1-11.ウォーク・イン・ゲート
笹木武良です。
そう。生姜焼きって、奥が深いんですよ。
しかし、仲間って、良いですね。
頑張れます♪
『御願いです。是非!笹木様に、おいで頂きたいのです』
『侍』ヴァーチャルで、年配の欧州人男性は、武良に縋る様に、懇願する。
「デール農務省長官様。突然の申し入れで、申し訳なく思います。ですが、永遠にお別れではありませんよ。私が対応しなければ成らない『難易度が高く、急を要する案件』が入ってしまいまして。勝手ながら、『代役』の『侍』差し向けさせて頂きたいのです」武良は沈痛な表情で、一礼する。
『しかし!農業改革の成果が出始めました。此処で笹木様に手を引かれて仕舞いますと……』
「大丈夫です。農務省さんの人材育成も順調です。『農業改革』も軌道に乗りました」
『いや。あの。以前も『画期的な農法』を御指導頂いたではないですか。笹木様の絶大な信用度が有ってこそ、皆の足並みが揃って居るのです。どうか、御再考下さいませ!』
「はい。あの『農法』ですね。あの時、『『侍』のスタッフに相談します』と、私は一度日本に帰りましたね」
『あ。まぁ』
「今度、刺し向かせて頂く『侍』が、『画期的な農法』を考案した者、なのです」武良は、にっこり微笑む。
デール農務省長官の動きは、止まる。
「『是非、この目で、実際の成果を拝見したい』と、やる気を見せて居ります。どうぞ、一度面談して頂けませんか?」
『……わ、分かりました』
「勿論其の者とも、私は『侍』クラウドで、連絡を取り合います。御心配なく」武良は、駄目押しする。
『は、はい。其れならば、皆も納得し易いかと』
「ありがとうございます。其の物は『高畑久美子』と申します。こちらの者です」
武良の横に、可憐な大和撫子な、高畑久美子の立体映像が立ち上がる。
『初めまして。デール農務省長官様。高畑久美子と申します。農法に付いて、得意な方だと思います』高畑久美子は可憐に微笑み、一礼する。
『あ、おぉ。初めまして。女性であらせられるのですね』
「はい。花好きの、有能な女性ですよ。後程、経歴をお送り致しますね」
『承りました。では『侍』高畑久美子様。御連絡をお待ち致します。笹木様、今後も宜しくお願い致します』高畑と武良に、一礼する。
「ありがとうございます。では、また」武良は、返礼する。
『ありがとうございました』デール農務省長官の映像は、消える。
「では、高畑さん。あの国を、宜しくね」
『はい♪お任せ下さい。直接、農作物を確認出来るのが、楽しみです♪……笹木さんも、御気を付けて』
「ありがとう♪」武良は、気遣ってくれる高畑に、頷く。
高畑久美子の映像は、消える。
「さてー。これで引継ぎは、全部終わったかな?」
『はイ。お疲れ様でしタ』隼は、明るく言う。
「おやまぁ。俺って、こんなに『案件』抱えてたんだね」武良は、苦笑する。
「何を言う、ぽんぽんアイディアを、出しやがるのは誰だ」同僚で、『侍』クラウド管制室室長の、岡崎正也は、老け顔で苦笑しながら憎まれ口を叩く。
「出した側から、忘れて行くんだから……全部拾って置いてくれる、隼に感謝しろよ」ベテラン『侍』の高羽雅人43歳は、苦笑いで促す。
「高羽さん!それは、言い掛かりと言うモノですよ。なぁ、隼♪」武良は、隼に、擁護を促す。
『はいはイ。そう言う事ニ、しときましょウ。でハ、昼食をどうゾ。転移予定時刻から逆算すれバ、お早目にどうゾ』隼は、武良の擁護をおざなりに、予定を促す。
「高羽さん。見ての通り、現状は主従逆転してます!」武良は、高羽に嘆く。
「隼は、御前さんが入力した予定通りに、作者と違ってキチンと回してるだけだ。御前の嘆きは、自業自得と言うんだぞ」高羽は武良の右肩を、ポンと一つ叩いて、慰める。
「武良!行くぞ!野田の伯母ちゃんが、送別料理を用意してくれてるそうだ」岡崎は、さっさと管制室を退室し、食堂に向かう。
高羽も、武良も。やれやれと、後に続く。
高羽と武良が食堂に入って行くと、『野田の伯母ちゃん』が、小柄な身体で、仁王立ちに立って居た。
「やっと来れたか。時間少ないんだろ。タケ坊だけ、こっち来な」野田伯母ちゃんは厨房に向かって、アゴをしゃくる。
そのまま伯母ちゃんは、厨房に入ってしまう。
高羽と武良は目を合わせるが、高羽は『逆らうな!』とばかりに、武良を厨房に両手で押し込む。
武良は慌てて、コンロでフライパンを熱し始めた、野田伯母ちゃんの横に立つ。
伯母ちゃんは無言で、調理を開始する。
フライパンに油を引き、先ずは野菜を炒め始める。
ジュジュー!
