第六章 敵陣の中で
「良し、出発」
レンの静かな号令がブリッジに響くと同時に、スター・ガーディアンはデブリ帯を突き抜けた。
「了解! 最高のショーステージへ案内するわ!」
カレンが操縦桿を激しく操作する。
艦体は通常のワープ航法とは異なる、慣性を無視したトリッキーな旋回を見せた。
エコーが敵艦隊の通信網に流し込んだ誤認データ――『自滅ウイルスによるシステム汚染』というデマ――が見事に機能していた。
巨大な要塞群が、まるで巨大な生物が身をよじるように動揺し、わずかにその中心部へと続く包囲網の隙間を開けた。
「……信じられない。彼ら、本当に道を空けたわ」 ミサキがモニターを食い入るように見つめる。
「エコーの仕掛けたハッキングが、彼らの『恐怖』を最大限に煽っているんだ。……自分たちの命綱であるエネルギー網が汚染されることを恐れている」 アルトが冷静に分析する。
「中心部に到達まで、あと10秒!」
カレンのカウントダウンと共に、視界が劇的に変わる。
そこは、暗い宇宙の墓場とは別世界の光景だった。
幾千もの光り輝くケーブルが、巨大な恒星の残骸からエネルギーを吸い上げ、網目状に要塞を繋いでいる。
その中心に、我々と同じ「地球の影」を抱いた、彼らの母船らしき巨大な構造体が鎮座していた。
「到着。……囲まれるまで、あと数秒ね」
カレンがピタリと船を停止させる。周囲を埋め尽くす敵艦隊の砲口が、一斉にスター・ガーディアンへと向けられた。至近距離。
逃げ場はどこにもない。
「レン、今だ!」
アルトが叫ぶのと同時に、レンは通信機を握りしめた。
「全艦隊に告ぐ。我々は交渉に来たのではない。我々は貴殿らの先祖が愛した『地球』から来た者だ。貴殿らがこの死の檻で繋いでいるエネルギーは、もはや我々が共有すべき『銀河の遺産』である」
艦内に張り詰めた空気の中、モニターの向こう側に、初めて「彼ら」の指揮官の姿が現れた。 飢えた瞳――しかし、どこか誇り高き、かつての地球人の面影を残した姿だった。
「レン、彼らが……返事をしてきたわ」 エコーの声が少しだけ震えている。
「エコー、繋げ。今、ここで全てを終わらせる」
敵艦隊の中心部で、沈黙の対峙が始まった。
撃てば人類もろとも自滅する「引き金」を前に、レンは冷徹な戦略家として、最後の一手を打とうとしていた。




