あっという間に、複雑骨折の整復が完了する。
「良かった、彼女には大きな出血は無かったよ♪ ベルト機能解除」
御読み頂き、ありがとうございます。
ひとり一人に、積み上げてきた想いが、有ると思います。
きちんと、描写出来ればと、思います。
では、明日(12月29日(火)も、御楽しみ下さいませ。