あっという間に炒め揚げ、バットにあける。
次にタッパを開け、漬けダレに漬けて置いた肉を、ひとつ一つ丁寧に油切り網に乗せる。
ボッ!
再度コンロを点火する。
ジュー!
フライパンに手をかざし、熱を確かめると、素早く肉をフライパンに投入する。
ジュジュジュジュー!
カチン
コンロの火を落とす。
皿に、付け合わせ野菜を盛る。
フライパンの肉を盛る。
調理助手の、他の伯母ちゃんが、にこにこと飯と汁を盛ってくれる。
一枚の御盆に割り箸も置かれ、旨そうな『生姜焼き定食』が、出来上がった。
「おあがり」
野田伯母ちゃんは、不敵な微笑みを浮かべながら、武良を促す。
「あ、ありがとう♪」
変哲もない生姜焼き定食だが、香りは極上の風味を現している。
武良は、御盆を持ち上げ様とする。
「ここで、おあがり」
武良は、へっ? と成る。
伯母ちゃんは、厨房品出しカウンターに視線を向け、睨む。
武良も、釣られてカウンターに、視線を向ける。
「うぉ!」流石の武良も、驚く。
カウンターの向こうから、大勢の『侍』達や、『侍』に務めるスタッフ達が、鈴生りに覗いて居た。
「席に御戻りっ! タケ坊に、ゆっくり喰わせてやんなっ!!」厨房に、野田伯母ちゃんの大喝が響く!
慌てて全員が、散らばる。
「おあがり」再度、不敵に微笑む。
「い、いただきます」武良は立ったまま、絶品生姜焼き定食に、ひと拝みして割り箸を取り上げる。
パキン
割り箸を構え、飯を取り上げる。
肉を一切れ箸でつまみ上げ、口に運ぶ。
!「旨い!!」絶品だ!!!
思わず、飯を口に運ぶ。
肉を運ぶ。
野菜を運ぶ。
熱い汁を、啜る。
止まらない。
あっという間に、平らげる。
満足!
「はぁ〜、御馳走様!!」
コトン
目の前に、番茶の入った湯呑が置かれる。
「飲み終わったら、食堂に出な」不敵な微笑みで、伯母ちゃんは宣言する。
「そうか!肉から漬けだれを、キチンと切ること何だね!」武良は、閃きを口にする。
「だから、焼き時間が短く済んで、肉がふんわり柔らかく仕上がるんだね!」
伯母ちゃんは、肯定する様に、ふふんと微笑む。
「御馳走様」
旨い番茶を飲み終えた武良は、45度の正式礼法で、野田伯母ちゃんに礼を述べる。
ひらひら
伯母ちゃんは、幾分照れ臭そうに右手を降る。
武良は、厨房出口に向かう。
「また、おいで」
背後から声を掛けられた武良は、顔だけ半分振り返る。
「行って来ます」
野田伯母ちゃんの反応は確かめず、厨房を出る。
食堂に入ると、仲間達は皆、席に座って居た。
皆、にこにこ微笑み掛けてくれている。
何か言おうかと思って居たが、胸が一杯になる。
「行って来ます」武良は、再度述べる。
そして、満面の笑みで、全員に敬礼する。
「「「「「行ってらっしゃい」」」」」
全員が一斉に立ち上がり、返礼してくれる。
武良は、しばらく皆を見詰める。
武良は回れ右して、堂々と食堂を出て行く。
「『侍』クラウドに異世界フォルダを作った。此方と、あちら(異世界)の座標も確認固定したぞ」
岡崎は、管制長官デスクから、老け顔の渋い笑顔で確認する。
「オカ♪ ありがと。じゃぁ、隼。転移ゲートの魔法を起動してくれるかな」
『了解♪ 起動』
ヴン
先日と同じ、太陽ミニアチュアが現れる。
ゲート展開。
展開。
武良の脳内に居る、戦術管制A.I.プログラムの隼に、脳内思考制御会話で、指示を出す。
太陽ミニアチュアの中央が、ゆっくり窪み出す。そのまま平べったい円盤に変わり、成人より大きくなる。
「セルガさん」
『はい♪ 勇者様。今からお出でになりますか?』
「はい。ゲートを……あー召喚式を始めて下さいませ」
『承りました』
セルガさんはソプラノ歌手の様に、美声で『召喚式』を唱和する。
よし。隼。
はイ。魔力流入、開始。
勿論セルガさんの『召喚式』は演技なので、打ち合わせ通りに此方から、召喚式に転移に必要な魔力を流す。
指定の座標ニ、召喚ゲートヲ展開しまス。
デッカいピザの真ん中が更に薄く成り。湖畔の青い水面の様に、異世界の向こうが伺える。
そこに美しい碧眼を、真ん丸に見開いた驚きの顔で、セルガさんが固まって居る。
『ななな、何が? どうなって?』
「すみません。魔改造しちゃいました♪ 転送先の状況も確認したいですし」
武良は微笑みながら一歩進み、その水面に身を通し、くぐる。
完全なオープンにしなかったのは、検疫代わりだ。
水面から、異世界に降ろした初一歩のその床には、魔法陣が描かれて居た。
武良は振り返り、水面向こうの管制オペレーターや岡崎に手を降る。
岡崎は頷く。オペレーター達は笑顔で、手を振り替えして来る。
隼。ゲート・ダウン。
ダウン。
ヴン
ゲートは、ふっと消える。
武良が魔法陣の内側から、天井の高い屋内を見渡すと、完全武装っぽい兵士が、かなりの多人数、魔法陣をぐるりと囲んでいた。
良い香りが、鼻をくすぐる。
この香りは、何だろう?
空気は、良い香りがして、爽やかだ。
思わず、微笑む。
「ディグリー王都神官長。タキタル衛兵隊長。わかりましたか? 紳士的な勇者様ですは」セルガさんは、デザインが異なる神官衣装を着た痩身女性と、鎧の両肩に赤い布を貼った威丈夫に語り掛ける。
「その様ですな。では勇者様。此方へ」タキタル衛兵隊長が、呼び掛けて来る。
しかし武良は、セルガを伺う。セルガは、武良に頷き返す。
「お待ちなさい! タキタル衛兵隊長!! ディグリー王都神官長! 合意違反です!!」
セルガさんは、直ぐにタキタル衛兵隊長と、ディグリー王都神官長に向かい、鋭い言葉を発する。
「いいえ! 王都寄り、直ぐにお連れする様に申し使って居ります!!」
タキタル衛兵隊長は、戦場音楽溢れる戦場でも、良く通る野太い声を張る。
「御世話させて頂く優先権は、こちらに有ります!!」セルガさんも、負け無い。
武良は、この世界の政治形態を、早目に把握したいと思って居る。この様なせめぎ合いは歓迎だ。まぁ、短く終るとイイな。
さて。この神殿と、王や首脳部との主導権争いだが、今少しは流れを見る積もりで居る。俺を召喚した、セルガさんが何処まで頼りに成るか、確認して置きたいし。
おや?気が付けばセルガさんの背後の程近くに、彼女と一緒にディグリー王都神官長達を眺める、長身のイケメンが立って居る。
セルガさんと同系等の神官トーガで、鍛え上げられた身体を包んで立って居る。表情も、セルガさんの様に憮然として居る。
ふと、そのイケメンが武良の視線に気が付き、目が会った。
……暫く、見つめ合う。
イケメンは、パチパチと瞬きし、何故か次第に困惑顔に成る。
彼は、自分の右手をゆっくりあげ、人差し指で、自分を指し示す。
?
武良も、やや困惑顔になるが、こっくり頷きをイケメンに返す。
『……驚きました。私が見えるのですね』
「は?……はい。見えますよ」
そんなにハッキリ・クッキリと。って言われても、そこに実在してるじゃん。どゆこと?
マスタ武良。私のセンサーにハ、強い霊体エネルギーとして認識されまス。
え。そうなの!?
タキタル衛兵隊長と睨み合って居たセルガさんは、その武良の発言に驚き武良に向き直る。
武良の視線に気付き、彼女も武良の視線を追い、イケメンを振り返る。
彼女とイケメン神官さんと視線が絡んだ。
『今度の勇者様は、私が見える様ですね♪』
「まぁ♪ すると霊格も♪」
『えぇ。かなり御高いです♪ 私より上ですね♪』
セルガさんとイケメンだけで、盛り上がり始める。えー。勇者として呼んで置いて、置いて行くなよー
「えー初めまして。『侍』武良と申します。で、貴方はどんな存在で?」なら、本人に確認するしか無いよね。
『これは御丁寧にありがとうごうございます。私はこの教会を祝福する守護天使、ワードマンと申します』
「守護天使さん?」
『えぇ。レベル高い霊格をお持ちでないと、見えません』
キラキラ
キラキラ
急に東西南北?の四方に祀られていた獣神像の目が光る。獣神像から、獣神?が実体化し、台から降りて来る。
衛兵達は驚愕した顔で、歩き出した獣神に慌てて道を開ける。
気が付くと武良の四方に、四柱の獣神が、武良に向かい跪いていた。
「現人神を御迎え出来、こんなに喜ばしい事はありませぬ」鷲頭の獣神が顔を挙げ、やや目を伏せながら目元を柔らかくして申す。鷲も笑うんだ。
「しかり。更に。これ程までに強く、柔らかく、暖かい御柱は初めてうき」濃い焦げ茶色の猿神が、笑顔で申す。
「グル。確かニ。まるで大日の万物を育む御照らしの様でス」狼神?かな?漆黒の毛並が、イイね♪。
「ちい。此方の御柱勇者様なら、強大な魔王も眩しさに逃げ出します♪」
……白い、ジャンガリアン・ハムスター?ちっちゃ!
守護天使ワードマンさんも、苦笑いしている。
『これは私も顕現しないと、皆、納得してくれないかな?』
キラキラ
彼のすぐ後ろの神像の目が光る。おや、ワードマンさんの顔の、完全武装っぽい神像じゃん。
直ぐに神霊のワードマンさんが消え、顕現したワードマンさんが台から、先程までの神官衣装で降りて来る……やっぱりイイ男だね。
ディグリー王都神官長を始め、タキタル衛兵隊長さんや衛兵全員が、驚愕に竦んで動けない。
「タイ・クォーン教会・第一守護天使ワードマンから、物申す」ワードマンさんの、暖く通る声が、この広場に厳かに響き渡る。
ディグリー王都神官長は、慌てて首を下げる。タキタル衛兵隊長さんや衛兵達も、ハッと我に帰り争う様にひざまずく。
「今度の勇者様は、現人神でもあらせられる。今少し此の神殿に留まり頂き、タイ・クォーン教会・第一守護天使が直接、魔王・魔族退治の御説明を致したい」
「……恐れながら、王の下知が」ディグリー王都神官長も、粘る。
「承っておる。王宮守護天使様に、天話にて通した。ヴォーク神にも、御差配を仰いで居る。今少し待たれよ」
「はっ」ディグリー王都神官長は、諦めた様に答える。
うーん。どう言う力関係なんだろ?『じゃん拳』の様な、上下左右の地位が、こんがらがってる様子だな。とても不思議な、パワーバランスだなぁ。ここは、どう言う命令系統で統治・運営されて居るのだろうか?。権力者達の、『思惑』も錯綜してるだろうしー。『立ち回り』の判断が、難しいなぁ。まぁ、ワードマンさんに、詳しく聞いて見るか。
また、此方の王や首脳部の頭の切れはどうかな。
「ちぃ。勇者様。私は鼠族神のテツーと申します。現人神様の御名前を御伺いして宜しいですか♪」
可愛い声が、足元から聞こえて来る。
視線を下げると、ちっちゃいハムスターな獣神が、可愛い声で要請して来てる。
武良はその可愛さに微笑み、思わずハムスター獣神に近ずき、頭を下げる。
「こんにちは♪ 笹木武良と、申します♪」
ゴン!
ガッシャン!
ドゴゴゴゴゴゴゴゴ
神殿が、強く揺れる!
「あ痛た。何に、ぶつかったんだ?」武良は、額を軽く押さえる。
聖句陣の境に、見えない壁を構成していた様だ。見ると床の聖句陣が消えて居た。
セルガさんも、ワードマンさんも、四神達も、ディグリー王都神官長も、タキタル衛兵隊長も、王都衛兵達も、余りの事態に固まってしまう。
「うそだろう……最強のはずの、『教会聖句陣』が、壊れたぞ」
「確か。前回の魔節で、強大魔王を閉じ込めれたよな。そのまま守護天使様が、浄化されたよな」
「……今度の勇者様て、どれだけのパワーを御持ちなんだよ」
五感強化されて居る耳に、衛兵達のささやきを拾う。
早速やらかしたかな?武良は、笑顔で誤魔化す。
隼。神殿の防衛機能まで、魔力不足なのかな?。
いいエ。主の聖魔核の他ニ、防衛機能専門の副聖魔核が3つ備わって居まス……『侍』スーツの最低限の『防御オーラ』が、一つの副魔核の『防衛機能』を、弾き返してしまいましタ。現在、ダウンしてまス。
あー教会神殿の機能強化も考えなきゃな。備忘録に入れといて。
了解。入れましタ。
御読み頂き、ありがとうございます。
超人集団『侍』の、日常を書いて見ました。
野田伯母ちゃんの『生姜焼き定食』、食べたい。
次回は12月27日(日)を予定して居ります。
頑張ります。




